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高貴な王子は甘く囁く  作者: ミケ~タマゴ
2/6

♡02話 芋料理をいただきました


 

 

「どうしても断ると言うのですか!」


「ええ、我家は聖四公家の一つ、東の守護を任された、初代王に連なる枝の古き血筋……それが失われてもよいとお考えなら、『どうぞご命令を』とお伝え下さい」


 王子様に会ったあの日から、3ヶ月ほどが経ちました。

 ユーキサンドラは家に王家からの使者というのが来たので、応接室の父親と使者という人の会話を、庭に面した窓の外から盗み聞きしていました。


「お分かりになりましたか? お嬢様」


 暫くして使者が帰って、応接室が静かになると、側にいた盗み聞き仲間兼教育係のメアリが尋ねてきました。


「いえ、全然」


 父親の不機嫌そうな態度は分かりましたが、何だか聞きなれない言葉が多くて、話はよく分かりませんでした。


「王家からお嬢様を『王子様のお嫁さんにホシーよ』と言ってきたのですが、旦那様は『跡継ぎの一人娘だからムリー』と答えました」


 分かりやすく説明してくれるメアリにふんふんと頷きます。


「『まだ、子どもは産まれるでしょ』と使者の方が言ったら、『妻は体が弱いからムリー』と旦那様は答えられました」


 ふんふんふんと頷きます。


「『じゃ、奥さんとは別の女の人に来てもらって、産んでもらったら?』と使者の方が言ったら、『妻を愛してるからムリー』と旦那様は答えて、大変不機嫌になりました。

 なんだかんだと言い合って、『国守ってるふるーい家だけど、なくなってもよければ、王様に命令させな』と旦那様が言われて、またなんだかんだと言い合ってましたが、結局は使者の方があきらめて帰られました」


「王子様のお嫁さんになるのを断ったということね?」


 あの日会った王子様の顔が頭に浮かびましが、断ってくれてよかったと思いました。


「そうです。お嬢様はこの家を継ぐお方です。お婿さんには来ていただかないといけません」


「ええ、この家をつぐのよね? 分かってるわ!」


「では、そのためにも体を丈夫に! 鍛えましょう」


 元気よく返事をすると、メアリが領主になるのに必要な事を教えてくれます。手を握られ、屋敷の外まで連れ出されました。


 ユーキサンドラもメアリもネズミ色の動きやすい服を着ています。下はネズミ色の軽い素材のズボンです。日差しをよけるために頭にはタオルを被って首もとで縛ってあります。

 母親の体が弱いので、同じようにならないようにユーキサンドラには丈夫になるような特訓メニューが組まれていました。準備運動の後は、走り込みです。


「さあ、お嬢様、屋敷の回りを走りますよ。呼吸と軽い足運びが肝心ですよ。頑張って走りますよー」


「はい!」


 はりきって返事をして、ユーキサンドラはメアリについて走り始めました。





     ◇◇◇





「いいお芋ね。この品種はここの土と相性がよさそうね。あとは味だけど」


 掘り起こした芋を手に取って、ユーキサンドラは感心したように頷きました。


「味がよかったら、種芋を配りますか?」


 隣で一緒に芋を掘り起こしていたメアリが、鍬を持つ手を止めて聞いてきます。


「そうね、去年不作だった村に配ってみましょうか」


 メアリと話している間に何人かの従僕が現れて、掘った芋を篭に入れて去っていきました。


 ここは屋敷の庭の一角に作られた畑です。健康のために始めた園芸が畑になりました。食べられる物を作りたくなった結果です。花より芋でした。

 色々な物を試して、良かったものは領民に紹介しています。作れという強制ではなく、いくつかの村などに配るだけです。


「学院に入ったら、畑の世話をする暇もあまりとれなくなるかしら」


「それは仕方ないかと思います。代わりの者がお世話しますよ。お嬢様はお勉強に専念しませんとね。婚約者もお決まりになったんですよね?」


「ええ」


 メアリの言葉に頷きました。まだ、メアリの方にははっきりした事は伝わっていなかったようです。

 王宮からの使者が来てから、7年近くが経ちました。あの時は婚約は決まりませんでしたが、今朝、父親に婚約が決まった事を伝えられました。


「聖四公家のノースリッチモンド家の次男の方よ。宮廷魔術師でとても優秀な方なんですって。6歳年上の方だとか……。賢者の塔で修行中だから、それが終わるまであまりお会いできないそうだけど」


「そうですか。まあ、貴族の女性の場合は社交界デビューの時に、初めてお相手と会われる方もいらっしゃるとか聞いてますよ。元気で頑張る種馬ならいいんじゃないですかね」


「え?」


「元気で頑張る種芋がいいですよね」


 何かよく分からなかったので、首を傾げると、またよく分からないことを言って、メアリは芋を手にニッコリ微笑みました。


「もう、今日はここまでにしましょうか。着替えて芋の試食をしましょう」


「ええ」


 何かごまかされたような感じがしましたが、素直に頷きました。試食は楽しみです。





 着替えて茶話室に行くと、なぜか誰もいませんでした。テーブルの上にはいくつか芋を使った料理の皿が並べられ、ティーポットやカップも置いてあり、準備は出来ているようです。


 なぜ、誰もいないんだろうと不思議に思いながら、椅子に腰かけました。


「やあ、久しぶりだね」


 若い男の人の声がして、驚いて振り向くと、後ろに金髪の青年が立っていました。美形だけど、知らない人です。顔はいいけど、見たことのない人物です。目鼻立ちは整っているけど、どこの誰ともわからない青年です。心臓がドキドキと脈打ちます。


 鮮やかな青色の上着とトラウザー。白いシャツに首もとにはレースのクラバット。クラバットには大きなサファイアが飾られていました。


「不審者……」


 椅子から立ち上って、逃げようとすると、青年が慌てて背凭れ越しに片手を伸ばして、腕を掴んできました。


「わたしだよ。わたし! わたしだってば! 忘れてしまったのかい?」


 焦った青年がどこぞの詐欺師のように声をかけながら、顔を覗き込んできます。目についた青い色に記憶が刺激されました。


「あっ! あなたは王子様!?」


 クラバットに飾られた大きなサファイアに話しかけました。


「そう、思い出してくれたのかな」


「ええ、思い出したわ。記憶にある姿と全く変わりませんわね」


「えっ!?」


「相変わらず、大きくて何て立派な……」


 うっとりとサファイアを見つめると、青年はこちらを掴んでいた手を離して、手でそれを隠しました。


「おーい、これじゃなくて、わたしの事を思い出してほしいんだけど」


 青年が身を屈めて、今度はちゃんと真正面から目が合うように見つめてきました。真っ青な目に記憶が刺激されます。

 目を見張り、青年の顔をよく見ました。


「……年を取りましたね」


「あっ?」


 記憶にある姿より、だいぶ大きくなっています。肩まであった髪は首もとまでに短くなり、背がかなり伸びました。肩幅も広く、手足も伸びたようです。

 脳ミソが少なくなったわけではなさそうですが、全体のバランスを見ると頭が小さくなったようです。

 ふっくらしていた頬も引き締まった感じになり、可愛くなくなりました。

 これではもう、カボチャパンツは似合いません。穿いたらおかしな人になりそうです。


「えーと、お久しぶりです。なぜ、こちらにいらっしゃるのでしょう?」


 不審者じゃない事は分かりましたので、ここにいる理由を聞いてみます。


「君に会いたくて……婚約が決まったんだよね? きみに婚約を断られてわたしは傷ついていたんだよ」


「断ったのは父ですわ。あの頃、わたくしはまだ5歳ですわよ」


 恨みがましく言われて、責任の所在を明らかにします。


「じゃあ、今のきみに直接婚約を申し込んだら受けてくれるかな?」


「断りますわ。わたくしこの家の跡継ぎですもの。それにすでに婚約してるのに、また婚約なんて受けるわけありませんわ」


「あの頃も少しおませさんだったけど、だいぶ話し方が固くなった?」


 断ると言ったのに、変な事を聞かれました。


「それは、もう学院に入る年になったんですもの。相手によって話し方を変えるのは当然ですわ。あの頃よりずっと大人になったんですの」


「大人ねえ」


 疑わしげにそう言うと、王子様は顎に指をかけてきました。クイッと上向きにされます。


「まだ、恋も知らないお姫様。わたしと恋をしませんか。申し込みのお返事はそれからで」


 真っ青な目に見つめられて、何だか背すじにゾクリとしたものが走りました。慌てて首を振って、顎にかけられた指から逃れます。


「オタワムレを……殿下」


 ここはこのセリフが正しいはずです。偉い人に言い寄られたら、女性はこう言わなければなりません。


「寂しいなあ。きみには『アレク』と呼んで欲しいな。きみの事は『ユーキ』と呼んでいいかな」


「そのような事は不敬でございます。たいして親しくもないのに、愛称呼びなどとんでもございません」


 王子様の問いに、部屋の窓の側から返事がありました。


「カーテンにメアリ!?」


 カーテンの影からメアリがこちらに顔を覗かせていました。思わず名前を呼んでしまいます。


「きみは! 二人切りにするように、使用人達には申し渡していたはずだが?」


 憤りのこもった王子様の声が部屋に響きます。


「旦那様も奥様も王宮に呼び出され、急遽お出掛けになりました。

 先触れもなくお越しになった殿下が当家のお嬢様と二人切りになりたいとおしゃっる」


 何だかメアリの顔がどんどんこちらに近くなってきます。音もなく、体のブレもなくスーッと近づいて来ているようです。


「間違いは未然に防がなければなりません。お嬢様の教育係として身命を賭してお守りせねばと、カーテンの影から見守らせていただいておりました」


「ほほう、その言い方だとわたしが邪な事をする気でいるように聞こえるな」


「まさか、そのような事は考えておりません。わが国を背負う殿下が幼い女の子がお好きな方などと! まさか、そんな! 好き者とか変質者とか変態とか、そのような輩と同列に考えるなどと不敬な事は思っておりませんですとも!」

 

 メアリが大きな声で、否定の言葉を言って、王子様の真正面に到着しました。


「と、言うとでもお思いですか?」


「いや、何だかひどい言われようなのかな? 変な事をする人と同じに考えてるって事だな?」


 王子様が簡単に言ってくれました。ようするにメアリは王子様を好き者とか、変質者とか、変態と同列に考えてるということだと分かりました。不敬です。


「今すぐどうこうしようとか、さすがに考えないよ。彼女に好きになって貰いたいから、これからは時々会いに来ようかなとは考えてるけど。今日は挨拶みたいなものだね」


 王子様はそう言って肩をすくめました。


「それは無駄で迷惑な行いだと思いますが? お嬢様にはすでに婚約者がおられます」

  

 メアリが王子様を睨むようにそう言うと、王子様はこちらを見ました。


「婚約したっていっても、今は誰も好きな人はいないよね? わたしが会いに来るのは迷惑かな?」


「今は芋が好きです。ゴチャゴチャ言い合って、せっかくの芋料理が冷めるのは迷惑です」


 王子様の質問にキッパリ答えると、場がしんとしました。全員の目がテーブルの料理に向かいます。



 その後、王子様とメアリと三人で、美味しく芋料理をいただきました。味もいい芋でした。








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