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高貴な王子は甘く囁く  作者: ミケ~タマゴ
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♡01話 王子様に会いました

 


「まあ~!可愛いわ」

「本当に可愛いですわ!」

「どの子もみんな、可愛いですわね~!」


 広い部屋に、ワイワイ、キャアキャアと若い婦人達のはしゃぐ声が、響いています。


 ユーキサンドラは顔を下に向けると、自分の格好を見て、ハアとため息をつきました。


 黒い膝丈のドレスはパニエで膨らみ、白いヒダヒダのレースが、ドレスの裾から見えています。肩も、肩から二の腕の辺りまでふくらんだ袖の袖口も、胸元にも過剰なレース。

 黒のドレスに白いエプロンをさせられていますが、このエプロンも肩紐も胸元も裾もフリフリです。おまけに華美なレースの付いた帽子までかぶらされています。


 赤、青、緑、黄、桃色……部屋にはドレスの色は違いますが、他にもフリフリの格好をさせられた女の子がたくさんいました。3歳から5歳位までの小さな女の子達です。


 今日は王妃様主催の特別なお茶会ということで、ユーキサンドラはこんな格好をさせられて、母親に王宮まで連れてこられました。

 部屋の半分にはテーブルや椅子が用意され、王妃様や母親、他の女の人達が座っています。お菓子やお茶を口にしながら、こちらを見てはガヤガヤ騒いでいます。


 もう半分には厚手の絨毯が敷かれ、フリフリヒラヒラの格好をさせられた子ども達が集められています。

 絨毯の上には縫いぐるみやおもちゃが置かれ、遊べるようになっていました。


 こちら側の壁際には、子ども達を見守るように何人かのメイドもいて、端に置かれたテーブルに子ども用のお菓子や飲み物もあります。


「さすが王妃様、素敵な企画ですわ」

「ええ、本当に。生きたお人形のようですわね。王妃様に感謝しますわ」

「こんなに可愛いなんて、感動ですわ。王妃様のお考えは素晴らしいですわね。」


 真ん中のテーブルに偉そうに座っている金髪のおばさんを、回りのおばさん達が褒めています。ああいうのを『コビる』というのかもしれません。

 まだ若いと言い張っても、5歳のユーキサンドラから見たら、あちらのテーブルの生物は、母親を含めて全員おばさんです。


 回りの子ども達を、ユーキサンドラは顔を動かせてぐるりと見ました。


 何人かは縫いぐるみやおもちゃで1人で遊んでいますが、仲よくなって一緒に遊んでいる子達のグループもいくつかできています。

 金髪縦ロールの赤いドレスの女の子が、偉そうに何人かの子を侍らせています。あれは王様の姪だとかいう子です。

 うっかり目が合ってしまいました。睨みつけられて、こちらに来そうな気配がしたので素早く逃げました。




 庭に面したガラス扉から外に出ました。ちょうどタイミングよく、大人達に見咎められずに済んだようです。


 広い庭の隅に黒い固まりがあるのが目につきました。固まりが動いています。


 うさぎです。黒うさぎです。でっぷりとして、ふてぶてしそうな顔つきの、なかなかいい感じのうさぎでした。嬉しくなって、触ろうと近寄るとうさぎは逃げました。ちょっとくらい触らせてくれてもいいのに、ケチなうさぎだとユーキサンドラは憤りました。




 追いかけました。意地になって追いかけました。血をたぎらせ、逃げるものを追いかけるという野生の本能を呼び起こし、絶対捕ってやると全力で追いかけました。気分は黒いフリフリドレスを着た狩人です。


 狩人は獲物を見失いました。がっかりして、息を切らせながら立ち止まると、知らない場所にいる事に気づきました。


 綺麗な花々が咲いているのが見える小道です。ここがどこだか分かりません。血迷って、迷ったかと迷子になった自分を悟りました。


 どうしよっかと回りを見渡すと、隅の方にあるベンチに人が座っているのが見えました。トコトコと近づいていくと、座っているのは、ユーキサンドラより大きい年上の金髪の男の子でした。屋敷の家令の孫の男の子より年上に見えるので、10歳より上の子だろうと思いました。


 膝の上に両腕を置き、顔を伏せています。肩がわずかに震えて、小さな嗚咽のようなものが聞こえています。泣いているようです。


「どうしたの? どこか痛いの?」


 知らない年上の男の子でしたが、心配になってつい声をかけてしまいました。男の子がビクリと弾かれたように顔を上げます。


 涙で潤んだ真っ青な目と目が合いました。上気して赤く染まった頬には、涙の跡があります。目鼻立ちの整った綺麗な男の子でした。


 肩口までの真っ直ぐな金髪は、先がきれいに切り揃えられています。襟と袖口に豪華なレースの付いた白いドレスシャツを着て、首もとにはレースのクラバットをつけています。クラバットにとめられた、大きなサファイアが目を引きます。深い青色の美しい宝石です。


 腰には光沢のある濃い青色のサッシュベルトを巻き、外側に飾り紐がついた、足の線が出る細身の短めの水色のズボンを穿いています。レースの付いた白い靴下が見えています。足に履いてるのは飾り釦の付いた布製の茶の靴です。


 何だかキラキラしていて、『へへえー』と叫んで地面に伏したくなるような雰囲気のある男の子でした。


「……きみは……」


 涙の跡の付いた頬を手で拭いながら、男の子がこちらを見ます。ユーキサンドラの姿を確かめるように、何度か視線が上下しました。


「ああ、母上の趣味に走ったしょうーもない、子どもには迷惑そうな、お人形遊びのお茶会から抜け出して来た子だね?」


 分かったと言うように頷いて質問されて、ユーキサンドラも『まったくだ』と同意の意味も込めて頷きました。

 いいとしになった大人達には、フリフリモコモコされる、子どもの気持ちも考えて欲しいものです。


「王子さま?」


 男の子の言葉から、誰なのか分かりました。いや、名前とかは分からないけれど、身分は分かりました。

 真っ直ぐな肩口で切り揃えられた金髪。青い目。絵本の王子様のようです。これで冠と縦じまのカボチャパンツを穿いていれば、完璧な王子様だったのにと少し残念な気持ちがしました。


「そうだよ。第一王子のアレクサンダーだ。きみはどこの誰なのかな? 名前は言える?」


 5歳にもなったレディに『名前は言える?』とは失礼な言い方です。ムッとしましたが、気を取り直して笑顔を浮かべました。

 マナーの先生に教えられた、何も考えてなさそうな満面の笑顔です。子どもの内は、無邪気そうな笑顔が受けるそうです。


「わたくし、ユーキサンドラ・ナナミナ・ノノカ・イーストラブボンドと申します。王子さまにお目にかかることができてコーエイですわ」


 お目にかかるとか、コーエイの意味は実はよく分かりません。偉そうな人むけの挨拶として教わった言葉です。


 ドレスを両手で摘まんで広げると、斜め後ろに片方の足を引き、もう片方の足の膝を軽く曲げて挨拶します。背筋はきれいに伸ばし、お尻が後方に出ないように身を沈ませます。

 マナーの先生に合格点を貰った挨拶です。上品で優雅と言われるものになったはずです。男の子が驚いたように瞬きしました。


「聖公爵家の子か。さすがだね。その年で見事なカーテシーを見せてもらったよ」


 褒められて気持ちよくなります。マナーの先生の前で、生まれたての小鹿になりそうな思いをしながら、何度も繰り返し頑張ったかいがあります。にやけそうになる口元と戦っていると、男の子が立ち上がりました。


「わたしは、アレクサンダー・ユリシーズ・コウキナー・オーゾック・ドリームライトと申します。こんな愛らしい姫君にお会いできて、幸甚(こうじん)に存じます」


 胸に手を当てての優雅な一礼と、正式な自己紹介です。お姫様扱いは嬉しいですが、分からない言葉を言われました。

 相手もきっと分からないで使っているのです。お互い分からない言葉を最後に言い合うのが、挨拶なのでしょう。


「姫、よろしければ、こちらに一緒に座りませんか?」


 男の子がベンチの方に手のひらを向けます。上品な手つきです。誘われてベンチに近づくと足を止めました。少ーし座席が高いようです。ここに優雅に見せかけながら、座るための技を考えます。


 『あ、あれは何!?』とか向こうの方を指差して、男の子が見ていないうちに足をかけてよじ登るのはどうかなーとか、考えていると男の子の手が両脇に触れました。


 男の子はユーキサンドラを抱き上げると、ベンチに座ります。男の子の膝の上に、向かい合わせに乗せられました。


 驚いて固まっていると、男の子が間近に顔を覗きこんできました。


「母上にも困ったものだと思っていたけど、確かにこれは可愛いね」

 

 そう言って男の子はユーキサンドラの頬に触れたり、髪に触れたりします。


「キレイな黒髪だ。虹のように何色かに光ってる?この黒い目も同じように、不思議な光り方をするね。本当に可愛らしいなあ」


 金縛りからとけて、いきなり抱き上げたことに文句を言おうと思いましたが、感心したように『可愛らしい』と言われて、文句はやめました。女心がよく分かっています。


「えーと、もう大丈夫なの? 泣いていたけど平気なの?」


 気づかいを見せると、男の子の表情が強ばりました。黙ってしまった男の子に、まずいことを聞いたのかなと思い始めた頃、男の子は口元に小さな笑顔を浮かべました。何だか見てると胸がズキンとするような笑顔でした。


「わたしはね。どんなに辛くても、悲しくても、人前じゃ、泣いちゃいけないんだよ。わたしが泣くと責任を取らされる人が出るし、王になる者は、人に弱いところは見せちゃダメなんだ。だから誰にも秘密にしておいてね」


「泣いてたのはヒミツなの?」


「うん」


「分かったわ。ヒミツね」


 『ヒミツ』は知っています。誰にも言ってはいけないということです。


「悲しいことがあったの?」


「うん、とてもね」


 答えた男の子の目がまた潤みます。何だか可哀相になって男の子に抱きつきました。慰めたいと思ったら、男の子と触れ合った胸元から淡い光がこぼれ始めます。


「なに? 暖かい? これは……」


 驚いた声が、上がった後にギュッと抱き締められました。


「ああ、慰めてくれてるんだね。ありがとう」


 肩口に顔を伏せてきた男の子が、また泣いている気配がしましたが、黙っていました。王子様は大変なんだろうなと思いました。


 しばらくそのままでいましたが、男の子は泣き止むと、みんなが心配するだろうからと手を引いて母親のいる部屋まで連れていってくれました。


 案の定、騒ぎになっていましたが、庇ってくれようとした男の子自身が捜されていたようで、男の子が王妃様にたくさん怒られてくれました。『身を挺してシュクジョを庇うシンシ』の姿を見せてくれました。おかげで、あまり怒られずにすみました。


 叱られている王子様に『大変だろーけど、頑張れ』と心の中でエールを送って、その日は母親と帰りました。






 

 1話、4500文字前後で長めですが、6話で完結の話です。

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