序章 男の末路
どうしてこうなった。
俺は言うとおりにしていたのに、契約通りに命令には従ってきたのに。
「助けて、助けて、助けてくれ……」
何度助けを求めたことか。何度この苦しみに抗おうとしたことか。
誰も俺の言葉を聞き入れちゃくれない。おかしなものを見る目を向ける。
――お前に救いはない。お前はもう用済みなのだから。
内側から響く声はそう呟く。与えられたはずの力は内側で暴れ、俺を蝕んでいく。
畜生。畜生。どうして、どうしてだよ。
どうして言うことを聞かなくなっていく。
いつから俺の体は俺のものじゃなくなったんだ……
気が付けば、銀行に足を運び、暴れまわっていた。
助けを求めた。医科技師の少女に助けを求めた。
だけど、助けてくれない。向けられたのは冷たい目だった。
そして、凍らされ、焼かれ、牢獄行き。
「助けてくれ……」
今も苦しい。体が焼かれたこととは別の苦しみは終わらない。
まるでわざと殺さないでその様子をどこかで楽しまれているみたいだ。
「……いいよ」
最後に聞こえた救いの声。それは天使様の声だ。
すぐそばに舞い降りて助けてくれるという。
やった。やった。これでこの苦しみから……
男のいた牢獄から破裂音がしたのはその直後だった。現場に駆けつけてみると、そこには牢屋中に飛び散った男の肉片があったという。