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断末魔

作者: Timemaster
掲載日:2016/03/11

 全ての人の両肩には、生まれた時から同生

同名と呼ばれる神が寄り添っている。正式に

は、同生天、同名天という。常に人の両肩に

あって、行動の善悪を記録して閻魔法王に報

告する二神である。左肩の神は悪を記しその

姿は羅刹のようである。右肩の神は善を記し

その姿は吉祥天のようである。双童とも呼ば

れる……。

 

 昨日までの梅雨空が嘘のように晴れ渡り、

シャンシャンと鳴く熊蝉の声をうっとうしい

と聴き流しながら、諸星亘はいつもの通勤道

を自転車で急いでいた。

 一瞬、何が起こったのか、分からなかった

後ろの方から、キキーというブレーキ音が聞

こえたと思ったら、亘は、自転車ごと持って

いかれていた。痛みはあまり感じなかったが

意識が遠のくのはしっかりと感じた。


 自宅から近い実業家が建てた記念病院の集

中治療室のベットの上で亘は、意識を取り戻

した。医者の話によると、頭を強く打ってい

て、1ヶ月間植物状態になっていたという。

ペットで脳のスキャンをして調べたところ、

生涯植物状態になるという容態だったらしい。

医師団は、家族の了解を取りつけて2013

年で最先端の脳外科手術をしたという。


 前例はなかったが、脳の神経組織をiPS細

胞から培養し直接脳に移植するという危険な

オペレーションだった。

 そのお陰で、他の人ではありえない回復力

を見せ、意識を取りもどしたのだ。


 幸い、一般病棟の個室は空きがあったので

亘はしばらく、入院する事になった。母親の

瞳がそばについていてくれて色々、面倒を見

てくれた。疲れているのか、瞳はうとうとし

ている。この1ヶ月間、亘の事が心配で、ろ

くに寝ていないのだ


 その時、亘は両肩に何か違和感を覚えた。

誰かが、自分を見ている気がしたのだ。左肩

の方に悪魔のような恰好の男が立っているの

が見えたのだ。それだけではない。右肩の方

には女優かと思うほどの美女が立っていたの

だ。亘は飛び起きて、驚きながら言った。

「誰ですかあなた達は?何をしているのです

か?ぼくになにか用でもあるのですか?」

 うとうととしていた瞳は起きて亘に尋ねた

「亘、あなた何を言っているの?誰かいるの

?お友達?」亘は答えた。

「母さん、この人たちはだれなの?」

「え?誰?誰も居ないわよ?」瞳は不思議そ

うに亘の目を見た。亘は瞳の目をじっと見返

した

「俺の、両肩にいる男の人と女の人だよ?」

「誰も居ないわよ。あなた、疲れているのね

もう寝なさい。私も横にならせてもらうわ」

瞳は横にある、家族用のベットで眠った。

すぐに瞳は、深い眠りに就いた。


(なんじゃ?亘はワシらの姿が見えるのか?)

左肩の悪魔の様な風貌の男が意志を伝えて来

た。声というより、頭の中で話している様だ

った。

(私たちの姿が見えるのは、まだ、早いわね)

右肩の女優の様な風貌の女が意志を伝えて来

た。こちらも、声というより、頭の中で話し

ている様だった。

「何なんだ?あなた達は誰なんだ?何をして

いる?何なんだこの頭の中で響く意志のよう

なものは?」

亘は、瞳の言う通り、疲れているのだと思っ

た。しかし、確かに2人は観えるのだ。

 亘の脳には事故の衝撃を受けた損傷とは逆

に、普通の人なら眠っていた脳の機能が働き

だしたのだった。本来は観る事が出来ない双

童の姿を観る力を得る事が出来るようになっ

たのだ。



(ワシらの姿と声が分かるのなら仕方がない

ワシの名前は同生天じゃ。主におぬしの悪行

を閻魔法王に報告しておる)左肩の悪魔が話

した。

(私の名前は同名天ですわ。私は善行を報告

させてもらっているわ。私等2人を人は双

童とも呼んでいるわ。)右肩の女優が話した。

「同生天に同名天、双童だって?悪行に善行

を閻魔法王に報告するだって?」亘は怪訝そ

うに呟いた。理解するのに時間がかかった。


 亘の勤務する会社は、会社とは名ばかりで

主に、中国系の企業とつるんで、ブランドの

コピー商品を販売したり、絶対儲かると言っ

てお年寄りからダチョウの農場経営の出資を

募っては、その配当金を自転車操業をして、

残りを横領し、あげく、計画倒産するという

悪徳組織だった。


 亘は、唇を震わせながら、左肩の悪魔に尋

ねた。「俺のしてきた悪行はもう閻魔法王と

やらに知れているのか?」

左肩のお方が話した。

(そうじゃな、資本主義の社会においては、

詐欺行為と言うのは極刑より重いと判断され

るのじゃ。人間の法ではなく閻魔法王の采配

じゃからな。)と同生天は教えてくれた。


 双童とコンタクトが出来るようになってか

らの亘は、実に人柄が豹変してしまった。以

前の組織とは一切関わらなくなり、悪行はせ

ずに、女優の様な美女に褒められて、善行を

報告してもらいたかったからだ。

 汚い事をして得たお金だったが、大地震の

被災地に募金をしたりした。積極的にボラン

ティア活動をするようになった。


(亘は、ワシらが悪行を閻魔法王に報告する

事がよっぽど身に染みたようじゃな。だが、

汚れた金でいくら孝行してもその罪は消えな

いのじゃ。残念な事じゃな。)

(あら、私たちは、善行と悪行をありのまま

に報告するだけよ。最後の善悪を判断するの

は、閻魔法王様ですわ。)


 すいぶん長い月日が流れた。亘は、76歳

になっていた。相変わらず行いの殆どが、善

行になっていた。そして、双童に、自分の寿

命の無い事を告げられた。

(亘よ、言っておく。死の瞬間の少し前には

気を付けろ。いいか?決して負けるんじゃな

いぞ!)


 亘はベットの上で苦しんでいた。見守る家

族には断末魔に見える。しかし、当の本人は

違っていた。亘には、壮絶な戦いが待ってい

たのだ。


 地獄の入り口前の広場に亘は陣を構えてい

た。正面に巨大な高貴な風貌の人物が立って

いた。ひと目見て分かった。閻魔法王だった。

その両端に双童がこちらを見ていた。

 (これより、諸星亘の最終決戦をとり行う

同生天、同名天はそれぞれの位置をとれ)

閻魔法王が怒鳴った。すると左側から同生天

が悪魔の風貌の軍勢を召喚した。千人は下ら

ないだろう。同時に右から同名天が神の軍勢

を召喚した。こちらもかなりの数の軍勢だ。

(始め!)閻魔法王の掛け声で両者の軍団が戦

闘を始めた。悪魔の軍団が神の軍団に襲いか

かった。悪魔が槍で神を切りつけた。その痛

みは直接亘の心の痛みとなった。心臓をつか

まれるような痛みに感じられた。


(亘よワシの軍勢の元に下れ!お前の犯した

罪相応の悪魔の軍勢でお前の牙城を陥落させ

ようぞ)同生天はそう告げた。

(亘、心配しないで、私が神の軍団で守護し

てあげるから、痛みに耐えるのですよ)同名

天がそう亘を励ました。


 これは、悪魔の軍団と神の軍団との最終決

戦である。つまり、断末魔の一瞬こそが、ハ

ルマゲドンそのものだったのである。

 善と悪との戦いの勝敗で、次にどの世界の

どの生命に生まれ変わるかが閻魔法王の裁量

で、決定されるのである。

 悪行を多くした者は、当然、この戦いが非

常に苦しいものになり、より強大な最終決戦

の苦しみに苛まれるのだ。負けてしまうと、

最も痛みを伴う閻魔法王の慈悲の刃にかかる。

そして無間地獄と人が呼ぶ場所へ行くことに

なるのだ。



 形勢は神の軍団の勝利に近づいていた。殆

どの悪魔が神の軍団に殲滅させられていた。

(亘、最後の戦いよあなた自身が戦うのよ)

亘の陣地内に悪魔が入って来た。その槍を奪

い最後の悪魔に突きたてた。かろうじて亘は

ハルマゲドンに勝利を収めた。


(諸星亘よ、貴様はハルマゲドンに勝利した

今後どうしたいか望を述べよ)閻魔法王は亘

に問いかけた。

「地獄があるなら、天国もあるんでしょう?

俺は、天国に行きたい。」

(分かった、お主の希望を聞き入れる。)

閻魔法王は亘を手のひらに載せて、ひと吹き

した。亘は光の射す方へ飛んで行った。



 水の中に浮かんでいた。苦しさはなく心地

よい気分だ。ドクンドックン。自分の心臓の

鼓動が聞こえる。自分で自分の親指をしゃぶ

っている。まだ見知らぬ、新たな、母の胎内

の中にいた。新たな母のぬくもりをいつまで

も感じていたかった。

 生命は、産まれる時に一番最初の罪を犯し

て産まれてくる。親愛なる母親に苦痛を与え

るという罪を犯すのだ。と同時に喜びを与え

るという善行も行うのだ。産まれたその時か

ら、双童が最初の仕事を始めるのだ……。


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