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ポイズン  作者: ノノギ
8/10

八話

 丹刻快は受話器を置くと此方に振り向いた。

「居場所はわかった。本当かどうかはわからないけど、嘘をついているような空気ではなかった」

「…その言い方、何だか違和感があるな。芙蓉がそんな曖昧な…」

「芙蓉ちゃんじゃない。晋揶のほうだった」

快からそれを聞いてデッドリィ=ポイズン長、六椰真は酷く驚いた顔をした。

「彼はデトックスなのに…。教えてしまって良いのかな。クビではすまないのに」

「クビもクソもデトックス自体が今日で終わる。関係ないだろう、真」

俯きがちで言った真の言葉を快が呆れたように返す。真は深刻な表情をして拳を握り締めて座っていた。

「…どうする、優先するのはどっちだ?」

「晋揶が電話に出た、と言うことはきっと芙蓉は話をしたんだろうね?」

「…恐らくな」

確かにこんな状況になってまで黙っているのは人間としておかしいかもしれないから芙蓉を喋ったということで攻めるつもりは毛頭ない。快にもそれはしっかりと理解してもらうとして、真はこれからどうするべき考える。晋揶が芙蓉からこれから行うべき事を聞いてする行動といったらただ一つだ。真はそれを懸念する。しかし今更それを深く考えたところで何にもならない。そこで真は少しでも犠牲を減らす方に思考を向ける。

「同時にしよう」

「は?」

「快はそっちへ行ってみんなを助けて一旦、ここへ戻ってくること。ボクが紺のところへ行く」

「おいおい、それを俺が了承すると思っているのか?弟みたいにかわいがってきた真を、そんな危なっかしい場所に一人で…」

「ボクの力は快なんかよりずっと上だ」

真は快に勢いよく手を突き出しそこに薄い毒の霧を発生させる。それを見て快は眉間に力を込める。

「お願いだ、快。これはデッドリィ=ポイズン長としての命令と取って欲しい」

真の力の込めた言葉に快は溜息をつく。

「…仕方ない奴だな。わかった、そうしよう」

「ボクの連絡があり次第、指示した場所へ移動すること」

「なるほど、つまりはどうなるかハラハラしながら待っていろって言ってんのか」

「苦しいのはわかる。でもお願い」

真の言葉に快は致し方ないといった風に頷いた。

「それじゃそろそろ行動を開始するぜ」

「うん」

真は立ち上がるとその小屋を出る。市街地とは少し離れた場所にある誰も寄り付かない森の奥。小さな小屋の中が彼らデッドリィ=ポイズンの宿場。そこを大き目のローブを羽織って真は足早に飛び出して行く。その後を複雑な表情の快とデッドリィ=ポイズンの仲間たちが見送る。

 真はデトックスの本部を見上げていた。この建物の最上階に目的の人物が存在する。本部部長の部屋は一般の人の侵入を禁止されている。真はさっさと中に入る。屋上は一般にも公開されているが、そろそろ時間が締め切られる。七時には屋上は立ち入り禁止となる。それよりも前に中に入らなければならない。ここに来るまでに随分と時間を要してしまったためギリギリかもしれない。真は急いでエレベーターに乗り込む。

「間もなく七時です、お帰りのお仕度をお願いいたします」

そんな声が響く中、屋上はちらほら人がばらついていた。木々が植えられた一種の庭園のようになっていた。比較的高い建物のため遠くまでがよく見渡せる眺めの良い場所。昼間なら人でごった返しているが、流石に閉鎖時間になるため極僅かしか人はいないしその人たちもいそいそと帰り支度をしている。天井があるわけではないので足元の照明しかなく視界は悪い。暗闇で過ごした真にとっては案外見えるけれど。それを利用して警備員の目を盗んで前もって準備していた身を隠す場所へその身を置く。そこで動かず物音を立てずじっとしている。そうしてやがて物音一つなくなった頃、真はそこから這い出す。照明も落とされ、警備員も人も誰もいない場所。真はふっと呼吸を着くと駆け出す。

「よっと…」

屋上から身を投げた真は手すりに手を掛け身体を勢いよく回転させ、窓ガラスに向かって蹴り飛ばす。その勢いで窓ガラスが割れ真は中へ飛び込む。部屋の中にいたのは驚いた表情で固まる最守紺。

「な、何者だ…!?」

ローブに身を包んだ真はガラスを払ってゆっくりと立ち上がる。

「お久しぶりです、紺さん」

「その声…真か……!」

焦った様子を見せた彼は後ずさりをした。その際、デスクに手を付き資料を幾つかばら撒かせた。

「何年振りでしょうか、こうして面と向かってお会いするのは」

真はゆっくりとフードを取ると紺と目を合わせる。それからローブを脱いで脇へ投げる。

「この時を…ずっと恐れていましたよね、紺さん」

真の声は静かで落ち着いている。しかしその奥には深い悲しみの情が垣間見えた。

「…だが単身で乗り込んでくるとは思わなんだ。何が目的だ?」

「今更目的を尋ねるのですか?あなたが犯した法では裁けぬ罪の回収です」

真の声に怒気が篭る。紺は僅かにあせりながらもデスクにあるブザーを押す。ビービーと音を立てるブザーを真は訝しげに睨む。

「仲間を呼んだところで無意味ですよ。ボクの力をまさか忘れたわけではありませんよね?」

「人数など関係ないことくらいは知っているさ。でもここから逃げるには人数がいたほうが良い」

「貴方も落ちたものですね、紺さん。昔の貴方は非道ながらもそれでも凛々しかった。部下に支えられすっかりその毒牙も抜けてしまったようで」

真が呆れたような、悲しいようなそんな声で言うが紺は高く笑う。

「何とでも言え!お前らはこの世界の毒だ!膿そのものだ!誰もが嫌う存在だ、味方等誰もいない!」

「それでも良いんです。貴方さえ始末できればボクらの復讐劇は終わるのだから」

真の言葉に紺は脂汗を浮かべる。

「……。…!なぜだ、何故誰も来ない…!?まさかお前…!」

「ボクらは関係のない人間を傷つけるようなことはしない。貴方達と同じにしないでくださいよ」

ブザーで人を呼んだのに誰も来ないことを警戒した紺はさらに焦りを見せる。真は右手に力を込める。そこから濃度の高い毒の霧を発生させる。

「デッドリィ=ポイズン…。猛毒。さぁ、デトックスたちは解毒できるかな?」

真は弱い笑みを見せた。その時。扉が勢いよく開いた。二人ともそちらに目をやる。そこにいた人物を見て、真は小さくしたうちをする。

「あぁ、やっぱり来たね、晋揶」

「…お前が…六椰真か」

「こ、心莵!よく来た…!他のみなは…」

紺の言葉に晋揶は黙って彼を見詰めた。それから身構える真と紺の間に立って真のほうを見る。

「…もう寄せ、六椰真」

「…ボクらのことを何も知らないくせに…知った風なことを言うんだね」

「詳しい事は何も知らんさ。ただ、改めてしっかりと礼だけは言っておく」

「え?」

「娘を救ってくれたことを感謝する」

真はその言葉を聞いてぐっと奥歯を噛み締める。

「聞いたのか…」

「いや、聞いてはいない。だがわかる」

「…大人って言うのは怖いね」

「餓鬼にはわからんさ」

真は戦闘態勢を一時解除する。目の前の紺よりも強敵へ敬意を表して頭を下げる。

「お願いです、心莵晋揶さん。ボクらの目的を達成させてください。その男は法では裁けぬ罪を犯した。それを裁けるのはボクらだけなんです」

真は頭を上げて晋揶を見た。晋揶の表情は読み取りづらく何を思っているのかは理解できなかった。後ろの紺は何ともわかりやすいというのに。

「裁いた後、お前たちはどうするつもりだ?」

「この世界の法に則ります。最初から覚悟の上だから」

「…全く。命を粗末にするもんじゃないぞ」

「粗末になんて…!」

「しているだろう。ここに一人で無意味に突っ込んでくること自体が自分の命を粗末に扱っている」

晋揶のいった言葉に真は言い返すことが出来なかった。快たち、他の仲間を助けるために自分は、そんな考えは確かにあった。しかしそのくらいでなければ目的を達成することなど到底出来ない。そう、考えに至ったのだから。

「こ、心莵…!そいつを捕らえろ…!デッドリィ=ポイズンの長だぞ!」

「…えぇ、そうですが。貴方にも…然るべきことがあると思うのですが」

晋揶は振り返り越しに紺にそう言った。紺の表情が蒼白した。見て取れるほど焦っている。晋揶は真のほうへ顔を戻した。

「もう遅いかもしれんが、すぐさま命を捨てるようなことはないだろう。皆が救える道だってどこかに必ず…」

真はその直後、目を大きく見開いた。自分の右肩に走った激痛もさることながら、目の前で起きた信じられない出来事に我が眼を疑ったためだ。

「し、晋揶…!」

真は右肩を押さえながら倒れた晋揶の元へ駆け寄った。その後ろで不気味に笑う紺の姿。それを見て真は怒りと恐怖で震えた。

「何てことを…!」

「ふははは!これは特注品でね?この俺の『力』が込められた弾丸だ。普通の銃より威力は劣り、命中率は下がるが、当たれば『毒』が身体を蝕みいずれか死ぬ」

「…なんて非道な…!外道にも程がある!」

脇腹を抱えて晋揶がゆっくりと身体を起こした。

「お、おきないほうが良い…!身体を動かせば毒が回りやすく…」

「ほらな、お前はそうやって…優しいじゃないか。死を解決と選ぶな…」

晋揶は汗をかき、息を切らしながらも真にそう言った。真は頭を大きなハンマーで殴られたような衝撃が走った。この男はこんなときにまでそんな事を言うのか。

「晋揶…アンタは一体…」

「真!お前も落ちろ!」

紺は再び発砲した。しかし発砲した弾は何処にも傷を作らなかった。

「な、何…?」

「紺さん。ごめんなさい。信じられないくらいボクは今怒っています」

そう言った真の全身からあふれ出る黒い霧。それは言わずとも知れる猛毒。紺の放った銃弾はその猛毒によって真に辿りつく前に溶けてなくなった。

「晋揶、少しだけ待っていて。その毒ならきっとボクが何とかできると思うから…」

「くっ…よせ、お前は何も…何もするな…!」

晋揶の言葉が耳には入ってきたが受け止めるだけの冷静さがなかった。真は数メートル離れたところにいる紺に向かって全身に纏っている猛毒の力を一挙に投げつけた。


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