表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/43

1-8 わからないものはわかりません

 ブックマーク評価共にありがとうございます!

「……あの。結局さっきのスピードはどういうことなんですか?」


 ならばいっそと、思い切って聞いてみたのだが。


「あっ。忘れてたな」

「ちょっと話が逸れちゃったわねぇー」


 どうやらわざとではなかったらしい。

 喜ばしい事なのかそうじゃないのかはちょっと微妙なところだな。


「まあ、武操術と魔法の応用だな」

「武操術?」

「つまりは魔力を利用した体術の事よぉ〜」

「魔力を利用した技術の事を操術(そうじゅつ)って呼ぶんだ。武を使う操術だから武操術(ぶそうじゅつ)単純だろ?」

「なるほど……」


 魔法のあるこの世界独特の武術の事を操術って呼ぶって事でいいだろう。


「さっきワタシがやったのは魔力の体内活性と魔法を合わせたもので、地面を強く蹴るのと同時に足の裏から水流を放出したんだ」

「……ん?」

「つまりはウォータージェットのようなものよぉー」

「ただ魔法で加速するだけじゃなくて武操術を合わせる事でさっきみたいな人外的なスピードを得る事が出来るんだ。まっ、慣れなきゃ自爆するけどな」


 感覚的には人間にジェットエンジンをつけているようなものだ。

 超人的な感覚が無ければその威力に身体を持っていかれてしまうだろうな。

 つまり、マーレちゃんだからこそ出来る芸当って事か。


 もしもあのスピードがこの世界では当然のものだとしたら、やっていける気がしなかったが、良かった。


「さて、長ったらしい説明回はこれで終わりだ」


 切り替えるように両手をパシンと叩き鳴らすマーレちゃん。


「これから本格的な修行に入るぞ」


   ☆ ★ ☆ ★


 マーレちゃんから受けた修行内容はいくつの段階に分かれていた。


 まず第一段階。それはぶっちゃけ当たり前の事、つまり、魔法を使う上で最も大切な魔力の知覚からだった。


「うー、むー、ぐぐぐー」

「黙ってやれ!」

「痛っ!」


 場所は変わらず訓練室。

 その隅っこで座禅を組んでいるのだが、この魔力の知覚ってのは途轍もなく難しい。

 どうにか感覚をつかもうと無意識の内に唸っていたら、マーレちゃんに頭を叩かれてしまった。

 割と本気で痛い。


「あの、マーレさん?」

「なんだ一輝」

「なんかその、コツとかありませんかね?」

「そんなものはない」

「……ですよねぇー」


 即答するマーレちゃんに俺はうなだれた。

 予測していなかったわけではないのだが、やはり本来魔力というものを感じた事のない俺にとっては自分の魔力を自覚することすら非常に困難だった。


「……コツ……」

「チラチラこっちを見るな! 体内を流れる魔力の感覚は人によって違うんだ。ワタシの感覚を教えてもそれが先入観となって正しい感覚を得る事が出来なくなる事があるんだ! 意地悪で何も教えないわけじゃない!」

「……そうですか」


 別に文句があったわけじゃないのだが、マーレちゃんが怖い。

 最近の若者はなんたらこんたらと良く言うが、もしかしてそれはこっちの世界でも同じなのかもしれないな。


   ☆ ★ ☆ ★


 修行を開始してから既に一時間が経過していた。

 進歩? そんなもの欠片もない。


「だぁーーっ!!」

「サボるなアホっ!」


 ずっと座禅しているのも精神的にくるものがある。

 そのため思いっきり両手を上げて背中を伸ばしたら間髪入れずにマーレちゃんの飛び蹴りが飛んできた。

 本当に痛い。


「あはは……もう一時間近くも座りっぱなしなんですし、少し休憩してみてはどうですかー?」

「……むう。水連の言う事ももっともだな。良し、十分休憩だ!」


 修行が始まるのと同時に居なくなっていた水連が差し入れを片手に帰ってきた。

 ずっと座禅を組んでいたせいで両足が痺れてしまっている。

 伸ばしながら手でマッサージをするだけでもいくらかマシになるものだな。


「一輝さん、これどうぞ」

「ありがとう」


 水連から貰ったのはハムと卵をパンで挟んだもの。つまりサンドイッチだ。

 バスケットのようなものに入っている三角形にカットされたもの中から一つを手にとって渡されたそれを一口。


「うん。美味しい」

「本当ですか! 良かったですっ」


 そう言って満面の笑みを作る水連。この反応。もしかすると。


「これ、水連が作ったのか?」

「はい! ……けど、このサンドイッチなんてスクランブルエッグとハムをただ挟んでちょこっとドレッシングをかけただけなので胸張って言えませんけど」

「けどスクランブルエッグを作ったのは水連だろ?」

「はい……。あっ、ドレッシングも自家製ですよ!」


 一瞬暗くなった後、何かに気付いたように明るくなって言う水連。

 そうか。このドレッシングの味って独特だなーって思っていたのだが、それは世界が違うからじゃなくて、自家製だからか。


「うん。このドレッシングも本当に美味しい。ありがと」

「……あっ……」


 ちょうどお腹が空いていたため軽食は本当にありがたい。味だって良いし、何より女の子が頑張って作ってくれたものだ。より美味しく感じられるな。

 感謝の意を込めて笑顔で礼を言うと水連は顔を真っ赤にして照れてしまった。ピュアだなあー。


「修行、うまく行ってないんですか?」

「……あ、ああ」


 一番最初の段階で躓いている状況なのだ。流石の俺には焦燥があった。


「きっと大丈夫ですっ」

「水連……」


 そんな俺の不安を消してくれるかのように俺の手をそっと握ってくれる水連。


「あっ……そういえば」

「どうかしたのか?」

「は、はい……」


 水連はそうとだけ残し、トテトテと木蓮さんの方に歩いて行った。


「ねえお母さん」

「どうしたのぉー?」

「もしも一輝さんに普通じゃありえない事が起きたらそれって式のヒントになるかな?」

「そうねぇー。刻まれた式の内容がわかればそれにあった方法も出来るわねぇー」

「だ、だよね!」


 木蓮さんの返事を聞いて嬉しそうに言う水連。

 普通じゃありえないこと? そんなこと……あっ。


「傷……」


 俺は無意識の内にお腹に手をやっていた。

 この世界に来た時、確かに俺は大怪我を負っていたはずだ。

 しかし、気絶して目覚めたらその傷は痕跡すら残る事なく、消えていた。


「その様子じゃ何かあったな?」

「は、はい……」


 鋭い視線を向けるマーレちゃんに俺はその時の状態を伝えた。


「傷が消えた?」

「はい。それも結構な規模の傷だったと思うのですが、目覚めたら跡形もなく」

「……ほう。見るぞ」

「へっ?」


 俺の返事を聞くことなく服に手を掛けるマーレちゃん。


「ちょっ!」

「おとなしくしろっ!!」


 そのまま俺はマーレちゃんの手によって無理やり服を脱がされた。

 無論、上だけだ。


「脱がす事ないじゃないですか……」

「うるさい。こっちの方が楽だろ」


 キッと睨んで俺を黙らせた後、マーレちゃんがお腹をペタペタと触る。触る。触りまくる。


「うっ……ぷっ……ぷふふ」

「うるさいっ!」

「くすぐったいんですよ!」

「関係ない!」


 殴られた。二度も殴られた。本当に痛い。俺には殴られて喜ぶ性癖は残念ながらないのだ!


「……確かに傷はないな」


 小さく呟いた後、水連の名を叫ぶマーレちゃん。

 テクテクと木蓮さんの側から俺の近くにやってきた水連。


「その傷。水連は見たんだろ? どこだ」

「は、はい。こ、ここにこんな感じでぱっくりと」


 そう言いながら俺のお腹を指でなぞる水連。

 痛くしないようになるのか彼女の手つきはとっても優しい。

 だからこそ、くすぐったい。めちゃくちゃ。

 ……てか、ぱっくりって地味に怖いぞ! その表現!


「……なるほどな」

「それは随分と珍しい式ねぇー」


 いつの間にか二人と一緒になって俺のお腹をなぞる木蓮さん。

 あれ、見えなかったぞ? もしかして木蓮さんも凄い人?


「うふふぅー」


 俺の表情から心情を読み取ったのだろうか。木蓮が笑みを浮かべた。


「木蓮。どう見る」


 そんな木蓮さんにマーレちゃんが横目を向けながら問う。

 木蓮さんは少し考え込んだ後、きっぱりと言い切った。


「回復系の固有式ねぇー」

 次回更新は明日です!  感想や評価、お気に入り登録などよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ