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1-7 こ、これが、魔法!

 ブックマーク評価共にありがとうございます!

 いきなりの特訓宣言。

 つまりは修行パートというやつだろうか。


「特訓って何をするんですか?」

「その前にお前、式持ちってなんだかわかるか?」

「……いえ」


 もはやその単語の事を忘れていたな。結構重要そうなワードだというのに、やばいやばい。


「お前たちの感覚で言えばこの世界には魔法がある」


 マーレちゃんの口からもたらされた魔法という言葉。

 感想としては。


「やっぱりそうですか」

「想像は付いていたようだな」

「化け物がいるって地点でいるだろうと思ってましたよ。そもそも、魔法でもなければ説明のつかないことがいくつかありましたし」


 わかりやすい所でいえば目の前にいる少女だ。

 俺がマーレちゃんの事をおもわず幼女と言ってしまった時に見せたあのありえないスピード。

 物理の法則だけで考えればどう考えてもありえないはずだ。

 だから俺はあの地点で想像していた。予測できていたのだ。

 この世界には魔法があると。


「正式名称はちょっと違うが、ともかくこの世界には魔法がある。そして、その魔法を使うには基本的に法具ってのが必要になるんだ」


 そう言って自分の左手首を俺に見せるマーレちゃん。

 そこにあるのは銀色に輝くブレスレットだった。


「……それがそうなんですか?」

「そうだ。数ある法具の中でも最も普及している基本的なもの。ブレスレット型の契約法具だ」

「契約法具?」


 ブレスレット型の法具と言われると思っていたのだが、想定外についている契約という単語に俺は眉をひそめた。


「法具にも種類があるって事だ」

「あるって言っても大きく分けて二つよぉー」


 種類があるってことは覚えなくてはいけないことが多いって事だ。

 そんな俺の心を読み取ってなのか木蓮さんが補足してくれた。


「一つは今言った契約法具、別名は汎用法具。そしてもう一つが固定法具、別名が特化法具だ」


 指を一本ずつ立てながら説明するマーレちゃん。


「契約法具はちょっと特殊な施設で法具と術師そのものを幻理的に繋げる事を必要とするのに対し、固定法具はただ手で持っていればいいだけだ」

「その代わりぃー。名前から想像つくかもしれないけど、契約法具は複数。固定法具は一つした魔法を保存しておく事が出来ないのよぉー」

「簡単にいえば魔法を銃弾だとすれば法具は拳銃本体だな」


 マーレちゃんと木蓮さんがそこまで交互に説明をしてくれた後、木蓮さんがパシッと手を叩きあわせた。


「それじゃぁー、そろそろ実際にその目で見て貰おうかしらぁー」


 そう言いながらちらりと視線をマーレちゃんに向ける木蓮さん。

 木蓮さんの手首にあのブレスレット型の法具はない。それは水連も同じだ。

 つまりはマーレちゃんに実践してもらうということなのだろう。


 木蓮さんの視線を受けてマーレちゃんは渋々といった風に頷くと、「よし」と声を上げつつ立ち上がった。


「付いて来い」


 扉まで歩いた後、振り返りながらニヤリと言うマーレちゃんだった。


   ☆ ★ ☆ ★


 ギルドの裏口から出た先にあるのはまるで体育館のような建物だった。


「なあ。あれってなんだ?」

「あれは訓練室ですよー」

「訓練室?」


 訓練室というにはデカイような気がする。そもそも室というより、棟とかの方が適当なんじゃないか?


「うふふぅー。ギルドに属する限りよっぽどの事がなければ戦闘能力が必要になるわぁー。だからあの建物の中にはギルドメンバーたちが各自で訓練するための部屋が一杯入ってるのよぉー」

「なるほど」


 化け物がいる以上、戦うための力が必要だ。

 ならばそれを向上させるための場所があったもおかしくない。むしろなければ不自然だろう。

 そして最も戦闘と近いところにあるギルドの隣にその建物を建てているのか。うん。合理的だ。


 どうやら一階はまるまる休憩所になっているらしい。あと受け付け。

 このまま受け付けに行くと思ったのだが。


「あれ? 素通りでいいんですか?」

「マーレちゃんはここに個人所有の部屋があるのよぉー」


 なんでも訓練室がいつも空いてるかわからないため、自分専用の部屋を借りる者も良くいるらしい。

 ギルド長となればそれくらいは当然らしい。


 受け付けをスルーして俺たち四人は受け付け横の道を進み、奥にある階段を上っていた。

 その時に聞いたのだがどうやら二、三、四階は早い者勝ちの部屋らしく、五、六階は個人所有の部屋になっているらしい。

 この建物の部屋の総数? 知らん。


 マーレちゃんが借りている部屋は個人訓練用の小部屋ではなく、なんと六階をまるまる借りているらしい。いろいろと規模がおかしいと思うのだが。


「金のあるワタシがどんどん使わないとこの街の景気が悪くなるからな」


 との事らしい。

 てか、個人でその街の景気に関わるって、なんという存在感だ。


 通されたのは元の世界でいう射撃場のような場所だ。

 ここから的までの距離は結構あるように見える。少なくとも一○○メートルはあるだろう。

 そういえば、さっきは拳銃に例えていたが、有効射程ってそんなにあるのか?

 いや、ライフルとかなら余裕……なのか?

 だめだ。火器に詳しいわけじゃないからわからない。


「それじゃあよく見てろよ」


 みんなに、というより俺にそう言った後、マーレちゃんは返事も聞かずに的に向けて左腕をかざした。


「さっきは法具の事を拳銃本体に例えたが、実際のところは少し違う。法具はあくまで銃のパーツをしまっているケースのようなものだ」


 マーレちゃんは説明しながらも何かをしていた。

 別段、身体を動かして何かをしているわけじゃない。

 だけど、何かをしている。それは確実だ。

 その何かに対応するかのようにして、マーレちゃんの左手首についているブレスレット型の法具が柔らかい光を発していた。


「ますば意思を込めた幻力、お前なら魔力のようなものと言った方がわかりやすいか。それをこの法具に注ぎ、中にしまっている銃のパーツ、幻操式を外部に取り出す」


 ブレスレット型法具から幾何学的な模様の描かれた紐状の何かが無数に放出されていた。


「取り出した幻操式を組み立て、銃器本体と言える幻操陣を組む」


 紐状の何かたちがマーレちゃんの腕の前で円を描くように結びついていき、それはさながら魔方陣のようだった。


「これで銃本体の組み立ては終わりだ。次に必要なのは狙いを定めるという事。つまり、まだ入力されていない座標の変数を魔力に込めて注ぐ」


 出現した魔方陣が徐々に発光を始めていた。

 おもわず目を背けてしまうようなレベルではないのだが、その光は不自然と俺の注意を集めていた。


「本来ならばこれらの過程を詠唱をすることによって細かい部分を意識しないでやるものだが、一流クラスになると詠唱なんてせずに全て無言、あるいはトリガーとして術名だけでやるものだが、あえて中間の略式詠唱を見せてやる」


 正面に向けた左腕にそっと右手をおくマーレちゃん。


「『水操(すいそう)・一種二番・水弾(すいだん)』」


 マーレちゃんがそう叫ぶと同時に魔方陣の目の前に直径五センチメートル程度の球体が現れ、水色の姿を一瞬そこに留めた後、すぐさま弾丸ように的に向かって飛んでいった。


 放たれた水色の弾丸は的の中心に全くズレる事なく着弾すると、的を突き破り、後ろの壁を濡らした。


「これが魔法の中でも最もシンプルで普及している『(ブレッド)シリーズ』の水属性バージョンだ」


 振り返りながらそう言うマーレちゃんは若干得意げな表情を浮かべていた。

 そんなマーレちゃんに俺は純粋に尊敬の眼差しを向けていた。


「ちなみにさっきのは術を安定化させるためだけの略式詠唱って奴だ。過程を無意識的にやるための詠唱とはまた別ものだ。一種ってのは術に込められた魔力の量。二番ってのはその術の威力を示すものだ」

「今の『(ブレッド)シリーズ』はもちろんとしてぇー、攻撃を目的とした術は最低でも二番扱いになるわぁー。種番が委員会によって定められている術なら基本的に対人戦で使われるのは今みたいな二番よぉー。この番は威力を指し示すものってなっているのと同時に規模を示すものでもあるわぁー。だからその術の威力が知りたいなら基本的には番よりも種、つまり使用される幻力の量を気にするべきねぇー」

「けどまあ、種番についてはぶっちゃけ覚える必要はない」

「……えっ」


 ここまで長く、詳しく説明しておきながら覚えなくて良いって、さっきまで頑張って覚えようと、理解しようとしていた俺って……。


「理由は単純よぉー。あなたが覚えるのは今みたいな契約法具を使った普通式じゃなくてぇー、あなた自身の心に刻まれている固有式だからぁー」

「……固有式?」

「ワタシたち人間は誰しも己の内部の精神世界に大きな式を持っているものなんだ」

「この大きな式から発現される魔法は人によって違うのよぉー。そしてそれを魔法として発現出来る者は極少数よぉー」

「この魔法を発現する可能性がある者の事をこっちでは式持ちって呼ぶんだ」


 二人交互に説明してくれる木蓮さんとマーレちゃん。

 一人が長々と説明するよりは良いと思うのだが、それでも細かくて長いな。


 要約すれば。

 法具は折り畳み式の銃。

 魔法は銃弾。

 人の中には固有の魔法がある。

 だけどその魔法を扱える者は極少数。

 そんな極少数の一人になれる可能性のある者の事を式持ちと呼んでいる。


 こういうことか。


「理解出来たかしらぁー?」

「はい。一応は」

「ほほー。一度で理解したのか? 数回説明する事になると思ってたんだが、思ったよりも優秀だな」

「……ありがとうございます」


 嬉しそうにしているマーレちゃんに俺は頭を下げた。


「……あれ? つまりここでの魔法というのは自身の左腕を銃口の代わりにした銃みたいなものなんですよね?」

「まあ、そうだな」

「一番始めにマーレちゃ、マーレさんが見せてくれたあの以上なまでのスピードはどうやったんですか?」

「……おい。今何か言い掛けてなかったか?」


 睨み付けてくるマーレちゃんだが、残念。その見た目でやっても正直可愛いだけだ。


「……まあいい。さっき見せたのは最も一般的な使用法ってだけで魔法にも色々あるって事だ」

「……なるほど」

「ちなみに一瞬思ったかもしれないが、ワタシたち魔法を使う者でも肉体的強さは普通の人間と大して変わらないぞ」

「そうねぇー。だけど防御用の魔法や自己強化の魔法もあるにはあるわよぉー」

「まっ、銃弾以外の使用法をする奴はあまりいないけどな」

「……人間の耐久力であの時みたいなスピードを出したら大変な事になると思うんですけど……」


 ほとんど目に見えないレベルのスピードだったんだ。風圧とかでいろいろ大変だと思ったのだが。


「この世界独特の理。幻理って不思議なのよぉー」

「日本とかで不都合な物理の法則は魔法が関わる時に限って無視されるんだ」


 えぇー。何その感じ。


「物理学者はこっちにもいるが、そこらへんの原因解明は本格的に困ってるらしいな」

「一説によればこの世界そのものが、元々ある世界に幻理という新しい概念を加えた人工的なものでぇー、新しい概念が入った事で生まれる矛盾を世界が修正するからぁーとも言われてるわねぇー」


 この世界そのものが人工的なもの。

 木蓮さんはその事を言いながら一体どう感じているのだろう。

 もしもこの世界が作られた世界だとしたら、その世界に住む人間は、生命は一体どうなってしまうのだろう。

 その内の一人である木蓮さんはその事について、どう思っているのだろう。


「うふふぅー。説は説よぉー」


 そんな俺の心を読み取るかのようなタイミングでそう微笑む木蓮さん。

 俺はそんな笑顔を見て、純粋に凄いと思った。

 俺だったらそんな風に割り切る事が出来るか?

 いや、きっと……。


「ちなみにさっきマーレちゃんが見せたであろうスピードの原理は」


 そこまで言ったところでちらりと視線をマーレちゃんに向ける。

 木蓮さんの視線を受け、マーレちゃんは小さく頷いた後、自ら説明を始めた。


「つまりは、こういうことだ」


 前半部分でその場に立っていたマーレちゃん。

 だけど、後半部分の声は後ろから聞こえていた。


「うふふぅー。見えたかしらぁー?」

「……いや、全然見えませんよ?」

「ククッ。当然だな。幻力の……いや、魔力の扱い方もまだ知らない奴に見えたとなったらワタシの沽券に関わるからな」


 全力のドヤ顔を見せるマーレちゃん。こんな事を思ってはいけないとわかっているのだが。

 むかつく。


「魔力というのは本来魔力陣を動かすためのエネルギーでしかないんだが、体内の魔力を活性化することによって身体能力を強化する事が出来るんだ」

「とは言ってもぇー。人外クラスまでは上がらないわぁー」

「……今のスピードは明らかに人外クラスだと思うのですが?」

「体内魔力の活性化によって身体能力をあげると、感覚的には防刃、防弾、対Gの効果もある補助筋肉を纏った感じだな」


 防御力的にはなんとなく把握出来たのだが、やっぱり純粋な身体能力がどの程度変わるのかがわからないな。


「むう。説明するのはあまり得意じゃないんだ」

「マーレちゃんは秀才タイプというよりも、天才タイプだものねぇー」


 天才は感覚が少し違うらしく、そのため人に教えるのが苦手らしいのだが、まあ、この年でその地位にいるのだ。天才なんだろう。


「そうねぇー。体内魔力の活性化をすると、理論的には出来るけど実際には出来ないような事が出来るようになるわぁー」

「そうだな。こっちじゃ刀剣で銃弾を斬る程度の事なら割と日常だな」


 なるほど。日本じゃまず考えられないレベルだな。


「あっ。そうそうー、目に関しては強化率が高いのよぉー」

「魔力を目に纏えば銃弾程度なら余裕で目視出来るな」


 銃弾を目視出来るって、この世界じゃ銃は通用しないって事か。


 ……それにしても、わざとなのだろうか。

 さっきから俺の質問に答えてくれないのは。

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