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1-6 何がだめなんだ?

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 ギルドに入る。俺はその利点について思考していた。

 正直言ってデメリットの、リスクの方から考えると、何もない。

 今の俺にとって必要なのは、情報と仕事だ。

 それが今、二つとも手に入ろうとしている。ならば俺の返事はもはや決まりきっていた。


「これからお願いします」


 そう言って俺は深々と頭をさけだ。


   ☆ ★ ☆ ★


 俺のギルド加入が決定した後、俺は一人受け付けに案内されていた。


「……えーと、先ほどは大変迷惑をお掛けしました」


 ガラスの仕切りはない。その残骸は視界の隅っこにある箱の中にあった。

 正面にいる受け付けの女性の視線が辛く俺は謝罪していた。


「……はあ。まあいいです。ギルド長の後始末をするのはいつもわたしですから。慣れてます」


 ……それは……ご苦労様です。とは言えなかった。


「それではこちらの契約書に目を通した後、よろしければサインをお願いします」

「はい」


 机の上を滑らせるようにして目の前に出された書類。本来なら仕切りの下部にある隙間からこうやって相手に渡すのだろうが、仕切りであるガラスがない。申し訳ない気持ちが溢れてくる。


 意識を切り替えるかの如く、短く息を吐いた後、俺はその書類に目を通し始めた。


 わかった事を要約すると、このギルドはもっと大きなギルドの一部、つまりは支部らしい。マーレちゃんは本来その大きなギルドの方の上級メンバーらしいということ。


 ギルドというのはある意味派遣会社みたいなもので、ギルドという大きな会社に来ている依頼の一覧から自身が受けたいと思うものを自ら選び、実行する。

 しかし、依頼の中には条件があることがあるらしく、完全に全ての中から自由に選べるわけではないらしい。


 他にも細々と書かれていたが、とりあえずはこのギルドの仕組みをなんとなく知っていれば問題ないだろう。


 あっ。依頼を失敗した時の事も確認するべきか。えーと何々、失敗の確率がほぼないと判断されているものは無料で依頼を受けることが出来るが、それでないもの、他の大部分は依頼そのものを受ける時に契約金を支払わなくてはいけないらしい。

 で、失敗するとそのお金がギルドに回収されてしまうということらしい。

 失敗するとということは、成功すればそのお金は戻ってくるということだ。

 とはいえ、その場合は成功報酬の一部がギルドに行くため、感覚としてはあまり大差ないな。むしろギルドの利益としては成功報酬の一部を貰った方がいいらしい。

 だからギルドメンバーがちゃんと依頼を達成できるように実力を見抜くのが重要らしい。


 ぶっちゃければ、クリア出来ると確信した依頼だけを受けてれば問題はないだろう。簡単な奴なら複数の依頼を同時に受けるのも自由らしいし、最初はそういう依頼をこなしていくか。


「その依頼ってのはどこで見られるんですか?」

「それならあちらになります」


 受け付けの女性がそう言って手を差したのは横の面にあるボードだった。

 チャチャッと日本語でサインをした後、俺は立ち上がってボードの前に行った。


 ボードには様々な紙がくっついているのだが、どうやらこれが依頼書らしいな。

 所持金はゼロだ。いや、一応日本円は持っているのだがこれがこっちで使えるのかわからない以上ゼロと同じだろう。

 文字が日本語だからと言って通貨まで同じとは限らないからな。


 とりあえず所持金がゼロである以上、一番簡単な依頼しか受けることが出来ないな。

 おっ。これなんて良いんじゃないか?


[【カカシの作成】最近畑を良く荒らされるんだ。だから巨大なカカシを作ろうと思うのだが、一人じゃ手が足りない! 誰か若者の力を貸してくれ!]


 最下ランクの依頼になっているからさっきからチラチラと見える他の依頼と比べると報酬金額は低いけど、短期のバイトだと考えれば妥当な金額だろう。

 まあ、こっちの一と日本の一が同じ価値なのかは知らないが。


「よし。これにするか」


 とりあえずは契約金が支払える最低限のお金をゲットするべきだな。

 さっきの説明ではこの依頼紙の下の方についている付箋みたいなやつを剥がして持っていけばいいらしいからな。

 腕を伸ばした所で。

 隣から伸びてきた腕に手首を掴まれた。


「待て。何をしている?」

「何って仕事をしないと今日の生活費がないんですよ。止めないでください。マーレ……さん?」

「おい待て。何故疑問系なんだ」


 木蓮さんがちゃん付けで呼んで怒っていたからな。だからさん付けの方が良いと思ったのだが……。


「……まあいい。それよりもサインはしたんだろ? だったら来い」

「けど仕事……」

「いいから来い!」

「……はい」


 拒否権なんてものはどうやら最初からないようだ。

 マーレちゃんに腕を引っ張られる形で再びギルド長室へと案内された。

 装飾などがちょっと豪華な扉を開けて入った時に木蓮さんが笑みを深めたのだがどういう意味だろう。


「随分と遅かったわねぇー。一輝君」

「木蓮。こいつ、依頼を受けるつもりだったみたいだ」


 マーレちゃんの言葉に木蓮さんは一瞬驚く素振りを見せるものの、すぐにいつもの母性溢れる笑みに戻っていた。


「なるほどねぇー。どうやら一輝君は少しだけ勘違いしてるみたいねぇー」

「勘違い?」


 首を傾げる俺に木蓮さんが続ける。


「この世界はあなたたちで言うところのファンタジーワールドよぉー。そんな世界のギルドという組織では戦う力が必須になるわぁー」

「……ですが……」


 それは想像していた。依頼書の中には何々の討伐とか、そういう感じのものもあった。というより七割ほどそんな依頼だった。

 だけど戦うことのない依頼も幾つかあったはずだ。俺が手に取ろうとした依頼もそんな一つだった。


 そんな俺の考えを読んでいるかのように木蓮さんが笑みを深める。


「一輝君ー。あなたは猛獣の蔓延る場所に何の装備もしないまま行きたいと思うかしらぁー?」

「いいえ……思いませんが……あっ」


 小さく声を漏らした俺に木蓮さんがニコリと笑い掛ける。


「つまりはそういうことよぉー」


 さっき受けようとしていた依頼がどうだったのかはわからないが、この世界にはイーターと呼ばれる独自の魔物のようなものが存在しているはずだ。

 街中を歩いている時にも見えた大きな壁。あれはこの街を囲っているように見えた。

 どうしてあんなにも巨大で頑丈そうな壁を築いているのかわからなかったが、おそらくはそういうことなのだ。


「壁の外には化け物が溢れてるってことですか?」

「そうよぉー」

「街にはイーター除けの結界があるから街中に入ってくることは早々ないが、それでもたまに襲撃を受ける街はあるからな」


 木蓮さんに向けていた視線をマーレちゃんに向けると彼女はさらに続ける。


「この結界のおかげで街の近くならば化け物の数は少ないが知能の低い雑魚共は結界に気付かずにうろちょろしてるからな」

「つまりその結界は強大な化け物にしか効果がないってことですか?」

「正直そこまで優秀なものじゃない。効果があるのは力として真ん中程度の連中だけだ。威嚇に近い効果だからな。だから危機感というものすらないほどに知能の低い雑魚や威嚇しようが関係ないほどに強い力を持っている連中にも効果はない」

「……それって」

「そうだ。凄まじく危険だな」


 おそらくは雑魚共からは壁によって完全に守ることが出来るのだろう。

 そして中堅どころは結界によって寄せ付けないようにしている。

 しかし、最上の化け物からは完全に無防備になっているということだ。

 この事実はこのメンバーだから知っていることなのだろうか。

 それとも一般的に知られている事なのだろうか。


「ふっ。安心しろ。この事実は皆が知っている事だが、問題はほぼない」

「……どうしてですか?」

「結界が意味をなさないほどに強大な力を持つ化け物には同時に高い知能があるからな。奴らも知っているのさ、ワタシたち人間の中にはヤバイ奴らがいるってな」


 そう言ってニヤリと笑うマーレちゃん。

 この世界にはそんな化け物を倒す事ができる人間が存在している。

 つまりはそういう事なのだろう。


「まあ、それでも本当の最上級クラスが来たら終わりだがな」

「えっ……」


 そう言ってケラケラと笑うマーレちゃん。

 いやいや、笑い事じゃないですよ?


「マーレちゃん? あまり一輝君を恐がらせないのぉー」


 口ではそう言っているものの明らかに楽しんでいる様子の木蓮さん。


「細かい事は気にしなくていいわぁー。ともかく理解するべき事は壁内が安全で壁外が危険だということよぉー」

「依頼によっては壁の近くとはいえ壁外に行くことになるものも少なくないからな。今のお前なら化け物と遭遇した時点でアウトだな」

「……そんなに危険な存在なんですか?」

「そうねぇー。並みの人間じゃ頑張って追い返すことは出来ても倒すことは出来ないわねぇー」

「奴らの生命力は以上だからな。ちゃんとした攻撃力がないと無理だ」


 それはつまり最下級の化け物ですらその戦闘能力は人間に匹敵しているということか。

 それは随分と、危ない世界だな。


「そう不安になる必要はないわよぉー。確かに倒す事は難しいけど、それはあくまで生命力が高いからなのよぉー。最下級の戦闘能力はさほど高くないわぁー」


 木蓮さんがそう言ってくれるのだが、俺の本能が言っている。この人は強い。それもめちゃくちゃ強い。

 だからその言葉は私にとってという意味だと思ってしまうのだが、考え過ぎだろうか。


「木蓮。どうやら信用されてないみたいだぞ?」

「あらあらぁー」

「そういうわけじゃ」

「うふふぅー。そんなに慌てなくてもいいわよぉー。最下級の[シャドウ]なら攻撃力は人間の子供程度しかないわぁー。だけど生命力は人間の数十倍ねぇー」

「……それは、厄介ですね」


 負けることはないが勝つこともない。そんな感じになってしまうのだろう。繰り返しになるが、厄介だ。


「だからぁー。一輝君にはこれから特訓してもらうわぁー」

「……えっ?」


   ☆ ★ ☆ ★

 次回更新は明日です!

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