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1-5 入学ですね。わかります

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 高校受験のために何度か面接試験の練習で入った中学校の校長室を思い出させる内装。

 部屋の奥にあるコの字型の机ではなく、その前にある向かい合わせで置かれている二組のソファー内、片方のど真ん中に座るマーレちゃん。

 このソファは三人用だろう。俺、水連、木蓮さんの順に座るとちょうどいい感じだ。


「木蓮。単刀直入に聞くが、その男はまさか」

「マーレちゃんの想像通りよぉー。十中八九【落人(おちびと)】よぉー」


 木蓮さんの言葉にマーレちゃんは「そうか」と腕を組んだ。


「なんですか、落人って」


 逃げている人の事を指す単語だったと思うが、この感じからして普通の意味じゃないんだろうな。

 式持ちってのと同じく、この世界特有の専門用語。おそらくはそんな感じだ。


 俺の問いに三人はやはりかとでも言いたげな顔を浮かべる。

 少しの間を置いた後、マーレちゃんが話し出した。


「一輝だったか?」

「は、はい」

「お前は日本の人間か?」


 値踏みするような目でそう言うマーレちゃん。


「……はい」


 返事を返しながらも、俺はそれを察した。

 俺のような存在がこの異世界にはいるんだ。

 その人数がどれだけいるのかはわからない。だか、それでも、少なくともだ。日本という国の存在を知られている程度には情報があるんだ。

 いや、待て。

 この人たちはなんだ?

 マーレちゃんは十歳にして一ギルド支部の長を任されているような存在だ。

 そしてそのマーレちゃんと親しそうにしている木蓮さん。

 明らかに普通とは言えないメンツだ。そんなメンツの一人。木蓮さんの娘である水連に助けられたのは運が良かったのかもしれない。


「……ほう。随分と頭の回転が速いようだな」


 一人思考の渦にとらわれていると、マーレがニヤリと笑うのが見えた。


「……と、言いますと?」

「あらかた状況を掴んだんだろ?」


 変化としては微かだとしても、それが変化であることに変わりはない。普通なら気付かないような、いや、気にしないような表情の変化に気付いたのだろう。

 固くなっている俺を安心させるかのように、木蓮さんが母性に満ちた優しい声で言う。


「うふふぅー。隠さなくてもいいわよぉー。私たちはあなたに害するつもりはないわぁー」

「木蓮の言う通りだ。状況からして水連が保護したんだろう? あの子のようにな」

「えぇ。そうよぉー。うちの娘は良い子に育ったわぁー」

「えへへぇー」


 木蓮と、マーレちゃんの方は怪しいけど、二人から褒められて嬉しそうに笑う水連。うん。可愛い。


「もしかするとお前はあの子のように輝くかもしれないからな。そんな原石、ここのギルド長として見逃せん」


 ニヤリと悪どい笑みを浮かべるマーレちゃんだが、これは明らかに。


「……照れ隠し」

「うぐっ」


 小さく呻くマーレちゃん。やっぱり図星か。

 視界の端で木蓮さんが楽しそうに笑っている。


「ともかくだ! お前のこっちでの生活はこのワタシが責任持ってやる! 喜べ!」

「それってどういう……」

「つまりだ! お前がこっちの世界に慣れ、自立出来るようになるまで親の如く世話をしてやるということだ! 良いな!?」


 なんだろう。この腑に落ちない感じは。というより、違和感。

 ああ。そうか。マーレちゃんが凄い子だということはわかったが、それでも歳下の女の子であるということに変わりはない。

 だから俺はこう言う。


「半分宜しくお願いします」


 と、同時に深々と頭を下げた。


「……半分? どういう事だ?」


 驚くというより、困惑しているように見えるマーレちゃん。水連は完全に疑問符を浮かべて傾げているのだが、木蓮さんは楽しそうに笑っている。


「この世界について慣れさせるって事は僕に情報を与えてくれるって事ですよね?」

「当然だ。それがどうした?」

「ならば、情報はありがたく頂戴しますが、ですが保護してもらうというのは断ります」

「……それはワタシを侮辱しているのか?」


 目を細めて怒気を発し始めるマーレちゃん。

 確かに、そういう風にも取れる言い方だったな。


「マーレちゃん。そうじゃないわぁー」


 次の一手に困っていた俺に手を差し伸べてくれたのは母性のかたまりこと、木蓮さんだった。

 木蓮さんの言葉にマーレちゃんの表情が少し和らぐ。


「どういうことだ?」

「うふふぅー。一輝君も男の子って事よー」

「男だからなんだ? ミクと同じ待遇で迎え入れようと言ってるんだぞ? 何が不満なんだ?」

「不満とは少し違うわぁー。どちらかといえば、自分が情けない。そんなところかしらぁー」


 木蓮さんは凄いな。男としてのちっぽけな自尊心。誇り。それを見抜いている。


「一輝君は本心からマーレちゃんの事を凄いと思ってるはずよぉー。だけどぉーそれでもマーレちゃんが歳下の女の子だということに変わりはないわぁー。男としてそんな子のお世話になるわけにはいかないのよぉー」

「……木蓮さんってもしかして人の心を読むことが出来るんですか?」

「うふふぅー。女の勘よぉー」


 もしも女の勘って奴がここまで有能だとしたら男という生物は女を超える事が出来なくなると思うのだが……。


「……なるほどな。さすがは女版のホームズと呼ばれるだけはある。凄まじい推理力だな」


 呆れ半分で息をはくマーレちゃん。

 ホームズってあのシャーロックホームズの事ですか? 完全に名探偵って事ですね。


「でもねぇー。こちらとしては一輝君の気持ちもわかるのだけどぉー。承服出来るのは同じく半分ねぇー」

「……と、言いますと?」

「こっちの世界についての情報は無論教えてあげるわぁー。それに望み通りおんぶに抱っこっていう事は避けるわぁー。だけどねぇー世の中というのは一人で生きるのはなかなか難しいわぁー。だからぁー」


 ちらりと視線をマーレちゃんに向ける木蓮さん。なんとなく続きはあなたが言いなさいと言っているように見えた。

 木蓮さんの視線を受けマーレちゃんは小さく息を吐くと微かな声で「わかった」とつぶやいた。


「おい。一輝」

「はい」

「お前、このギルドに入れ」


 次回更新は明日です!

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