1-4 幼女……だと?
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身体もばっちり治っている事もあり、水連に連れられて外に出た。
外の風景としては特に思ったことはない。しいていうならば思ったよりも技術が発達しているらしいということだな。
こう、魔法っぽいものがある異世界ってもっと街並みが古いと思っていたのだが、ここの光景はテレビで見るちょっと田舎かなって感じの光景だ。
「こっちです!」
何やら嬉しそうにしながら先導してくれる水連。何が彼女をここまで騒ぎ立てるなのだろうか。
「ここです!」
「おお」
ジジャーンとでも字幕がつきそうな、というか擬音が出そうな感じで紹介されたギルドは、うん、三角屋根のちょっと大きな建物って感じだな。ちょっぴり拍子抜け。
「それじゃあ行きますよー」
「お、おう」
内装はなんというのだろうか。よくある酒場的な感じではなく、会社の一階みたいな、受け付けホールみたいな、漠然とそんな感じだった。
「あはは……なんだか拍子抜けって感じですか?」
苦笑している水連に俺も苦笑しつつ頷いた。
「やっぱり。日本から来た人は大抵そんな反応をするらしいですよ?」
「へぇー。そうなの……か……えっ?」
思わず水連を凝視してしまう。今、この子はなんて言った?
日本?
「質問したい事はいっぱいあると思いますけど、とりあえずはこっちに来てください」
そんな俺の心を読んでいるかのようにそう言い、可愛らしい笑みを浮かべる水連。
ああ。そうなのか。俺は一人納得していた。
水連に言われた通り質問は一旦そこらへんにシュートしといと、おとなしく彼女の小さな背中を追い掛けていた。
「すみませーん」
受け付けのところで水連が言う。上部がガラスに覆われていて小物とか書類などが通りそうなスペースだけ下部が空いていた。そこに受け付けの人の姿はない。
それだけじゃない、軽く見回して見ても明らかに人が少ない。
「あはは、田舎なので……」
振り返り、キョロキョロしている俺にやはり苦笑しつつ言う水連。
東京から出たことのない俺には少しありえない光景だな。あっちはもはや一面人間だ。人混みに酔ってしまう体質じゃなくて良かったと常々思うよ。
そのまま待っているとやがて奥の方から人がやってきた。
ガラス越しに現れたのはやや長身の明らかに出来る女オーラの出ている女性。
「遅くなっていまい申し訳ありません」
「いえいえー」
「ご用件はなんでしょうか?」
「ギルド長にお会いしたいんですー」
ギルド長!? それってそのままここのトップって事だよな!? なんでいきなりそんな凄そうな人と会うことになるんだ!?
「……ご用件はなんでしょうか?」
「えーと、そのー」
少し表情の固くなった受け付けの女性がもう一度繰り返すと、水連が困った顔でこっちに視線を送る。
俺にヘルプを頼まれても困るのですが?
「おー。これは水連ちゃんじゃないか」
「ぎ、ギルド長!?
「…………えっ」
俺の口からそんな言葉が漏れた。
それも当然だ。なんせそこにいたのは。
「……幼女?」
「わわっ!」「ーーっ!?」
大慌ての水連にピシッと石のように固まる受け付けの女性。そして、満面の笑みを浮かべる幼女。
あっ。やべ。そういえばさっきギルド長って言葉が聞こえたような……。
「……! ぎ、ギルド長! お待ちください!」
我を取り戻し、必死に言う受け付けの女性。その顔は今までの人生で見たことがないほどに、蒼白だ。
「……おい。ガキ」
おっと危ない。今、反射的にお前の方がガキだろって言いそうになった。だって声まで幼女なんだもん。ただ見た目だけが小さいだけじゃない。本当に、本物の幼女なのだ。
「……ガキ。聞いているのか?」
「……あ。聞いてなかった」
俺の口から思わずそう漏れてしまうと、幼女の笑みがより深くなった。
あれ。おかしいな。これはまさか、悪寒?
俺と幼女の間にいた受け付けの女性が慌ててそこから退く。
幼女の身体が微かに動き始めたと思った瞬間。
正面のガラスが砕け散り、気がつけば俺の身体は床に押し付けられていた。
「おいガキ。ワタシがなんだって? ん?」
「……えっ」
大きな怒筋を浮かべながら俺の襟を締め上げる幼女。
今の状況を脳が遅れて理解する。
この幼女。只者じゃない。
「あらあらぁー。遅かったみたいねぇー」
「ん? 木蓮か?」
馬乗りになっている幼女の口から聞こえた名前に首を上に上げると入り口の方からニコニコと、おっとりとした雰囲気を纏いながら歩いてくる木蓮さんが見えた。
「元気だったぁー。マーレちゃん」
「むう。ちゃん付けはやめてっていってるだろ!」
そのままの状態で頬を膨らませる幼女、もといマーレちゃん。
何故かキッと睨まれた。
「うふふぅー。マーレちゃんその子の上からそろそろ退いてあげてくれないかしらぁー」
「…………けどこいつ」
「お願いよぉー」
「……わかった」
頬をより一層膨らませた後、短く息をはき、渋々といった風に俺の上から退いてくれるマーレ。
「うふふぅー。一輝君。紹介するわぁー。その子はマーレちゃん。この街、木枯のギルド支部の長を務めてる子よぉー」
立ち上がる俺にそう紹介する木蓮さん。
彼女が嘘をつくとは思わないが、こんな幼女が?
いや、そうか。ここは異世界だったな。ならば良く漫画とかである状況もありえるって事か。
つまり見た目はこんな幼女だが実のところ立派な大人なのかもしれない。
少なくとも目上の人間だって事はこれでわかったし、礼儀礼儀っと。
「先ほどは失礼しました。改めて僕は橘一輝です。以後宜しくお願いします」
そう言って深々とお辞儀をすると、不機嫌丸出しだったマーレさん(?)の目が見開かれる。
すぐに嬉しそうな顔を浮かべたマーレさん。
お辞儀した時一瞬だけ受け付けの女性が割れたガラス片を片付けているのが見えた。
「うふふぅー。ちなみにマーレちゃんはあなた達がよく言う……えーと、なんだったかしらぁー」
笑顔のまま手を顎に当てて若干首を傾げる木蓮さん。綺麗だ。というより可愛らしい。
「あっそうそうー。確かぁー、ロリババアとかいうのではないわよぉー」
……え?
「マーレちゃんは正真正銘まだ十歳のリアル幼女よぉー」
……なんだと。
いや、落ち着け俺。
たとえマーレちゃんが本当に外見通りの幼女だったとしても、赤髪ロングを靡かせる幼女だとしても、それでもギルド支部の長であることに変わりはない。目上の人だという事実に欠片も変化はないのだ。
視界の端でマーレちゃんがプルプルと震えているのが見える。
「へぇ。そうなんですか。まだ若いのにここの長をやっているってことなんですよね? 凄いですね」
マーレちゃんが本当に十歳だとすればそれはむしろ凄い事だ。だからこの言葉は本気の本心だ。
「……うふふぅ」
ニコニコと同じような笑みに見えるが少し変わった木蓮さん。何処と無く嬉しそうに見える。
「……木蓮。用はなんだ」
木蓮さんに話し掛けるマーレちゃん。俯いているのは同じだが、震えはおさまっていた。
「あらあらぁー。照れてるのかしらぁー?」
「う、うるさい!」
慌てたように顔をあげたマーレちゃんの顔は果物のように真っ赤一色に染めあがっていた。
「うふふぅー。人避けして欲しいわぁー」
「ーーっ! わかった。奥のギルド長室まで来い」
一色真面目な顔をのぞかせた木蓮さん。そんな彼女にマーレちゃんはハッとしたように驚いた後、真剣な顔で俺、水連、木蓮さんの合計三人を奥に案内した。
「……あれ……私は……?」
後ろからそんな受け付けの女性の声が聞こえてきた。
その、ごめんなさい。
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