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1-3 お母さん登場は心臓に悪いです

 ブックマーク評価共にありがとうございます!

 異世界に来てしまうなんて漫画や小説の中でしかありえないことだと思っていたのだが、まさか俺自身が体験することになるとはな。

 となると、困ったな。

 さっきから知らない単語を常識のように使われているし、明らかに情報が足りない。

 ギルドって確か組合のことだよな。もしかしてファンタジー系の漫画にあるような世界なのか?

 そう過程すればイーターってのはこの世界特有の魔物とか、そういう感じか?

 幻操師とか言っていたな。どんな漢字なのか会話だけじゃわからないからなんともいえないが、幻想か?

 幻想……つまりイメージ関係の何かってことになるのか?

 おそらくは魔法に近いだろうな。

 つまりは本格的にファンタジーな世界に来てしまったと思った方が良さそうだな。


 となるとだ。

 ファンタジー世界に共通する理論と言ってもいいほどの現実。おそらくは完全な力社会。

 つまり、今の俺がすべきことは一つ、異世界の住人である俺がこの世界での力を持つことが出来るのか。

 この世界の情報を知ること。

 そしてもう一つ、


 元の世界に戻る手段だ。


 個人的にこんな世界は少しドキドキもする。これは否定できない事実だ。

 しかし、そんなことよりも俺は日本に残してきてしまった母さんの事が気になっていた。

 母さんを一人置いて、俺だけがこの漫画みたいな状況を楽しむわけにはいかない。

 母さん……。

 ぐっ。なんだこれは。母さんの姿を思い浮かべようとした瞬間、ノイズのようなものが頭の中を駆け巡り、同時に激しい頭痛に襲われた。


「だ、大丈夫ですか!」


 きっと今の俺の顔は相当ひどいことになっているのだろう。ポーカーフェイスなんて到底通用しそうにない激痛だった。


 まともに目が開けられず、歪んでいる視界の中、心配そうに顔を歪める水連の姿があった。

 大丈夫だっと言いたいのだが、うん、無理……。


 俺の意識がまた黒く染まり始めていた。

 あれ? デジャブ?


   ☆ ★ ☆ ★


「……本当に何度もすみません」

「いえいえ」


 ここで目覚めてからなんと二度目の気絶だ。

 一体俺はこの娘にどれだけ心配を掛ければ気がすむのだろう。

 土下座して謝りたい気分なのだが、ダメだ。身体が動かん。

 ん? 動かん……だと……。


 ……悪化している。


 だが、痛みによって動かないというより、力が入らないとか、そういう感じだな。

 ついでに頭もぼんやりしている。


 視界は……はっきりしない。

 ぎりぎり水連が手をパタパタと振っているのが輪郭で見えるくらいだな。


 とりあえず気絶する前に今必要なことはわかったからな。今優先するべきは、回復……かな。


「えーと、それじゃあ包帯変えますね?」

「……お願いします……」


 水連もお年頃の女の子なのだ。顔を真っ赤にして俺の服をめくってくれる。

 なんだろう。この、なんともいえない恥ずかしさは。いや、恥ずかしさでいえば行動している水連の方が上だろう。

 申し訳なさ過ぎて敬語になってしまうな。


「あれ?」

「……どうかしましたか?」


 今巻いてある包帯を取ってもらった時、水連が疑問符を浮かべていた。

 全身が怠くて動けないため、俺には何があったのか全くわからない。


「いえ、その……傷が……」


 躊躇いながらゆっくりという水連。

 もしかして、どうしようもないくらいに悪化しちゃってるの?

 俺の物語ここで終わり?


「……傷が……なくなってます」


 えっ? 今この子、なんて言った?

 傷がない?


 さっきちらっと俺の身体から外された包帯が見えたのだが、正直見なければよかったと思うほどに真っ赤だったんだぞ?

 十中八九、一日とかで治るようなレベルの怪我じゃないはずだ。


「ど、どうして?」


 水連は確認するように俺のお腹をペタペタと何度も、それはもう何度も触った。

 うぐ……くすぐったい。


「う……ぐぐ……あははっ」

「あっ、ごめんなさい!」


 思わず笑い声が漏れてしまった。

 お腹に怪我をしているというのに、大声をあげて笑うなんて自殺行為以外のなにものでもないはずなのだが、痛みは……ない。


「だ、大丈夫。くすぐったかっただけだから」

「い、痛くなかったですか?」

「あ、ああ。どうやら本当に治ってるっぽいな」


 正直動揺している。

 上半身を起き上がらせただけでめまいを起こし、そのまま倒れてしまうほどの怪我があの時は確かにあったはずなのだ。

 その後気絶したとは言っても、精々半日程度。

 そんな短い期間で傷が治癒するだって?

 これじゃあまるで、化け物じゃないか。


「……俺、いろんな意味で大丈夫か?」

「……え、えーと」


 言葉を濁している水連。

 突然こんな質問をされても困ってしまうだろう。ごめんなさいだな。


「帰ったわよぉー」

「あっ。お母さんだ」


 下の方から聞こえた声に水連がピクリと反応した。


「ちょっと待っててください!」

「はーい」


 少し慌てた様子でそう言った後、水連はペタペタと部屋から出て行った。


 下から声が聞こえたってことはこの部屋は二階なんだろうなとか考えていると、二人分の足音が近付いてきた。若干離れてる?


「はじめましてぇー」


 やってきたのは小柄な水連と大して体格の変わらない女性だった。

 随分とゆったりとした口調に、ふんわりと下が開いている落ち着いた色のワンピース。

 そして娘とは違って大きく存在感を放つ母性の象徴。


「水連の母のぉー。木蓮(もくれん)よぉー」


 そういって礼儀正しくお辞儀をする木蓮。

 ゆっくりとした動作だが、ぷるんと激しく自己主張している。……どこがとは言わないが。


「横になったまますみません。俺は……いや、僕は橘一輝です」


 年上の、それも初対面の人への礼儀って大切だと思うんだよな。横になったままというのはよろしくないが、どうか許して欲しい。


「あらあらぁー。礼儀正しいのねぇー」


 どうやらつかみはうまくいったみたいだな。人のイメージは一番最初が肝心ってよく言うからな。

 異世界というこれからどうすればまったくわからないこの状況。今の俺に必要なのは一人でも多くの信頼できる人だ。


「お、お母さん! だめだよ酷いことしちゃ!」

「……うふふぅー」


 少し遅れて部屋にやってきた水連が叫ぶ。

 水連のあの慌てよう。もしかして九死に一生を得た感じですか。

 木蓮さん。目が笑ってないです。


「あらあらぁー? あなた、もしかして式持ちなのかしらぁー?」

「……え? ……ええっ!?」


 きょとんとした後、数秒間時間が止まったかのようなだった水連が面白いぐらい驚愕の感情を整った顔に乗せて叫んだ。


 式持ちという言葉から連想されること……うん。わからん。


「なんですか、その式持ちっていうのは?」

「……あらぁー?」


 可愛らしく首を傾げる木蓮さん。見た目が若いせいでちょっとドキッとしてしまった。不覚。

 それにしても随分と驚いているみたいだな。その式持ちってのは重要なものなのだろうか。そうすると、困るな。

 あまりにもこっちの知識が足りていないことがバレると後々面倒なことになりそうだし、いや、今は情報収集が最優先かな。


「……もしかしてあなたぁー」


 なにやら意味深な笑みを浮かべる木蓮さん。

 何か一人で納得した後頷いた木蓮さんは隣で困惑している様子の水連に視線を向ける。


「水連ー。一輝君をギルドに連れてってくれるかしらぁー」

「え? どうしてですかお母さん?」

「多分だけどー、彼はミクちゃんと同じだと思うのよねー」

「……ええっ!」


 木蓮さんの言葉に一瞬止まった後、酷く驚いた顔で俺の顔を見詰める水連。どういうことですかねぇー。本当に説明してほしいです。


「わ、わかりました! 一輝さんは私が責任持ってギルドにお連れします!」

「お願いするわぁー」


 ノリが良いのかピシッと敬礼をする水連に同じく、だけどこっちは緩やかな敬礼をする木蓮さん。

 一体これからどうなるんだ?


 

 次回更新は明日です!

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