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1-18 異世界版メイド喫茶的な?

 ブックマーク評価共にありがとうございます!

「いらっしゃいませ、ご主人様!」


 店の中に入ると同時にこだまする声。

 ……えっ。


 入り口から受付に掛けてズラっと並んでいる和装メイドの列。

 凄まじい圧倒感だ。


「ご主人様方、お二人でよろしいですか?」

「は、はい」

「ありがとうございます。お泊りでよろしいでしょうか?」

「は、はい」

「それではご主人様、次からお部屋をお選びください。二人部屋を一つ、一人部屋を二つ、三人部屋と一人の(しもべ)付きの特別部屋。どうなさいますか?」

「一人部屋を二つでお願いします」


 始終実久が店員の相手をしてくれていたのだが、俺は実久の後ろでただただ呆然としていた。


 なんだこれ、こっちの世界番メイド喫茶か何かか?


 それかれ三つ目。僕付きのお部屋って何ですか!?


「それではこちらです」


 列を成していた内の一人が俺たちの方にやってくると部屋まで案内してくれるようだった。


「……言っておくけど、三番目の部屋、言うだけで常に満室よ」

「えっ?」


 それって本当はないって事か?

 というか実久さん? 何故あなたが知っていらっしゃるのですか?


「それではご主人様はこちら。お嬢様はこちらのお部屋をお使いください。こちらお部屋の鍵でございます。無くされないよう御気を付けください」


 最後の説明をするとぺこりと頭を下げ、顔を上げた後に俺たちの顔を交互に見直した後、音も立てずにその場から来た道を戻っていった。


「あっ。あたしちょっと受付行ってくるわね?」


 ドアノブに手をかけたところで声を漏らし、ピタッと動きを止めた実久。


「なんで?」

「メディンとルカさんが来た時のために伝言をね」

「ああ、わかった」

「一人で行くからあんたは休んでなさい。どうせ旅なんて慣れてないから疲れてるでしょ?」


 メディンからもらった薬草のおかげで随分とマシだが、それでも旅と疲れってやつは抜けないな。

 正直ありがたい。


「……そうだな。ありがと」

「いいのよ。じゃね」


 実久と別れた後とりあえず部屋の中に入ってみる。

 入り口があんな感じだったから、中はどんな感じなのだろうとちょっと心配していたのだが……うん、普通だ。


 一人部屋ということで広さはあまりないが、俺としては広過ぎるよりもちょうど良い。


 座布団二つに足の低いテーブルが一つ。それから布団セットも一つ。

 必要最低限って感じだな。

 まあ、宿屋なんてそんなものなのか?


 この旅、なんと恐ろしい事に荷物がない。

 マーレ師匠の命令で必要以上の荷物が持ち歩き禁止なのだ。

 つまり常に現地調達。


 木枯からテニントまでは幾つか馬車バスを乗り継いだのだが、その間買い物は一切していない。

 ちなみに半日ぐらい乗っていた。


「限界! 腹減った!」


 こちとら平和な日本で優々と暮らしていたのだ。幸せな事に飢餓とは無縁だったのだ。

 そして俺の場合ダイエットとも無縁だったため断食とかいうやつをしたこともない。


 つまり、生まれてから始めて感じる激しい空腹に死にそうです。


 食べていないのは実久も同じはずなのだが、女子はダイエットとかで慣れてるのかな? だとしたら……凄え。


「無理!」


 おとなしく座ってればまだマシかと思い、テーブルの上にグターっとしていたのだが、だめだ何かしないと腹へりケージが凄まじく自己主張してきやがる。


 立ち上がった俺はちゃんと鍵を閉めた後、受付に向かった。


「あら、どうしたの?」


 その途中、実久と出会った。そういえば受付に行ってたんだっけ。この会話、ついさっきのはずなのだが忘れてたな。


「腹減り」

「ああ。そういえば何も食べてなかったわね」


 なんでもない事のようにいう実久。こいつ、半日ぐらいなら何も食べないで平気なのか?


「何よその顔。たったの半日でしょ?」


 こちとら食べ盛り、成長期だこら。……実久もだな。


「師匠のところで空腹対策訓練しなかったの?」

「……なんだそれ」

「そのままよ。空腹でも満足に戦えるようにするための訓練。言い換えれば空腹に慣れる訓練ね」


 こいつ、あのドS幼女の元でそんないじめにあってたのか?


「……俺の場合は定期的に水連がご飯を持ってきてくれたからな」


 まあ、お腹いっぱいなると吐くから腹五分目にしてたけど。


「そう。なら多分これからやるでしょうね。いえ、もしかしたら今回の旅がその訓練も兼ねてるのかしら?」


 何事も実際に体験しろって事か?

……あのドS幼女からやりそうだな。


「あんたの場合訓練よりもすぐに本番をやらせた方が良さそうだしね」


 褒められている気がしない。

 褒めてないのか。


「まっ。本格的に旅が始まれば嫌でも慣れるわ。だからとりあえず今はご飯に行きましょうか?」

「もしかして実久も結構お腹空いてる?」

「……さあね」


 どうやらここは二階から上が宿屋になっていて一階は食堂になっているらしい。


 受付の右側を進めば階段があって、そこを上がれば部屋まで行けるのだが、右側ではなく、左側にいくとそこが食堂だ。


 残念なことにマーレ師匠から旅費なんてものはもらっていない。お小遣いだって当然ない。


 つまり、食堂に来ても食べるためのお金がないのだ。


「とりあえずここはあたしが出すから遠慮しないでいいわよ」

「……サンキュー」


 素直に礼を言って頭をさげると実久は軽く手をパタパタさせて気にするなと言う。……良い奴だな。


 なんとも情けない感じだが、女の子におごってもらったご飯はすごく美味しかった。


 一品一品の量はそこまでないのだが、単価が安く、幾つかまとめて注文するのが一般的らしい。


 回ってはいないが、回転寿司と同じ空気だな。食べたいものを食べるって。


「ごちそうさまでした」

「部屋に戻るなら先に戻っててもいいわよ?」

「いや、けど……」


 おごってもらうというのに先に帰るというのはなんとも……。


「気にしなくていいの。あえて言うと男の前で二人分払うのってちょっとね」


 ああ。そうか。俺たちの場合は違うのだが、お年頃の男女が二人っきりでの食事。カップルだと思われても仕方がない。


 レジを担当する店員からしたらまるでヒモの彼氏を持っている彼女のように見えてしまうだろう。実久としてはそっちの方が嫌なのか。


「それじゃ先に」

「ええ」


 この別れにしんみり……なんてことはもちろん無く。さっさと部屋に戻る俺。


 お腹も膨れた事だし魔力の体内操作練習でもするか。


 やり方はシンプルだ。ただ坐禅を組んで目を瞑るだけ。

 感情の高ぶりによってその活動を活発化させる魔力。


 活発化した魔力は同じ量でも通常の魔力よりも大きな力を含んでいる。しかし、その代わりにコントロールが難しくなってしまうのだ。


 活発化状態でコントロール出来るようになれば俺の戦闘能力はもっと上がる。多分肉体の力を一○○パーセント以上に引き出せるようになるだろう。


 だけど今の俺は活発化を安定化させる云々に、そもそも活発化が出来ない。


 この旅の中で安定化を出来るようにする。とりあえずはそれが目標だな。

 次回更新は月曜日です! ごめんなさい!

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