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転生先はもっと考えてくれてもいいと思うんだよ神様!




とある財閥に一人の男の子が産まれた。

彼はどこにでもいる普通の赤ん坊でその後財閥の子息としての人生を普通に歩んできた。

少しばかり親に甘やかされ過ぎて傲慢な態度に育ちながらも、それ以外はごく普通の少年だった。


いつも通りに過ごしていた日に、それは突然起こった。

成長し学園へと入学し早数日の少年の頭の中に、その年齢に見合わない膨大な記憶が溢れ出したのだ。わずか数分で何百、何千本もの映画を見せられるような膨大な記憶の量に、少年の脳は耐え切れず精神を崩壊させない為身体は高熱を発して意識を手離した。

それから数日間、高熱に浮かされながら少年の脳は膨大な記憶を整理し始めた。


そして数日後、記憶の整理が終わり部屋で目を覚ました少年は、膨大な記憶の内容に驚愕し、側にあった鏡で自分自身の姿を見て、大人達の会話を聞いて、叫んだ。




「―――――びゃああああああああああああああああああああああああ!!?」




パタリ。

そして少年はまた気絶し、両親と使用人と医者に更に心配される事になった。














とある部屋で俺は一人、頭を抱えながら涙を零していた。

つい最近まで高熱に浮かされ数日寝込み続けていてやっと意識を取り戻したけどすぐにまた気絶して周りの人達を困らせたばかりなので、今この場を両親や使用人が見たら「どうしたんだ」と慌てそうだけど、そんなの知ったこっちゃない。

嗚呼、でも、そんな、嘘だろぉ…


「…生まれ変わったとか、マジかよ…」


そう、俺はなんと所謂転生というものを体感していた。

数日前に自分の頭の中で溢れだしたのは前世の記憶というやつで、それにより俺は生まれ変わったのだという事を知ったのだ。記憶はところどころ抜けてはいるのだが、それでも今とは容姿も生活もなにかも違う人生を歩んでいた事を思い出した。

前世の俺はごく普通の一般家庭で育ち、学生時代は勉学をそこそこ励みながら友達と騒いでバカやって、卒業後はサラリーマンになって忙しくも遣り甲斐のある仕事に就いて必死に働いて、なかなか恋人も出来ぬまま独身三十歳半ばにして大病を患い、病に苦しみながらも親父お袋姉ちゃん義兄さん甥っこ姪っこに囲まれて不謹慎だけど嬉しくて少し満足しながら生涯を終えた。そんな人生を、歩んでいた。

勿論、まだまだ色々やりたい事があった。親孝行だってもっとしたかったし叔父として甥っこと姪っこを可愛がりたかったし出来れば結婚して自分の子供も欲しかった。悔いなんていっぱいあったんだ。

だから、こうして生まれ変わった事は、きっとありがたい事なんだろう。

しかもお金持ちの家だから人生イージーモードだ。随分めでたい事なんだろう。

なんだろう、けど…()()()()()()()()と思うんだよ。


「う…うわぁああああああああああああああああん!!!」


俺は大泣きした。ギャン泣きだ。今の俺でもある慎治は泣くことはあってもここまで大泣きする子供ではなかったけど今の俺は前世も合わさって俺なんだそんな事知るもんか!

泣きすぎて自分でも五月蠅いので枕に顔を埋める。ちくしょうなにこれ柔らかすぎるんですけど! 羽毛なんてなめてんのか! そばがらこそが至高だ持ってこい!

扉の外で「どうした慎治!? どこか痛いのか!?」「慎治ちゃんここを開けて! 今日は慎治ちゃんの大好きなお菓子を持ってきたから、ねっ!?」「坊ちゃま、旦那様と奥様がご心配されております! どうか扉を開けてくださいませ!」と慌てた様子の両親と使用人の声が聞こえけど、ノックもコンコンどころかドンドン聞こえるけど、そんなの気にしてられるか!。



生まれ変わった先が、大問題なんだよ!!



「『万年発情期(嫌悪)の噛ませ犬』になるなんて嫌だぁああああああああああああああ!!」



とても6歳児が口にするような内容ではない悲痛な叫びが、部屋に響き渡った。















前世の俺と姉ちゃんは所謂ゲーマーという奴で、俺はロールプレイングゲームつまりRPGを好み、姉ちゃんは恋愛シュミレーションゲームつまり乙女ゲームという奴を好んでいた。

お互いゲームをやれと押し付け合わなかったけど好きなゲームの感想とかは語り合っていて、その中で姉ちゃんが特に熱く語っていた乙ゲーがあった。

その乙ゲーの正式な名前は長くて忘れたけど略称で『ラブカラ』と呼ばれていたその乙ゲーは設定こそありきたりな学園ものの恋愛だけど有名なシナリオライター声優イラストレーターなどなど豪華スタッフらが制作に携わった最高傑作とかで、乙ゲーマーの間では人気作品のTOP3に入る出来だったそうだ。

その勢いはソフトだけに留まらずファンディスクやグッズまで制作されてどれも絶好調。初めて姉ちゃんがゲームソフト以外での出費を惜しまなかった作品だったので、その作品が俺の中ですごく印象に残っていた。


そんな人気のゲームだったけど、そのゲームの登場人物の中で一際群を抜いて嫌われていたキャラクターがいた。

そいつは攻略対象でもなくライバルキャラでもなく当て馬でもなくモブでもない、やられ役。

RPGで言うなら特別な力を持った主人公にいちゃもんつけて勝負を挑むけど惨敗する役、つまりは噛ませ犬ってやつだ。

とにかく姉ちゃんが言うには、その噛ませ犬はヒロインに惚れて、ヒロインにセクハラしたり金で買おうとしてくるらしい。立ち絵も見せてもらったけど見た目はイケメンだけど気持ち悪いにやにやとした嫌らしい笑みを浮かべていて、いかにも噛ませっぽい感じだった。清々しいくらいに悪役顔だ。

しかも最終的にその噛ませ犬はルートに入った攻略対象に糾弾されて家が没落し多大な借金を抱え学園を退学をしてしまうだとか。

あまりのセクハラ魔っぷりに噛ませ犬は『万年発情期(嫌悪)』というあだ名を乙ゲーマーにつけられたらしい。






―――――そう、つまり、そういう事だ。

俺はどうやら、その噛ませ犬…瀬谷川(せやがわ) 慎治(しんじ)として、生まれ変わったらしい。

前世の記憶が蘇って整理はある程度できたけどまだ記憶が混濁したままの状態で起きた時に見えた鏡の中に乙ゲーの瀬谷川慎治をそのまま幼くしたような前髪含め少し長めの黒髪につり目の黒目の美少年が写っていて、俺と同じ動きをしていたからそれが自分だと分かった途端顔を強張らせた。

そして側にいた周りの大人達が俺のことを「慎治様」、両親と思われる男女のことを「瀬谷川様」と呼んでいて、完全に自分が「瀬谷川 慎治」だと確定した時は叫び声を上げてまた気絶した。

情けないけど前世の俺は気弱な方だったんだ。ホラーとか怪談とかダメでよく泣き虫だとからかわれるくらい気弱な方だったんだ。生まれ変わってもそう簡単に直らないくらいの気弱な方だったんだ。大事な事なので三回言った。

そんな気弱な俺がこんな噛ませ犬に生まれ変わったと分かって発狂するな気絶するなと言われた方が無理だ。病を患っていたならもれなく吐血というオプションも付いてたと思う。




正直言おう。す・ご・く・い・や・だ・!!

没落とかマジ勘弁だよ! 一般市民に落ちるまでなら前世一般市民だった俺は全然問題ないけど更に多大な借金を抱えるんだろ!? なにが悲しくて17歳という年齢で借金なんか背負わなきゃいけないんだよ両親に親不孝な事しなくちゃいけないんだよ!?

それになんでよりにもよってセクハラ魔なんかに生まれ変わったんだよ俺!? 冗談じゃないぞ!! 俺はセクハラなんてしたくないぞ!!

こいつはセクハラされた女の恐ろしさを知らないんだ!! ヒロインは健気で明るくてか弱い女の子だから大丈夫だったんだろうけど、他の女は違うんだ!!

俺はその恐ろしさを知ってる!!

あれは忘れもしない、初回限定盤のゲームを買いに電車に一緒に乗った姉ちゃんが痴漢に遭遇した時だ…あ、駄目もう思い出したくないあの姉ちゃんの般若のような顔とか姉ちゃん含んだ周りの女性のゴミを見るような蔑んだ目とか痴漢した犯人の手と指があらぬ方向に曲がってて泡ぶくぶく吹いてて失禁してて白目になってたとかもう思い出したくなびゃあああああああああああああああああああああ!!


俺はトラウマがフラッシュバックしてまた泣いた。扉の外がまた五月蠅い。泣きつきたいので今なら母様なら入れてもいいかもしれない。でも今のうちに記憶やら気持ちを落ちつけたいのでまだ我慢。










と、とにかく俺はあんな恐ろしい目に遭いたくないぞ!!

そして没落も高校中退もマジ勘弁!!

なのでヒロインとの接触全力回避を所望する!!

俺は今世では前世よりも充実した人生を歩んでやるんだ!!

後出来れば今度こそ女性とお付き合いしたいです!!

俺の好みはヒロインみたいな子じゃなくて大和撫子な人だ!!




「俺は絶対ヒロインなんかに関わらないんだからなぁあああああああああああ!!!」




俺はドアのノック音と大人達の心配した声をBGMに、そんな人生目標を叫ぶのだった。












…とりあえず落ち着いたので母様に泣きつきに、もとい甘えに行きまーす!




最後主人公は母親に抱き着きに行きましたが、前世三十歳だったけどかなりの純情っ子でしたのでやらしい気持ち一切ナッシングです。おっぱいぱふぱふとか考えてません。純粋に甘えに行きました。一応今世では6歳児なので。

むしろ三十歳にしては純粋すぎて実はブラコンな姉ちゃんから「弟を恐ろしい毒牙にかけてなるものか!」と肉食系女子に近づかれないようにされてて出会いなかった可哀相な子でした。

なので最後読んで「お前も人妻にセクハラしに行くんじゃねーか」って思った奴は土下寝しな!!

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