Sクラスキノコハンター VS キノ娘
俺は超絶キノコハンター。
あらゆるキノコの知識をパーフェクトに持ち、どんなキノコも一目見ればピタリと鑑定する。
それがっ!
Sクラスキノコハンターっ!
世界に三人しかいない究極のキノコハンターだ。
俺以外の二人か?
ふ……引退したよ。
あるキノコにやられてな。
つまり現在、世界にSクラスキノコハンターは俺だけということだ。
彼らの無念を晴らすためにも、俺はやらねばならない。
その凶悪なキノコがこの辺にいるはずなのだが……。
むっ、キノコの気配!
朽ちた大樹の根元から、大気を歪ませるほどのキノコオーラを感じる。
俺の額を汗が伝った。
この存在感……もしやヤツか?
「菌眼!」
左眼の眼帯を外し、秘めた力を開放する。
――菌眼――
それはあらゆる菌類の正体を暴き出す、禁じられた力。
「汝の正体見たり! 森羅万象、天元看破!」
「きゃっ、まさか私の居場所が見破られるなんて……あなた、ただ者じゃないわね?」
我が神通力により姿を現した、白いドレスの少女――。
いや……少女なのか?
否っ!
ではロリータなのか?
否ーーーっ!!
これこそはキノコの娘、略してキノ娘であるっ。
いかなる怪奇が起こったものか、世界中のキノコが少女形態を取るという、世にも奇妙な本当は恐いアンビリーバボーな現象が起こっているのだ。
そこで調査のために白羽の矢を立てられたのが、世界に三人のSクラスキノコハンター!
二人引退したけどなっ!
「そのふんわり白ドレスに貴婦人の被る幅広白帽子、それなのに幼さ満点のちっさい背丈。ただならぬ幼気が漂っておる! 貴様、ドクツルタケのキノ娘だなっ!」
「どうしてそうなるのよっ!」
「隠しても、俺の幼気センサーがしっかり反応しておる」
「……そのセンサー、悪い電波でも拾ってんじゃないの?」
「その毒の吐きよう、まさに毒キノ娘の証よ!」
ふふ……さあ本性を現せ。
むっ、なぜ涙を流す?
なぜだ、なぜ俺の心は痛む?
「すんすん……好きで毒キノコに生まれたんじゃないもん。私だって、マツタケやシメジみたいに人に好かれたかった……」
「そっ、そうか……そうだったのか……俺が悪かった」
「と油断させて胞子放出!」
ブワッ!
キノ娘がドレスを大きく振り上げ、その拍子に晒された太ももに思わず目がいった瞬間、白い胞子が大量に放出された。
な、何も見えん!
あとちょっとだったのに!
「人間さん、さようなら」
まずい、攻撃が来る!
かくなる上は!
「くくく……胞子を出せるのがキノコだけと思うなよ」
「え……?」
「俺の胞子……浴びてみるか?」
「は、はったりだわ! 人間に胞子を出せるはずが……」
「そう思うなら来るがいい。そら、出すぞ?」
キノ娘が息を飲み、攻撃を躊躇っているのがわかる。
その迷いが命取りよ。
「ネビュラブリザード!」
「きゃあああ! いやあっ、ほんとに、ほんとに胞子きたあーーーっ!!」
十年洗っていない俺の頭から、銀河のごとく白き渦を巻いて胞子が飛び散る。
そうっ、これがっ。
ネビュラブリザードっ!!
しょっちゅう秘境の山奥で活動しとるからな。
風呂に入ったりせんのよ。
びくん、びくん。
俺の胞子を浴びたキノ娘が横たわり痙攣している。
……チャンスだ。
一応周りを確認する。
よし、誰も見ていない。
ゴクリ……。
白いドレス、白いうなじ、どこもかしこも白い肌……。
ハァ……ハァ……。
目立つだろうな……。
俺は懐から黒の油性マジックを取り出し、気絶しているキノ娘の白いまぶたに目を描く。
ぶふっ!
さらにさらに、可愛い白いおでこに一文字描き入れる。
――菌――
ぶふふーーーっ!!
引退したSクラスキノコハンターの二人よ。
お前たちの敵は取ったぞっ。
……さて逃げよう。
復讐が恐いからなっ!
さらばっ!
――数日後、両手に黒マジックを持ち、「どぉ〜こ〜だぁ〜」と呟きながら山をさ迷う、額にお茶目な一文字を入れたドクツルタケのキノ娘が目撃される。
人々はこれをドクツルタケならぬド〇ちゃんと呼び、恐れおののきながらもホッコリしたとかしないとか――