熱帯魚
父と母が別れる前の話。
両親が動物好きな影響もあってか、私も動物は大好きだった。
特に父は熱帯魚の飼育に夢中だったので、私も好んで水槽洗いを手伝っていた。
と言っても水が入った水槽は、とても重いのでひっくり返す訳にもいかず、水槽にホースをいれ、ナントカの原理で吸い出していた。
日頃の勉強不足がこんな所で仇となるとは思ってもみなかったが、まぁ良しとしよう。
水をあらかた捨てると、熱帯魚達をバケツに移し、砂利を別の容器に移す。
水槽は父が磨くので、私は米磨ぎの練習と言わんばかりに砂利を洗ったものだ。
新しいお水を入れ、キレイな水槽をみると心地よかった。
私、頑張ったな。
などと感傷に浸っていた。
だが異変はすぐに起きた。
何と大切な熱帯魚たちが、何匹も浮かび上がってきたのだ。
この様子には父も驚き
「新しいお水がダメだったのか」
「でも半分は前のお水を使ってるし..」
頭はプチパニックのようだったのを覚えている。
こうしている間にも熱帯魚たちは次々と浮かび上がってくる。
その様子を呆然と見つめていた私たちは、ようやくある事に気付いた。
温度計があり得ない温度に上昇している。
そぅ、その日は真冬で手が凍る程冷たかったので、お湯で水槽を洗っていたのだ。
その調子で水槽のお水にもお湯を使っていたのだ。
父は急いでお湯を捨てたが、生き残ったのはごく僅かだった。
父が家を出るのと同時に熱帯魚もいなくなってしまったが、私はたまに「熱帯魚、育ててみようかな」と思う時がある。
熱帯魚のコーナーに行くと、必ずこの事を思い出し
あの時はヒドイ事をしてしまったなと思い未だに手が出せないが、あの色鮮やかな魚達の事は一生忘れないだろう。