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閑話休題 ―逢―

「逆木、良い話があるんだが」

「乗った!」

 とある金曜日の昼下がり、三限が休講になってしまい、のんびりと昼ご飯を食べている時である。一級フラグ建築士、総合大学であるうちの学部(文・教・法・医・理・薬・工・園、の合わせて八つ)を制覇したと実しやかにささやかれる友人、村越芽衣から声を掛けられた私は、間髪を入れずそう答えた。

『即答!?』

 これには流石に、他の友人達からもつっこまれる。中にはお茶を吹きこぼした者までいた。そんなに意外だっただろうか。

「おう、それでこそ逆木だ。褒めてつかわす」

「ありがたき幸せ」

 威厳たっぷりに頭を撫でる芽衣と、うやうやしく撫でられる私。とても奇妙な構図である。

「おいおい……」

 周りの皆は呆れながらも、いつもの事だと再び食事に戻る。芽衣は何故か喋り方がこんなんなので、会話をすると江戸時代のお代官様ごっこになってしまうのだ。まぁ、今回の話的にはこのノリでも間違ってはいないのだろうが。

「で、どんな話よ?」

『そこは聞くんだ!』

 乗った話を蹴るならばいざ知らず、詳細を尋ねるぐらいならばしても何ら問題は無いと思う。彼女がこうやって声をかける、という時点で大体は分かっているのだが、流石に聞いておかないと不安なのだ。

「いやー、ちょいとさ、メンツが足りなくてね」

「面子?」

「って事は、まさか……!」

「俺と一緒に、合コンに行かないか?」

「行くうううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」

 そう。彼女、村田芽衣は人呼んで“恋愛の神様”。またの名を、“合コンの芽衣”。ありとあらゆる人脈を駆使し、週に一回はどこかの合コンに参加しているつわものなのである。そういえば、前に話を聞いた時に、今度は私も誘って、と言った気がする。どうやら、彼女はそれを覚えていてくれたらしい。

――流石、一級は違うなぁ。

 毎週毎週異なる人間と会い、メールアドレスを交換しやり取りをするのだ。相手の言葉一つ一つに耳を傾け、一挙手一投足に目を光らせていなければ、出来ない芸当であろう。

 ちなみに私は、一級は一級でも、“乱立士”の異名を持っている。自分が気の無い相手から好かれるという所から、詩衣菜が名付けた。同じ級数でも、ほんの少しの違いでここまで変わるとは。いやはや恐るべし。

「よし、では本日一八○○、正門前で落ち合おう!」

「あいさー!」

 こうして、花の金曜日に私は街へと繰り出す事になった。


 その夜、騒ぎ疲れて帰り道。

「はぁー。割と有名私立がそろってたから、ちょーっと期待してたのに……」

 私のこの下がった肩と溜息でお分かりかとも思うのだが、結果的に言えば私好みの良い男はいなかった。まぁ、五対五の合コンでそれを期待するのも無謀という話である。

「まぁ、六大学なんて言うけど、どれも大した事無いのよ」

 どうやらフラグマスターはうちの学部だけでは飽き足らず、六大学までコンプリート済みらしい。

「なんかもう師匠が流石過ぎて、言葉が出てこないっす!」

「はっはっは。まぁ、また良いのそろったら誘ってやんよ」

「あざーす!」

 そんな最後まで明るいテンションで、芽衣とは別れた。


「はっはっは……はは。まぁ、そんなに上手くはいかないよね」

 しかし一人になるとつい、本音がもれてしまう。ただでさえ人見知りの私だ。芽衣のようにテンポの良い会話は出来ていなかっただろう。そりゃあ、数時間が勝負の場では魅力的には映らない。一応、全員とアドレスは交換したが、多分最初の一、二通でやり取りは終わるだろう。

「はぁ~」

――なんで私には、良い人が現れてくれないのかなぁ……。

 大袈裟に溜息をついていたら、

「あゆみ?」

ぽん、と肩を叩かれた。

「にゃっ!? ……吃驚したぁ」

 そこに立っていたのは、スーツ姿の私の彼氏(ただし一方的に絶賛倦怠期中☆)であった。

「なんだよ、そんなに驚かなくても」

 どうやらバイト帰りだったらしく、疲れた顔をしている。ただでさえそんな状況なのに、最愛(?)の彼女に驚かれては不機嫌にもなるだろう。かたや、今の今まで遊び歩いていた私。

――こりゃ、本当の事ばれたら怒られるなぁ……。

 そう思っていたら、そんな私の気持ちを見透かしたように、

「こんな夜遅くまで……。何してたの?」

と聞かれてしまった。内心の動揺を隠すのに精一杯で、曖昧に笑う事しか出来ない。

「サークル?」

 微妙な反応を、言いづらい事だとはとらえたようだが、流石に彼女が遊び歩いていたとは思わなかったらしい。

「まぁ、そんなとこ、かな?」

 私の所属しているサークルが遊びサークルであり、夜遅くまでカラオケやボーリングに興じている事を彼はよく知っていた。こういう時、隠れ蓑に使えるから良いよね。ビバ、サークル。

「いいよなぁー。俺なんか今の今までバイトだよ。なかなか帰らせてくれなくてさぁ……」

 普段はクールを気取っているくせに、私の前では妙に愚痴が多い。本人的には甘えているつもりなのだろうが。まぁ今日ぐらいは許してやろう。自分の立場は棚に上げて、適当に聞き流す作業をする。ただし、罪滅ぼしに心なしか多めに相槌を打ってあげたけれど。

 そんなこんなで別れ際、じゃ、と言って帰ろうと思ったら

「あんまり遊び過ぎちゃダメだぞ?」

こつん、と頭を叩かれた。いつもはただうざいだけの彼氏の笑顔なのだが、この時ばかりは深夜テンションも相まって、無駄に可愛らしく見えてしまう。

――久々に、ときめいたかもしれない。

「じゃあ明日ね!」

 時間が遅いからという事で珍しくちゃんと送ってくれたのもあり、私は上機嫌で家に帰った。


 しかし、翌日。

「……遅い」

「ごめんごめん。寝坊しちゃって」

 とりあえず一時間の遅刻から、一日は始まった。

「き、気を取り直して! さ、行こうか」

 ところが、本日行く予定だった動物園は何故か超満員で(後から知ったのだが、この日は動物園の開園記念で入場料が無料だったらしい)、挙句の果てにはお昼ご飯を食べようと決めていたらしいレストランは定休日。

「なんでこんなとこまで来てファーストフードなわけ……?」

 食に関してはとてもうるさい私は、喧嘩腰になる。誰だって空腹時はいらつきやすいと思うので、是非この心情を分かっていただきたい。

「ごめん……」

 あれから急いできっとプランを立ててくれたとは思うのだが、それにしても穴が多すぎる。というか、今日出掛ける事は一カ月も前から決まっていたんだから、先に立てておいてくれても罰はあたらなかっただろうに。

 その後も険悪なムードが続き(私が不機嫌だっただけかもしれないが)、極めつけはこの一言。

「昨日は僕が送ったんだから、今日はあゆみが送ってよ」

「……」

――当番制なのかっ、当番制なのかっ。おかしいだろう、私の乗る電車のホームはこれの手前なんだよ今ここで分かれるのがお互いベストだろうがああああああああ。

 なんて事は流石に言い出せず、大人しく五十メートルぐらい離れた改札まで送っていきましたとさ。あんまりめでたくない。

 おまけに、若干のタイムロスにより電車を一本逃した為、帰宅ラッシュにかちあってしまった。座る事が出来ず、疲れと眠気でふらふらと吊革につかまり揺られながら、

「……ダメだこりゃ」

素直な感想を口にする。

――やっぱり、良い人見つけないと……。

 あまりの駄目男っぷりに、改めて決意を固めた私であった。


地味にこちらはあんまり書いてなかったなーと思ったので、今回書いてみました。

最初は上手くいく風にしようと思っていたのに、何故か結局進展もなにもせず、現状維持に(苦笑

まぁ今後、こちらもどうにかなると思っております……。多分。

とりあえず、次話からはバイト先との闘争が本格化する予定です。

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