閑話休題 ―宴―
いつもとは異なり、一応三人称視点です。
短めですので息抜きにどうぞ。
とある女子寮にて。ぞろぞろと、まるで何かに操られているかのように行進し、奥へ奥へと吸い寄せられていく八人の大学生。皆、両手に白い袋を持ち、それらは全てはちきれんばかりに膨れている。誰かが呟いた。
「時は満ちた――」
ピタリ、とある部屋の前で止まり、先頭に立っていた家主が鍵を開ける。開いた事を確認してから、雪崩れ込むように彼女達は室内へと侵入した。
これから語られるのは、女達の集いの、ほんの一部分である。
さて、重厚な雰囲気から一変して突然ですが、皆さんは“お菓子パーティ”と聞いて、果たしてどんなものを思い浮かべるでしょうか? 小学生がお菓子を持ち寄って、ジュースで乾杯しながらわいわいはしゃいでいる様子? それとも、イングリッシュミルクティーにスコーンな優雅なひと時、マダムのティータイム?
残念ながら、こちら某大学理学部某学科女子による会はそんな物ではなく、むしろ……。
「おーい、コーラ無いぞコーラ!」
「えー飲んじゃったのー。もうないよー」
「だからもう一本買おうって言ったのに……。ほら、最後に飲んだ奴、責任とって買ってくる!」
「いやそこはゲームで決めよう。さぁ誰か割り箸を持ってくるんだ!」
「って王様ゲームかよっ」
ペットボトルが乱立し、食べたお菓子の空き袋がタワーを成す。それを囲むように、というかすでにそれらに囲まれるように座っている女性達。片手にコップ、片手にお菓子を持ち、ある者はくわえたまま、ある者は指揮棒のように振りまわしながら会話を続ける。そう、それはまるで花より団子と化した花見のようであり、仕事帰りのお父さんの憩いの場ビアガーデンのようであり。まぁ、要するに。
「はっはっは。今日は宴だー!」
酒の無い宴会なのである。いや、本当は飲み屋に行ける年齢の人もいるのだが、まだ未成年が大半を占めている為、配慮し自粛してこのような形をとっているらしい。しかし、酒が入らないでこの盛り上がりようだ。来年辺りの惨状が目に浮かぶ……。
「……全く。片付けはしていけよー」
毎回部屋を提供しているのは、唯一独り暮らしをしている詩衣菜であるが、後片付けがものすごく大変な事を、逆木は知っていた。まぁ、数十本にも及ぶ空のペットボトルや、数袋にまたがる事もあるゴミの量を思えば当然だろう。
「うん、やっとく」
そう片手間で答えるのは、千波である。彼女は、先程の空き袋タワーを作っていた張本人であり、ある程度食べるともはや飲食そっちのけでオブジェの制作にいそしむ。何が楽しいのかは本人のみぞ知るが、皆黙認している。その辺り、心が広いというか寛容というか。もしかしたら、普段から地球を相手取っているからかもしれないが、その真偽は謎に包まれたままである。
「そーれーよーりー、そろそろ始めない?」
場が温まり、腹も満たされた頃を見計らって、麗華が切り出した。
「やりますか」
待ってました、とばかりに散らばっていた他の面々も、次々と机に集まる。ちゃちゃっとゴミがまとまっていく様子は、流石女の子と思わせた。
一通り片付いたのを見計らって、誰かが声高々に言った。
「いでよ、トランプ!」
「はいはい」
龍でも呼び出しそうな勢いで言葉が発せられた割には、冷めた調子で取り出すのは家主である。
「つれないなぁ」
どうやら、このコントのようなノリは学科共通のものだったらしい。てっきり、逆木の周りの四人衆だけだと思っていたのに。思いたかったのに……。とまぁ、それはさておき。もはや恒例と化しているのか、手慣れた様子で、八枚のトランプが机の上に並べられる。
「ほい、どーぞ」
並べ終わると同時に、一人一枚ずつカードを選んでいく。勿論、まだ伏せられたままだ。
「よし、じゃあ一気にいくよー」
『せーの!』
ぱっ、と花が咲いたように、表の柄が露わになる。柄が全てハートなのは、これから始まる話題を暗示しているようにも見えた。
「げ、あたしが一かよ」
「私なんてトリだよ……。うう」
結果に一喜一憂する彼女達。どうやらこれは、話す順番を決める為のものだったようだ。
「ではでは、決まった所で早速行きますかね」
『暴露大会!』
「いえーい」
「というより惚気大会だよね、リア充爆発しろ☆」
……まぁ、年頃の女の子が集まれば、確実に話はそういう方向へ行くだろう。若干一名が死にそうな目をしているが、他の七名はピンク色のオーラに酔いしれている。薄い桃色からショッキングピンクのような鮮やかに、そしてどぎつい際どいところまで話は弾む。
という訳で、ここからは割愛。踏み入ってはならない世界、というのは確実に存在する。聞かなきゃ良かった!と読者に言われるよりは、聞かせないという道を作者は取るのである。まぁそれでも気になるという猛者の方がいらっしゃいましたら是非ご一報くださ――
ちなみに、じゃあ最初のあの盛り上がりようはなんだったのか、というと、前座代わりに先程のテストについて談義してみたり、成績予想をしてみたりという真面目な大学生トークから、誰と誰が付き合っているだの、あれはこの前別れただの、同学科男子の噂をネタに肴に騒いでいただけである。ほぼ毎日のように顔を合わせているはずなのに、その話題は枚挙にいとまが無く、尽きる事を知らない。恐ろしい限りであるが、それが女という物である。
箸が転がっても笑える年頃、否、箸が存在しているだけで笑える年頃。それが彼女達であった。