現状把握
はてさて第一話です。一話目だから文章量としては少ないですが、まぁこんな感じでやっていきますよーという雰囲気を味わっていただければ幸いです。
戦争を行うにあたり、準備として何が必要か、と友人に尋ねると、“まずは敵の兵力を知り、己の戦力を把握しろ”との助言をもらった。そこで、今私が戦うべき相手、というか目標について、今一度確認をしたいと思う。
目下、この私を悩み苦しませている元凶は主に二つ。バイトと彼氏である。……いや、もしかしたらここに学生共通の悩みの種、喉から手が出るほど欲しい単位という宝石を入れた方がいいのかもしれないが、それは本気を出せば何とかなるという事が一年後期に立証されたので、ひとまず考えない事にする。いざとなれば、頼れる友人達に泣きつけば良い話だし。……持つべき者は良き友達である、うん。近いうちに彼女達についても語る事にしよう。とまぁそれは置いといて。
まずバイトだが、これは完全に勤めた先が良くなかった。今の所――某塾の講師をしているのだが――はビラ配りをした縁でスカウトされたのだが、大手ではない為か、とにかく人員が少ない。特に理系女子が。いや、言い直そう。我が教室では、只今バイト講師の中で理系女子はただ一人、私だけである、と。加えて、昨今セクハラ問題などがクローズアップされているからか、男子生徒には男性教員が、女子生徒には女性教員がつくというのが暗黙のルールになっている。その為、必然的に女の子の数学と理科は私一人が見る羽目になる。更に更に、うちの生徒の男女比は三:七。圧倒的に女子の方が多いのだ。まぁ、文系の子が多いと言えば多いので、そこまでの負担でも無いのだが……。それ故に平日水曜日を除く四日間、ほぼ強制的にシフトを入れられているというのは、いただけない話である。くそう、最初は週一から入れるとか言っていたくせに。臨時で他の曜日に入っていたりしたら、いつの間にか少しずつ、あれよあれよとレギュラーが増やされていった。ちなみに、水曜日がないのはただ単に塾の休校日というだけの話であり、今後生徒の需要に答えて日曜日を休みにするとかいう話が耳に入ったりもしているので、油断は出来ない。これ以上働いたら、真面目に私は死んでしまう。肉体的にも、精神的にも、単位的にも。だから何度か直談判に行った事はあるのだが……。大抵の場合、上手く丸めこまれてしまう。それは私が流されやすい所為も確かに勿論あるだろうが、上司が一枚も二枚も上だからというのもあると思われる。流石、伊達に保護者のクレームとかまで受け付けてないよね……。なんで“私はね、逆木さん。貴女と出会えて本当に良かったと思ってるんですよ”、なんて歯の浮くような台詞が、さらっとでてくるんだろう。思えば最初からそうだった。スカウトされた時だって、“逆木さん、私は是非、貴女のような明るくて優しい人にうちの先生になっていただきたい”って、そんな言葉をビラ配りで疲れて帰ってきた時にお給料の入った封筒と一緒に渡されたら、ころりと落ちてしまうだろう。惚れてまうやろ!だ。そういうのは恋人に言われたいよね。まぁうちの彼氏じゃ、そんな事絶対に言わないだろうけど。
話がそれたので、ふとここまで書いてきた文章を見直していたら、どうも私のストレスの主たる原因はバイトにあるような気がしてならない。そこでストレスがたまってイライラするから、彼氏のちょっとした言動にも苛立ってしまうのであるし、時間が削られるから課題などをやる暇がなく単位の危機であるし、出会いの機会も減る。疲れているから肌は荒れるし、やけ食いをして太ってしまう。なんと、バイトは私からこんなにも多くの物を奪っていたのか。許すまじ。ならばここさえ解決できれば、私の人生好転しそうな気さえする。否、絶対に私は幸せになれる!
原因が分かってすっきりした気分で、その日は眠りに落ちた――
*
「さーざーらーぎー」
「ふにゃ」
「あんた、今日もよく寝てたねー」
友人の声で目を覚ますと、そこは授業が終わった教室だった。
――しまった、授業中だったんだっけ……。
まぁ、上記で散々語っていた通り、残念なほどに私には時間が無い。という訳で、こういう内職作業をするにも一苦労なのである。だからこそ、学校にいる間や電車の中などでやってしまうのが癖になっていたんだけど……。しかし、テスト前の授業を無駄にしたのは痛い。やはり単位の為にも、この状況をなんとかせねば。
「う……。ごめんなさい、ノート見せて下さいしーな先生」
脳内会話自体は、至って真面目に行われているにもかかわらず、出てくる言葉は舌ったらずの甘えん坊な声である。
「はいはい。って、途中まではなんかものすごい勢いで書いてたけど?」
ノートを差しだしながらシニカルに笑うのは、私を起こしてくれた詩衣菜である。ちょっとした事にも気を回してくれるし、ツッコミも上手く、さばさばとして格好良い。彼女が男だったら付き合いたいと、私は本気で思っている。
「そうそう、なんかカリカリカリって音が怖かったよー」
続いて、前の席から顔だけ此方に向けて笑うのは、私達の中で一番の美人の麗華だ。こんな仰々しい名前をつけられているにもかかわらず、名前負けしていないのが彼女のすごい所である。今も不覚にも惚れてしまうぐらい、素敵な笑顔を浮かべている。
「ネズミでも憑いたのかと思ったー」
……まぁ、その中身が私と同じぐらいには残念な事も、また事実ではあるのだが。
「あはは、これよこれ」
そんないつもと変わらずしょうもない戯言をさらっと受け流し、質問にだけはきちんと答える。そうしないと、いつまで経っても話が進まない。まぁそれはそれで面白いので、たまに詩衣菜につっこまれるまで会話を繰り広げている時もあるけどね。
「ああ、しーなに言われたの本当に書いてたんだー。どれどれ」
麗華が広げたノートを、横から詩衣菜も見つめる。後ろからいつの間にか、千波もひょこっと覗いている。小柄で愛らしく、無口というロリ属性を兼ね備えている彼女だが、そういう面白い事は外さないのが流石と言うべきか。なんとなく彼女にさん付けしてしまうのも、その辺りが原因だろう。
『……さざらぎ』
一通り目を通し終わったタイミングで、三人の声がシンクロする。心なしか、目線が痛いような気がするのは、気の所為だと信じたい。
「ん? よく書けてるでしょ?」
『じゃなくて』
まるで、お前の諸悪の根源はそこにあるのだ、と言わんばかりの口ぶりだったが、犯人の首根っこをつかんだ気の私の耳に届くはずもなく。
「これで原因は分かったわね。しーなありがとー」
彼氏は絶賛しべた惚れしているとびっきりの良い笑顔を見せても、三人の顔は曇る一方。そのうち耐えられなくなったのか、
「ってあんた本気なのかこれっ。ネタじゃないのかネタじゃ!」
「へ?」
突然詩衣菜にキレられた。
「まぁそれが良い所だけどねー。そういう可愛いとこも大好きだぞ、さざらぎ」
それをかわきりに、麗華もいつもの調子で毒を吐く。
「どーいうこと?」
混乱する私に止めを差したのは、冷静かつ可憐な美少女であった。
「……単位はともかく、男運の無さまでバイトの所為には出来ないと思うのよね」
「ちなみさんに言われたああああああああああああああああああああああああああ」
そんなこんなで、最初から出鼻をくじかれる形で戦争の準備は始まった。
最初からぶっとんでる気がしないでもないですね(苦笑
そんなこんなで第一話です。いかがだったでしょうか?
次話からは日常生活も描きつつ、着々と戦争に向けて準備をしていく様子を、そして立ち向かっていく様子を描いていきたいと思います。