ある晩餐会にて、婚約破棄宣言されてしまいました。〜すべて無意味ではありませんでした〜
「ハリーナ! お前との婚約は、本日をもって破棄とする!」
ある晩餐会にて、婚約者である彼エーデリックはそんな風に宣言してきた。
良家のお坊ちゃんとして両親から大事に大事に育てられた彼は、こう言ってはあれだが幼稚なところのある人物だ。そしてその幼稚さゆえにたびたび自分勝手な行動をとる。基本自分のことしか考えていない、それが彼という者の本質だ。
「お前は可愛くない! もっと可愛い女性と出会ってしまった以上、もうお前の婚約者ではいられない……よって、婚約は破棄とする!」
「ええと、つまり……それは、好きな方ができたということですか?」
「ああ。だが、よくある浮気ではない。彼女との出会いは運命だ! 運命の女神が二人を繋いでくれたのだろう。だから、浮気とかいう、そんないい加減なものとは違う! そんなくだらないもの、お遊びではない!」
ほぼ一緒ではないか、と思いつつ。
呆れながら彼を見つめる。
「ではな、ハリーナ。お前とはここまでだ。さよなら! 永遠に! さよなら、だ!」
エーデリックは偉そうな立ち姿ではっきりとそう言ったのだった。
「何あれ……あんなのおかしくない?」
「晩餐会で婚約破棄とかあり得ないわよね」
「しかもまともな理由なし」
「嘘でしょぉ、って感じよね。話が通ってないし。本当に、あんなのおかしいわ」
第三者である晩餐会参加者の女性たちは私ではなく彼を批判していた。小さな声で、ではあるけれど。
まともな理由のない婚約破棄などという極めてくだらないことで場の雰囲気を壊した彼に温かな目を向ける者は一人もおらず。むしろ逆。その場にいた誰もが、身勝手な彼に対して冷ややかな目を向けていた。
「変な人ですわね……」
「世間知らずのお坊ちゃんすぎる」
「理解不能だわ……本当に、あり得ない……」
「アホかな?」
「そんな感じですわね、きっと。だって、まともな方であれば、わざわざこういう場で宣言なんてしませんもの」
エーデリックの味方はいなかった。
◆
あの後少しして、エーデリックが牢屋送りとなったという話が耳に入ってきた。
可愛い女性、と呼んでいたその人に、一方的に無理矢理近づこうとしてしまいに犯罪に近いような行いをしてしまい逮捕された……ということのようである。
どうやらその女性と仲良くなっていたというわけではないようだ。
エーデリックが、勝手に可愛いと言い、勝手に惚れ、勝手に迫っただけ。それが現実だったようである。
詳しいことは知らないが、想いの伝え方を間違えたのだろう。
……こうして、エーデリックは社会的に終わったのだった。
◆
あれからどのくらい時が流れたのだろう。
定かではない。
ただ、確かなことは、私は今とても素敵な人と夫婦として暮らせているということだ。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も。彼と過ごせるなら、楽しい一色。いや、もちろん、生きていればいろんなことがあるのだけれど。でも、彼の隣にいれば、どんなことがあっても前向きでいようと思える。そういう人に出会えたことが幸せだし、その人と一緒に生きていけるのだから何度考えてみても嘘みたいな話だと思えて仕方がないくらい幸せだ。
「ハリーナ、前言ってたお花買ってきたよ」
「そうなの!?」
「うん。大通りのところのお店でたまたま見つけてさ。ハリーナが前言ってたのもしかしてこれかな、って……それで買ってみたんだけど……はい、これ」
「こ、これ!! そうよ、言ってたもの!!」
「やっぱりそうだったんだ。……間違ってなくて良かった」
未来のことは分からない。でもそれは誰もが同じだ。だから考えすぎる必要はない。前向きな心で、前向きな姿勢で、歩んでゆけるならそれでいい。
「あげるよ」
「いいの……!?」
「もちろん」
「すごく嬉しいわ! ありがとう、本当に!」
あの時婚約破棄されて良かった。
今は何の迷いもなくそう言える。
過去の出来事が存在したからこそ幸せな現在があるのだから、これまでのすべての経験は無意味ではなかったのだろう。
◆終わり◆




