ホモに優しい世界 〜ドキッ!♂同士の創世神話〜
とある異世界にて。
文明に驕った人類は、神の逆鱗に触れてしまった。
神は天変地異を起こし、汚れた文明ごと人類を滅ぼしてしまう。
ただし、完全に絶滅はしなかった。
文明が滅び、原初の状態までリセットされた新しい世界に、たった二人だけ生き残ることを許されていた。
神の最後の慈悲により、人類もまた再生するチャンスを与えられたのだ。
つまり、これは、異世界におけるアダムとイブの物語。
の、ハズ…
なのだが…?
「神よ!?こんな世界にたった二人だけで……我々にどうしろと言うのですかーッ!!?」
「答えてください、神よぉぉぉぉぉぉッ!!?」
文明のなくなってしまった世界で。
二人は天に向かって、口々に叫んだ。
どちらも必死の形相である。
だが、答えはない。
世界を洗い流した大洪水の後、嘘のように晴れ渡った空からは、ただ優しい光が降り注ぐのみ。
そんな優しさも、二人の心を癒やしはしなかったが。
どんなに喚き、泣き叫んでも、神からの応答がないことを察した二人。
やがてどちらからともなく大地に膝をつき、途方に暮れた互いの顔を見合わせた。
一人は、名をシロンという。男である。
もう一人は名を、クロムという。やはり男である。
…お分かりだろうか。
アダムとイブの役割を担うべく生き残った二人は、両方とも♂。
同性である。
=生殖できない。
生み育て増やし再び人類を蘇らせることなんて不可能だ…
「神は……人類にこのままゆるりと死に絶えろと…!?」
「だとしたら最後に残された我々はなんと残酷な目に遭わされて…!?」
さめざめと泣き崩れる二人のところに、遅ればせながら神からのお返事があった。
『めんご、めんごー』
「「………」」
どーでもいいけどこの異世界の神、かなり軽いノリである。
その上、酷いうっかりさんだった。
男同士じゃどーしょうもないっつー根本的なことを完全にまるっと忘れていた。
一応、悪意はなかったらしいが…
とりま、既に他の人類は皆死んでしまった。
女性はもういない。
残された♂二人には、神から救済措置が与えられた。
じゃんっ☆
服用すると男性でも妊娠できる魔法の秘薬〜!!!
「えー!?どーせなら女性を生き返らせるかして与えてくれないかな!?全能の神ならそれくらいできるんじゃ!?」
「それかせめて性転換できる秘薬とか…?」
「えっ!?おまえ自分が女になってもよかったっていうのか!?」
「いや俺じゃなくておまえが女になってくれれば…」
「ふざけんな!?なんで俺が!?」
「だって俺、バイだけどタチ専門だし…」
「えっ………バイなの?」
「そーいうおまえは?」
「俺がそーいう意味で愛せるのは女性だけですが!?」
「なら、役割は決まったな」
「えっ?」
「この秘薬、おまえが飲め」
「なんで!?」
「だっておまえ、男相手に勃たねーだろ?」
「た……確かに無理だが…!?」
「俺は勃つ。バイだから。タチ専門だから」
「ヒィッ!!?」
「おまえ結構可愛くて好みだし、余裕で抱ける」
「ギャーーーーーッ!!?嫌だ!?」
「人類再生のためだろ?我儘言うな?」
「これ我儘とかそんなチャチな問題じゃねーよ!?俺の男としての沽券とかアイディンティティとか…!」
「んなこと言ったって、他に方法があるか?」
「お、俺がおまえを抱く!…とか」
「だからさー、勃つの?」
「うっ………すぐには無理でも、努力して頑張れば、なんとか…!」
「努力とか…そんなんで嫌々人のこと抱いて欲しくねーんだけど?大体俺、タチ専門だし」
「だーっ!?うっせー!俺はカマ掘られる趣味はねーんだよ!掘られるくらいなら俺が掘る!」
「失礼な奴だなー」
「なんとでも言え!とにかく俺は譲らないぞ!」
「…まあいずれどっちかが折れないといけないだろうな。でなけりゃこのまま二人して年老いて死んで人類滅亡するだけだ」
「なんかもうそれでもいいような気がしてきたが…!?」
「一応これ、神の温情だろ?無駄にはできねーよ」
「ダメかなぁ……そもそも神がうっかりしたのが悪いと思うんだけどなぁ…!?」
タチネコの座を巡って、言い争う二人。
しかし話は平行線で、結論は出なかった。
一旦は棚上げすることにして、二人はまず生活の基盤を安定させることにした。
文明のなくなった原初の過酷な世界である。
協力していかなくては生きていくことも覚束ない。
住居=そのへんの洞穴。
衣服=葉っぱ。
要するに原始時代の生活に逆戻りだった。
…過酷!
幸いというか皮肉というか、文明がなくなって大自然いっぱいの世界になっていたから、野生の果物とか、食肉用の獲物とかは豊富で、食うには困らなかった。
ここで食料確保さえ難しかったら、さすがに詰む。
再生後の新世界では、世界の法則が以前とは異なっており、人が魔法を使えるようになっていたのも大きい。
最も重要な水は、飲料にすることが可能な綺麗なものを魔法で作り出すことができた。
火を熾すのも魔法頼り。
日の落ちる夜は寒くて、暖房器具も防寒具も毛布すらない二人は、暗い洞窟の中で魔法の焚き火を熾し、身を寄せ合って暖を取って眠った。
「人肌がぬくい…」
「何が悲しゅーて男同士くっついて眠らなきゃならんのだ…」
「寒いからだろ」
「そーだけどさぁ!?…なんか、こう…!」
「そのうち同衾どころか合体までしなけりゃならんのだぞ。この程度でそんなこと言っててどーする?」
「う、ぐっ…!?」
「やっぱおまえに男を抱くとか無理だろ。ここは俺が…」
「いやいやいや!?結論を出すのはまだ早い!!」
「往生際が悪いなぁ」
「うっせー!?」
「俺はいつでも今からでも準備万端なんだけど」
「ギャー!?」
「安心しろ。無理やりとかはしねーよ」
「ほ…本当だろうな!?」
「世界人口たった二人で仲違いすることしたらその時点で破滅だろ」
「絶対だぞ!?信じるからな!?」
「おまえの心の準備ができるまで気長に待つよ」
「………フン」
割と乗り気なシロン(タチ専門のバイ)。
異性愛者のクロムは今のところ徹底して抵抗する構え。
それらの人の子の営みを、神は天上から見守っていらした。
『…長期戦になっちゃうかなー?なんか悪いことした?』
まったくである(爆)
やがて、住居が洞穴から木造の掘っ立て小屋にランクアップし…
衣服も葉っぱから獣の皮製のものに移り変わり…
共同生活を営む二人は、自然と親密になっていた。
ここまで暮らしていく中で、互いに支え合い助け合って生きてきたのである。
原初の世界から与えられる艱難辛苦を共に乗り越えることで、確かな絆が芽生えていた。
それは、本来なら友愛と呼ばれるものの類で、決して恋愛感情ではなかったかもしれないが…
「なあ……いいか?」
「ああ、おまえになら……いいよ」
文明の明かりの灯らない、深い闇の夜に。
二人はひとつに溶け合った。
『思ってたより超早かった』
世界のリセットからここまで一年足らず。
神もビックリのスピード展開だった。
時が流れた。
全世界の人口は、おおよそ百人くらいに膨れ上がっていた。
人数が増えたことにより、村、くらいの規模の共同体も出来上がっている。
ここからさらに生み育ち増えて、いずれは旧世界の人口と同じくらいにまで発展してくかもしれない。
無論、それにはさらに長い年月が必要となるだろうが…
村の最長老であり、すべての人類の祖先となったとある一人の老人が、ある日、皆に語り聞かせた。
「男だとか、女だとか、そんなことは些細なこと……皆、仲良く暮らすんじゃよ」
人が増えれば人間関係で揉めることも増えてくる。
同性での恋愛問題が持ち上がった際に、自らの子孫に対しての、諭すような言葉だった。
最後には熱烈に愛し合っていた伴侶とは、しばらく前に死別している。
寂しげな老人の目は、どこまでも穏やかで優しい。
その数日後、最長老もまた伴侶の後を追うようにして息を引き取った。
大勢の子孫に囲まれて…
様々なことがあったけど、幸いな人生だったという。
そんなわけで。
この異世界では、現代でも同性カップルに対してとても寛容なのだった。
ホモに優しい世界☆
『神はいつでも見守ってるよー』




