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炎上して全てを失った俺、10年前の「倒産前夜」にタイムリープ。未来のバズを知る最強PRプランナーとして、実家のボロ酒造を世界ブランドに変えるまで  作者: U3
【第2章:最初のバズ「ヴィンテージPR」】

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第13話 凱旋の女神と、電波の檻

 2016年10月15日。成田国際空港、到着ロビー。

 自動ドアが開いた瞬間、待ち構えていた数百人の報道陣から、網膜を焼き切るようなフラッシュの嵐が巻き起こった。


「美月さん! パリでのランウェイ、お疲れ様でした!」

「世界一のソムリエが認めた『100万円の日本酒』、国内販売の予定は!?」

「九条さん! 帝国広告の黒田氏との会談があったというのは本当ですか!」


 怒号のような質問を、俺は無機質なタキシード姿で、一歩も引かずに受け止める。32歳の精悍な肉体には、かつて42歳で経験した地獄の記憶が「冷徹な自信」となって宿っていた。今の俺にとって、この狂乱は制御すべき「情報の奔流」に過ぎない。


「……蓮にい、これ、六本木の時よりすごいね」


 俺の隣を歩く美月が、耳元で小さく囁いた。

 今日の彼女は、機内でのリラックスウェアを脱ぎ捨て、黒のスキニーパンツにオーバーサイズの白いリネンシャツという、極めてシンプルな装いだった。だが、それがかえって彼女の「素材の暴力」を際立たせていた。


 170センチを超える長身、そして神が設計したとしか思えない驚異的な股下の長さ。無造作に捲り上げられた袖口から覗く、日々の蔵仕事で鍛えられたしなやかな前腕。そして何より、彫刻のように整った東洋的な美貌。

 吸い込まれるような黒い瞳が、不機嫌そうに、だが真っ直ぐに前方を見据える。その姿は、周囲にいるどんな女優やモデルよりも圧倒的な「本物のオーラ」を放ち、到着ロビーにいた数千人の男たちは、彼女が一歩踏み出すたびに、潮が引くように道を開けていった。


「胸を張れ、美月。お前は今、この国で最も価値のある『アイコン』なんだ」


 俺は手元のスマートフォンで、リアルタイムのトレンドを確認しながら、彼女の背中を支える。画面には、彼女の到着を報じる速報ニュースがトップを飾り、ハッシュタグ『#九条凱旋』はすでに数万規模の拡散を見せていた。


「……九条、セキュリティは万全よ。舞が用意した車両が外で待っているわ」


 背後から、エルザ・ハフナーが凛とした声をかける。

 180センチ近い長身と、透き通るようなアイスブルーの瞳。プラチナブロンドをタイトにまとめた彼女の姿は、日本の報道陣にとって「未知の知性」として映り、彼らは彼女の威圧感に気圧され、それ以上の接近を断念していた。


 二時間後。西麻布、藤堂舞のプライベートラウンジ『エリュシオン』。

 外界の喧騒を完全に遮断したその空間に、7人の女神たちが再び集結していた。


「……おかえり、蓮ちゃん。パリでの活躍、こっちでも毎日ニュースになってたわよ。六本木の男たちが、あんたの不在を寂しがって、九条の在庫を全部買い占めていったわ」


 舞が、丸みを帯びた大きな瞳を細めて、俺に極上の笑みを向ける。

 今日の彼女は、身体のラインを強調するネイビーのニットドレスを纏っていた。歩くたびに波打つ豊かな曲線美と、大人の余裕を感じさせるチャーミングな美貌。彼女が差し出したグラスには、キンと冷えた九条の新作が揺れている。


「ありがとう、舞。……だが、祝杯は後だ。黒田が動き出した」


 俺の言葉に、部屋の空気が一瞬で凍り付いた。

 窓際のソファに座っていた神崎麗子が、シャープな顎のラインを上げ、鋭い黒い瞳で俺を射抜く。


「……テレビね。帝国広告の黒田が、地上波のゴールデン帯を使って、九条の『公開処刑』を企んでいるわ。私のソースによれば、来週の特番で、九条酒造の経営難と過去のトラブルを、さも『現在進行形の疑惑』として報じるつもりよ」


「……旧態依然としたやり方ね。マスメディアの特権を、まだ自分たちが握っていると勘違いしている」


 一条亜理沙が、漆黒の髪をかき上げながら、冷徹に言い放った。カミーラ・ベルを思わせる支配的な美貌。彼女が組んだ長い脚の曲線は、どんな芸術品よりも雄弁に彼女の「資本の力」を物語っている。


「如月さん。……雫さんはどう見る?」


 俺の問いに、バーカウンターで静かに酒を見つめていた如月雫が、ゆっくりとこちらを向いた。

 深く、澄み切った黒い瞳。彼女が漆黒のシルクシャツの袖を直す動作一つに、室内の男たちは視線を奪われ、その神秘的な美しさに跪きたくなるような衝動に駆られる。


「……味に嘘はつけないわ。でも、テレビという『情報のフィルター』を通せば、ダイヤモンドも石ころに見せることが可能でしょうね。……九条蓮。あなたは、そのフィルターをどうやって割るつもり?」


「割るんじゃない。……フィルターそのものを、俺たちが手に入れるんだ」


 俺はスマートフォンをテーブルに置き、一つの「企画書」を表示させた。

 

「テレビが報じたいのは『演出された真実』だ。だったら、俺たちはその上を行く『圧倒的なリアリティ』で、彼らの台本を内側からハックする。……結衣、準備はいいか?」


 隅のピアノの前に座っていた星野結衣が、小さく頷いた。

 陶器のように白い肌と、吸い込まれるような大きな黒い瞳。彼女は今、パリで録音した「パリ市民が九条を飲んだ瞬間の吐息と感嘆」をベースにした、脳に直接訴えかけるような重層的なサウンドを完成させていた。


「……はい。音は嘘をつきません。……彼らがどんなに意地悪なナレーションを重ねても、私の音が流れる瞬間、視聴者の細胞は『この酒は本物だ』と強制的に認識させられます」


 結衣の静かな、だが確信に満ちた言葉。

 俺は、ヒロインたちの顔を一人ずつ見渡した。


「戦略を告げる。……黒田が用意した特番に、あえて美月を単独で出演させる。……当然、彼らは美月を世間知らずの『神輿に担がれた操り人形』として演出し、生放送で恥をかかせようとするだろう。だが、そこで俺たちが用意した『情報の爆弾』を、SNSを通じて同時多発的に投下する」


 2016年。テレビの権威はまだ高い。だが、人々の手元にはすでに、テレビよりも早く、正確に、そして「感情的」に情報を共有するツール――スマートフォンが握られている。


「テレビが『九条の経営は不透明だ』と報じたその瞬間に、一条グループの全監査記録を公開する。テレビが『味に疑惑がある』と報じた瞬間に、如月雫と世界中の三つ星シェフたちによる、テレビ局の制作費を遥かに超える『真実の食卓』をネットで生配信する。……テレビが放送されている一時間の間に、テレビ局の信頼そのものを、九条のブランド価値で踏み潰すんだ」


 俺の冷徹な、そして圧倒的な自信に満ちたプラン。

 42歳までの経験で得た「認識の転換」という技術。それを「天才的な洞察力」として振る舞い、俺は女神たちを指揮する。


「……面白いわね。テレビ局を、自分たちのブランドの『墓場』にしてやるってわけね」


 麗子が、興奮を隠せない様子で口角を上げた。そのスモーキーなアイメイクに縁取られた瞳は、真のジャーナリストとしての渇きで、妖しく輝いている。


「蓮にい。……私、やるよ。……あいつらに、お酒が、私たちの手が、どれだけ本物か……思い知らせてやる」


 美月が、俺の手をぎゅっと握りしめた。

 その手には、パリのランウェイでも隠さなかった、誇り高き職人のタコがある。

 

 俺は美月の腰を抱き寄せ、その非現実的なほど美しい肢体を自分の方へと引き寄せた。

 

「ああ。……今夜はゆっくり休め。来週、この国の『情報の秩序』が、九条の色に塗り替えられる瞬間を、特等席で見せてやる」


 周囲で控える舞のスタッフたちや、この計画を聞いたエリート層の男たちは、7人の女神たちを統べ、業界の支配者である黒田に牙を剥く俺の姿に、2016年の日本を裏から再構築する「新しい王」の降臨を確信していた。


 西麻布の夜風が、テラスに流れ込む。

 俺はグラスを傾け、琥珀色の酒を飲み干した。

 

 黒田。……お前が信じる「電波の檻」が、俺たちが放つ「真実の光」によって、どれだけ脆く崩れ去るか。……楽しみにしておくがいい。


 九条蓮の逆襲。

 かつて俺を葬り去った「大衆の認識」そのものを、俺の支配下に置くための、残酷で美しい処刑劇として幕を開けた。

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