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炎上して全てを失った俺、10年前の「倒産前夜」にタイムリープ。未来のバズを知る最強PRプランナーとして、実家のボロ酒造を世界ブランドに変えるまで  作者: U3
【第2章:最初のバズ「ヴィンテージPR」】

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第12話 ランウェイの処刑台と、神の一滴

 2016年10月2日。パリ、グラン・パレ。


 ガラス張りの巨大な屋根から差し込む秋の陽光が、歴史的な大空間を白く焼き切っている。


 


 今夜、ここで世界最大級のメゾン『L&M』のメインショーが行われる。そしてそのアフターパーティーこそが、九条酒造が世界に「真の価値」を問う、文字通りの決戦場だった。




 バックステージは、戦場そのものだった。


 飛び交うフランス語と英語の罵声。モデルたちの細い脚が交差し、ヘアメイクの香料が鼻を突く。その喧騒の中心で、俺は黒いタキシードを纏い、手元のスマートフォンで世界中のSNSの流動を監視していた。




「……蓮にい。心臓が、口から出そうだよ」




 鏡の前に座る美月が、震える声で呟いた。


 今日の彼女は、九条酒造のブランドイメージを体現する『エボニー・シルク』のドレスに身を包んでいる。170センチを超える長身と、日々の厳しい蔵仕事で磨き上げられたしなやかな肢体。ドレスのスリットから伸びる、驚異的なほど真っ直ぐで長い脚は、周囲に並ぶ欧米のトップモデルたちをも圧倒する「造形美」の極致にあった。




 彫刻のように整った東洋的な美貌。鋭く切れ上がった瞳には、いつもの迷いはなく、代わりに職人としての静かな誇りが宿っている。腰まで届く漆黒の髪をタイトにまとめ上げた彼女の姿は、もはや一人の女性を超え、一つの「概念」へと昇華されていた。




「震えていろ、美月。その震えこそが、生きた人間が『本物』を世に送り出す時のエネルギーだ。……お前が今日歩くのは、ただのランウェイじゃない。黒田が築き上げた『虚飾の秩序』を、内側から破壊するための導火線だ」




 俺は彼女の肩に手を置き、鏡越しにその黒い瞳を見据えた。


 


「……九条。不穏な動きがあるわ」




 エルザ・ハフナーが、隙のないパンツスーツ姿で割り込んできた。


 180センチ近い長身と、鋭い知性を湛えた瞳。彼女が持つタブレットには、直前のメディア向けプレスのフィードが映し出されていた。




「黒田の息がかかった欧州の主要メディアが、一斉にネガティブな記事を準備しているわ。内容は『九条の酒には不純物が混入している』、あるいは『伝統を偽装した新興の安物である』という、悪質な捏造よ。パーティーの開始と同時に全世界に拡散される手はずになっている」




「……想定内だ。エルザ、麗子に連絡を。……奴らが『捏造』を投下した瞬間が、俺たちの『真実』を最大化するタイミングだ」




 ショーが終わり、メイン会場はアフターパーティーへと移行した。


 会場の照明が極限まで落とされ、招待された数千人のセレブリティたちが、中央の特設バーに注目する。


 


 そこに、星野結衣の「響き」が鳴り響いた。


 陶器のように白い肌を持つ彼女が、自らの声を何十層にも重ねて作り上げた、重厚でいて透明なサウンド。2016年の世界では誰も体験したことのない、聴覚をジャックするような音の渦。その中心で、如月雫が、深く澄み切った黒い瞳で一滴の酒をグラスに注ぎ始めた。




 会場の男たちは、雫の漆黒のドレスに包まれた神秘的な美貌に、そして結衣の妖精のような歌声に、完全に理性を奪われていた。




「……さあ、審判の時よ」




 雫の冷徹な一言が放たれたその瞬間、会場中のスマートフォンの通知が一斉に鳴った。


 黒田が仕掛けた「捏造記事」の拡散。会場には動揺が走り、ゲストたちが疑念の目でグラスを見つめる。




「……これが奴のやり方か。相変わらず品がない」




 会場の隅に立つ黒田の姿が見えた。彼は勝利を確信したように、無機質な表情で俺を見つめている。


 


 だが。


 


「皆様、お静かに。……そのスマートフォンの画面にある『嘘』を、今ここで証明しましょう」




 神崎麗子が、シャープな顎のラインを誇らしげに上げ、ステージ上に現れた。


 彼女が掲げたのは、欧州の第三者検査機関による、九条酒造の成分分析結果……ではない。彼女が画面に映し出したのは、黒田の部下が捏造記事の配信を指示している「生々しい通信記録」だった。




「ジャーナリズムを汚したのはどちらか。……真実の物語は、こちらのデータが語っていますわ」




 麗子の毅然とした声が会場に響く。


 藤堂舞が完璧にコントロールしたロジスティクスにより、会場にいるインフルエンサーたちの手元には、その証拠データが瞬時に転送されていく。舞のチャーミングな美貌の下に隠された「情報の支配力」が、黒田の仕掛けた罠を、逆に彼を縛る縄へと変えていった。




 会場の「認識」が、劇的に反転する。


 


 そして。


 


 最奥の扉が開いた。


 そこに現れたのは、ランウェイを歩く白石美月だった。


 


 数千人の男たちの視線が、一箇所に集中する。


 ドレスから覗く真っ直ぐで長い脚。歩くたびに波打つ漆黒の髪。そして何よりも、すべてを撥ね付けるような気高き美貌。


 


 彼女はモデルとして歩いているのではない。一滴の酒に命を懸ける「造り手」として、そこに立っていた。


 


 美月が如月雫の前に立ち、自らの手でボトルを掲げる。


 その手には、日々冷たい水と米に触れ、櫂を握り続けたことでできた「職人のタコ」があった。


 


「……見てください。これが、私の誇りです」




 美月の言葉は通訳なしでも、その場の全員に伝わった。


 ラグジュアリーの象徴であるリッツ・パリの空間に、最も泥臭く、最も高潔な「真実の身体」が提示されたのだ。




「……素晴らしいわ」




 一条亜理沙が、支配的な微笑を浮かべて、俺の隣で呟いた。


 


「黒田の『虚飾』は、あの娘の『手』の一拭きで消え去ったわね。……九条、あなたの勝ちよ」




 会場からは、嵐のような喝采が巻き起こった。


 捏造を暴かれた黒田は、自らが支配していたはずの「認識の海」に溺れるように、音もなく会場を去っていった。




 深夜。パリの街を一望できるテラス。


 


「蓮にい。……私、ちゃんと歩けてたかな」


 


 ドレスの裾を少し乱しながら、美月が隣に立った。


 職人としての緊張から解き放たれ、今は一人の女性としての柔らかな表情を浮かべている。


 


「歩けていたどころか、お前は今夜、世界の認識を書き換えたんだ。……これからは、誰も九条を疑わない。……お前が、日本酒をアートの域にまで押し上げたんだよ」


 


「……蓮にいが、そう言ってくれるなら、頑張った甲斐があったかな」


 


 美月が俺の腕にそっと寄り添う。


 ドレスから覗く白い肩が、パリの冷たい夜風に触れて、かすかに震えている。


 俺はジャケットを脱ぎ、彼女の細い肩を包み込んだ。


 


「……蓮にい。あの黒田っていう人、また来るよね? なんだか、これで終わるとは思えなくて」


 


「ああ、来るだろう。……だが、次にあいつが会うのは、もっと巨大になった俺たちだ。……俺は、この世界を、九条の色に染め上げてやる」


 


 俺は美月の腰を抱き寄せ、その非現実的なほど美しい肢体を自分の方へと引き寄せた。


 


 一条亜理沙の資本、エルザの世界戦略、結衣の響き、麗子の真実、雫の審美眼、舞の支配。


 そして、美月という唯一無二の、本物の輝き。


 


 7人の女神たちを従え、俺の「感性帝国」はついに欧州という地盤を完全にハックした。


 


 俺の脳裏には、2026年のあの地獄のような炎上シーンが、今や遠い過去の、無意味なノイズのように浮かんでいた。


 


「……さあ、帰ろうか。次は日本全土を、本当の意味での『聖域』に変える計画を始めなければならない」


 


「……ふふ。蓮にいは、本当に休むことを知らないね」


 


 美月が幸せそうに目を細め、俺の腕の中で小さく笑った。


 


 九条蓮の逆襲。


 黒田という巨大な闇を退け、九条という名を世界の歴史に刻み込むことで幕を閉じた。


 


 2016年の秋。


 世界はまだ、情報の真実がどこにあるのかを探し求めている。


 そして俺は、その真実という名の「認識」を、この7人の美女たちと共に、自在に操り続けていく。

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