第二十三話【救出劇】
捨人達の急襲によって殺し合いの舞台がステージ上から観客席へと変わったコロシアム。
さらにはイラとナエルの声まで放送で流れてきて、レジスタンス一同は何が何だか分からずパニックに陥っていた。
「なんでイラとナエルが捨人と一緒にいるんだ!?」
「…分からないけど、とにかく二人が無事でよかった」
「ねえ、この状況って喜んでいいんだよね!?」
双子の無事を知ったことで気が緩む三人組に、レメクが釘を刺す。
「いや、喜ぶのはまだ早い。とにかくここから逃げないと」
彼の言う通り、ステージの出入り口はいまだ重い鉄柵で塞がれており、逃げ場はどこにも無かった。
皆はゲートまで走って鉄柵を開けようと試みたものの、やはり素手で掴んだ程度ではビクともしない。
「おい、誰かいねーのか!」
ガンガンと鉄柵を激しく揺らして音を立てていると、向こう側からコロシアムの案内人オグが気だるそうに姿を現した。
「オグ!ここを開けてくれ!」
だがそんなハキムの切実な頼みに対して、オグは壁に寄りかかったまま動こうとはしない。
「…悪いがそれはできないな。カインからの命令がない以上、お前らを逃がしたら俺が殺されちまう」
「もし、俺らが勝ったら?」
思いもよらなかったハキムの言葉に、オグの眉がピクリと動く。
「!?」
「この戦い、もしも俺達レジスタンスが勝ったらあんたは逆に高地の人間として死ぬことになる。それでいいのか?」
オグはチラリと闘技場の外の様子をうかがう。
確かに外では捨人達の巻き起こした混乱が収まるどころか、高地全体にみるみる広がっていた。
ハキムの言う通り、反乱が成功する可能性は0ではない。
「おいおい随分と強気だな。勝てるって保証なんかないってのに」
「頼むオグ。俺らを信じてくれ!」
「………」
ハキムからの駄目押しに、オグの気持ちが揺らぐ。
事実、彼らレジスタンスは決して折れぬ心でコロシアムを生き残り、奇跡的な逆転劇を見せつけてくれた。
彼らならあるいはカインを打ち倒し、このエデンの園を勝ち取るのではなかろうかと、本気で信じさせるだけの力がその言葉には確かにあった。
だがオグがどうすべきか決めあぐねている内に、レジスタンス一行の動きに気付いたカインがすぐさま兵士達をけしかけた。
「あいつらを始末しろ!」
カインの一声で、捨人達を狙っていた兵士達のボウガンが再びレジスタンスへ向く。
もう時間が無い。
「早く!」とフェトが柵にしがみついて叫ぶ。
「…やれやれ、こうなりゃヤケだ。負けたら承知しねーぞ!」
オグはそう言って覚悟を決めると、レバーを引いてゲートを開け放った。
鉄柵が上がると同時にバタバタと慌てて中に入る四人。
間一髪、先ほどまでいた場所に次々と矢が刺さった。
「…セーフ」
「危なかった〜!」
張り詰めていた緊張の糸がようやく解け、一同は冷や汗をかきつつ待機所の中でドッと尻もちをつく。
「クソッ!」
一方で、四人を取り逃がしたカインは怒りのあまりドンッ!と壁を強く殴りつけた。
「どうするの父さん?」
不安げに寄ってくるアベルを押し退け、カインはノイの腕を強引に引いて立ち上がらせる。
「こんなところで俺の計画を邪魔されてたまるか。二人ともついて来い!」
もはや誰にも止められぬほど鬼気迫る様子で、カインは二人を引き連れて闘技場をあとにしたのだった。
「…で、こっからどうするつもりだ?」
待機所の中で、オグがハキムの手を掴んで起こしながら問いかける。
もはやこの闘いは高地全体を巻き込み、後には引けぬほど大規模な全面戦争へと膨らんでいた。
危機は去ったわけではなく、むしろここからが正念場といえる。
「娘を…ノイを助けに行く」
そう言って体を起こしたレメクだったが、立ち上がった拍子に傷が痛んで思わず顔を歪めた。
「そんなボロボロの状態でカインのところに殴り込みに行く気か?自殺行為にもほどがあるぞ」
「そんなの関係ないよ!」と、フェト。
「たとえ勝ち目が薄かったとしても、ノイちゃんは私達の家族だから絶対に見捨てたりなんかしない!」
「…右に同じ」
「それに、アベルの奴も一発ぶん殴って目を覚まさせてやんねーとな」
セナとハキムまで同調し、意志の固さを見せつけられたオグは説得を諦めてボリボリ頭を掻いた。
「どうしても行くってんなら止めはしないが、ちゃんと作戦はあるんだろうな?」
「当たり前だろ。この剣でカインの野郎を思いっきりぶった斬るんだよ!」
「…それは作戦とは言わない」
ハキムの呆れた発言に、全員の冷静なツッコミが入る。
勘弁してくれと言わんばかりに頭を垂れるオグ。
「作戦ってのは敵の嫌がることをするもんだ。今の状況、もしお前が敵の立場なら何を一番恐れる?」
「敵の嫌がること…」
首をひねり、う~んと唸り声と共に考え込む一同。
しばらくして、フェトがハッと何かに思い至った顔で瞳を輝かせた。
「電気…。そう、電気を止めればいいんだよ!」
「電気?」
「発電所を止めて町の明かりを消せば、高地の兵士達は敵味方の区別もつかない中で、捨人達が一方的に戦えるんじゃないかな!?」
「つまり俺らが洞窟で体験した状況をここで再現するってわけか」
「…それ、いい」
まさに完璧ともいえるフェトのアイデアに、ハキムとセナは興奮気味に目を見合わせる。
「そうと決まれば早速…」
居ても立ってもいられず、意気揚々と待機所の扉を開け放つハキム。
すると次の瞬間、扉の向こう側から突如として現れた捨人が「ガアァ!」と敵意を剥き出しにして襲いかかってきたではないか。
「うおぉおっ!?」
まさか目の前に捨人がいるとは思わず、完全に不意をつかれたハキムはなすすべもなく押し倒され、喉元に喰らいつかれる。
「たべちゃダメーッ!」
「みかたみかたー!」
捨人の襲撃と同時に、どこからともなく発せられる幼女の声。
「イラ!ナエル!」
見ると、少し離れたところからイラとナエルがパタパタと可愛げな足音を鳴らしながらこちらに駆け寄ってきていた。
双子の呼びかけを受け、ハキムの首に食い込む寸前だった歯を即座に引っ込める捨人。
「おっと、すまんな低地の民よ。建物の中から出てきたから、てっきり高地の連中かと思ったよ」
「はは…」
捨人は顔を離し、ハキムに向かってニタァと笑いかける。
すでに何人か襲って喰ったのだろう。
血で汚れた口角が吊り上がるさまに、ハキムはブルリと身を震わせた。
そんなハキムの横を駆け抜け、双子はセナとフェトにそれぞれ勢いよく抱きつく。
「二人とも助けに来てくれてありがと〜!でも一体どうやってあの捨人達を説得したの!?」
フェトの疑問に、双子は「えへへー」と笑顔ではぐらかす。
「いろいろあったんだよー」
「ともだちになったんだよー」
「ねーー?」と、捨人も一緒になって声をハモらせる信じがたい光景に、皆は唖然として口をあんぐり開けた。
「…その子達は儂らにもう一度、人間として生き直す未来を示してくれた。今回は二人に免じて手を貸すが、戦いが終わった途端また化物扱いして洞窟に押し込めたりせんでくれよ」
その言葉を重く受け止め、コクリと頷く一同。
詳しい事情までは分からなかったものの、どうやら本当に彼らが味方になったようで皆は心の底から安堵した。
洞窟で出会った時はその恐ろしさに震え上がったものだが、いざ共闘関係になるとこんなに頼もしい味方は他にない。
「それじゃあ、いっちょぶちかましてやるとするか!」
「…狙うはカインの首」
「みんなで力を合わせればきっと勝てるよ!」
三人組の高らかな宣言で結束を固め、こうして新生レジスタンスはノイ救出のために行動を開始したのだった。




