第十二話【予期せぬ襲撃】
カーンカーンと、レジスタンスの隠れ里に鐘の音が鳴り響く。
村の入り口付近にそびえ立つ見張り台の上で、一人の村人が必死に釣り鐘を鳴らしていた。
しかし次の瞬間、どこからともなく飛んできた矢が胸に突き刺さり、「ぐっ…!」と唸り声を上げて見張り台の上から落下する。
ドッと強く体を地面に打ち付け、絶命する村人。
その瞳が光を失う直前、最後に映したのは大勢の武装した兵士達の姿。
その先頭で馬に跨り、兵士達を率いていたのは高地の王カインであった。
前日、ボウガンによって撃ち抜かれた左眼を黒の眼帯で覆い隠し、重傷を負っている素振りなど全く見せずに復讐のため舞い戻ったのだ。
「…いいかお前ら。エラのある小娘を生きたまま捕らえろ。それ以外は全て焼き払って跡形も残すな!」
カインの号令と共に、建物に火を放ちながら村へと侵攻を開始する兵士達。
「さっさと歩け!お前には役に立ってもらうぞ」
夜の闇に紛れ、顔の見えない何者かに向かって、カインは吐き捨てるようにそう言った。
鐘の音を聴いてバタバタと家から飛び出したノイ達の目に飛び込んできたのは、遠くの方で燃える家々と、空に向かって立ち上る煙。
夜だというのに炎の明かりが村中を赤く照らし、あちこちで巻き起こる凄惨な光景を浮かび上がらせていた。
鐘の音が鳴り止んだかと思うと、代わりに人々の怒号や悲鳴が辺り一帯に響き渡る。
今はまだここから距離があるものの、炎が村全体を焼き尽くすのも時間の問題だろう。
「あちゃ~。これってかなりピンチじゃない?」
「ちくしょうあいつら、不意打ちなんて卑怯な真似しやがって!」
「…私達も昨日やったけどね」
とんでもない非常事態に直面しているというのに、どこか気の抜けた会話をしながら燃える村を眺めるフェト、ハキム、セナの三人。
そんな三人組とは対照的に、アベルはただ一人、体が前のめりになるほどの勢いで突然駆け出した。
「アベル!?」
「…おじいさまが危ない!」
確かにこんなところでのんびり話してる場合ではないなと、皆は慌ててアベルの背中を追った。
村長の家に着いたアベルが息を切らしながら勢いよく扉を開けると、中にいた村の男達が武器を構えて一斉に振り向く。
しかし入ってきたのがアベルと分かり、ホッと緊張を解いた。
アベルが玄関口で苦しそうにゼェゼェと肩を上下させる中、男達をかき分けて奥からメトシェラが姿を現した。
「おじいさま…。奴らが……ここに…」
「分かっておるよアベル。…ついに覚悟を決める時が来たようじゃ」
この場にいる全員はすでに外の状況を把握しており、対策を練るために集まっていた。
遅れてやってきたノイ達も、室内のただならぬ気配を察知してアベルの後ろで立ち止まる。
メトシェラは皆が揃ったのを見て、おもむろに床下の板を剥がし始めた。
一体こんな時に何をしているのかと一同が怪訝な顔で見守る中、穴の空いた床下から出てきたのはなんと大量の武器であった。
しかもそれは剣や斧のような、ただの武器ではない。
「まさかこれって…」
「これはオーパーツ。まだ地上が海に沈む前の世界で戦争に使われていた武器じゃよ。本当なら方舟奪還の時に使うつもりじゃったが、この際やむを得ん」
そこにあったのは、拳銃や機関銃、さらにはロケット砲といった様々な銃器であった。
海面上昇により世界中のあらゆる工場や研究所が沈んだせいで、今となっては製造不可能なそれらは、この時代に本来存在するはずのないオーパーツ。
剣やボウガン程度しか武器がない現代の戦争においてはまさにチートに等しく、恐るべき力を発揮することは言うまでもない。
「よっしゃ!これで村を襲ってきた奴らを全滅させるんだな?」
意気揚々とショットガンを受け取るハキムだったが、メトシェラは首を横に振って難色を示す。
「いや、それには弾薬が足りん。これは一時的に突破口を開くか、時間を稼ぐ程度にしか使えんじゃろう」
「じゃあどうするんだよ?」
「ここに兵を送り込んでいるということは、今頃奴らの本拠地の守りは手薄のはずじゃ。これを期に奴らの裏をかいて高地へと攻め入り、方舟を奪還する」
「!?」
あまりにも大胆な作戦に絶句する一同。
確かにメトシェラの言う通り、高地を襲撃するにはむしろ絶好のタイミングかもしれない。
しかしそれを実行するには懸念すべき事実がひとつ。
それに気付いたアベルが疑念をぶつける。
「でもこの村は岩壁に覆われてて逃げ道がないから、高地に行くには入口を通って攻めてきた敵と全面衝突することになるんじゃ…」
「洞窟を使うしかあるまい。あの洞窟はこの村の退路でもあり、高地まで直接繋がってる唯一の抜け道じゃ」
「洞窟!?でもあそこは…」
その直後、双子のイラとナエルが慌ただしく家の中に駆け込んできた。
「敵が来たよー」
「いっぱい来たよー」
「…来たか!全員急いで洞窟に向かうんじゃ!」
メトシェラの指示で武器を手に取り、慌ただしく外に出た一行は、そこでいきなり高地の兵士と鉢合わせしてしまう。
「いたぞ、こっちだ!」
続々と兵士達が集まり、剣を構えてノイめがけて襲いかかってくる。
敵の一番の狙いはノイであった。
「オラッ!」
ハキムがショットガンをバットのように振りかぶって迫りくる兵士の頭にフルスイングする。
当たりどころがよかったのか、一撃で倒れた兵士を見てハキムが感嘆の声を上げた。
「おー、さすがオーパーツ!なかなか使いやすいな」
「バカ、使い方が違うわよ!銃口を敵に向けて」
フェトにツッコまれ、言われるがまま持ち方を変えるハキム。
「おう、この後はどうすんだ?」
「それから銃身についてるグリップを手前に…って来てる来てる!」
当然ながら説明の間、敵が待ってくれるはずもない。
ハキムはとりあえず次々とやってくる兵士達を全てショットガンで殴り倒してから、あらためてフェトの方に向き直った。
「で、どうするって?」
「…何でもない。ハキムはその使い方でいいみたい」
呆れ返るフェトの背後に、一人の兵士が忍び寄る。
「おいフェト、後ろっ!」
「…え?」
振り返る彼女に向かって、兵士が剣を振り下ろした。
その瞬間、ズドンッ!と大きな銃声が響いたかと思うと、兵士の頭が吹き飛んで倒れる。
その正面にはボルトアクションライフルを構えるセナの姿があった。
ひとまず死の危機を脱したフェトが冷や汗をかきながら彼女に向かってグッと親指を立てると、セナもそれに応えた。
「お前達よくやった、今のうちに急いで洞窟に向かうんじゃ!」
メトシェラから急かされ、皆は離れすぎないよう足並みを揃えて洞窟を目指す。
「僕達も行こう、ノイ!」
「…うん!」
武器を持たず、その場に立ち尽くしていたノイはアベルに手を引かれて一緒に走り出した。
なんとか洞窟前に到着した一行だったが、知っての通りその入口は積み上げられた岩によって完全に塞がれていて、とても人が入れる状態ではない。
「早く石をどけるんじゃ!その間、儂らが敵を食い止める」
メトシェラと村の男達は洞窟の前に陣取ると、その場に機関銃を設置して簡易的な防衛ラインを敷いた。
巨大な岩壁を背にしたこの防衛ラインは、背後からの襲撃を心配しなくてもいい代わりに、正面から敵がやってきたら完全に逃げ場がない背水の陣に等しい。
一刻も早く洞窟を開通させなければ、たちまち大軍を前に押し潰されるだろう。
ノイ達は必死になって岩をどける。
だがやっと穴が見え始めたところで、ついに兵士達に追いつかれてしまった。
しかもその数は百以上にも及び、防衛ラインの前に隙間無く並んで陣形を整えた。
逃げ場が無いことを分かっているのか、兵士達はわざと威圧するかの如く剣をこちらに向けながらジリジリと足踏みをしている。
両者睨み合い一足触発のさなか、カインが馬に乗ったまま兵士達をかき分けて先頭に出た。
「ここまでだテロリストども。無駄な抵抗はやめて、エラのある小娘を差し出せ!」
「ふーんだ!ノイちゃんは私達の家族なんだから渡すわけないでしょ!」
フェトやセナ、ハキムがノイの前に立って敵に向かってNOを突きつける。
そう簡単に降伏するわけがないことはカインも承知の上だったのか、動じる素振りもなく何やら部下に向かって合図を出した。
「ふん、これを見ても同じことが言えるかな。…おい、あいつをここへ」
(…あいつ?)
高地の連中が凄腕の傭兵でも雇ったのだろうかと、皆は眉をひそめる。
だがたとえ誰が来ようともノイを渡すつもりはないし、オーパーツを使って徹底抗戦する意志は変わらない。
そのはずだった。
「まさかそんな…!?」
沈黙の中、ず…ずず…と足を引きずる重い音を響かせながら、一人の男が兵士達に腕を掴まれて姿を現す。
体をロープで縛られ、まるで別人のように顔は痣だらけだったものの、そこに立っていたのはなんと死んだはずのノイの父、レメクであった。




