2.開戦
絶望感を思わせる異常気象。
突如朱に染まる空の下、戦慄!!
そして始まるのは…!?
「あっけぇ…」
皆がため息をつくような小声でつぶやく。
俺の隣で夏帆が身震いした。
「夏帆、大丈夫か??」
「ぅん。全然OK」
「どうしちゃったんだろうな…」
ブゥン…ブゥン…
メール 1通
三度目のメール。
――本文――
さあ、備えよ!
始めるぞ!
楽しい宴を!
――END――
「宴?…まだ何かあんの?」
バサッ…バサバサバサ!!!!
ん?何の音?鳥の羽ばたく音?紙が擦れる音??
輝はケータイの画面から目を離し、
ゆっくりと空へ視線を移した。
視界に飛び込んでくるのは、
莫大な量の1万円札。
空一面を覆い尽くしており、
先ほどまでの朱い空は遥かかなただった。
「これって…」
「金じゃん!!」
「金ェ!!!!!」
「急げ急げ!!!」
「あゆみ!急いで行こ!」
「あッ、待って愛香!!」
輝は担任の姿を見た。
担任も、グラウンドへダッシュする生徒たちの後ろに続き、
全力疾走で教室を出て行った。
続いて輝は夏帆と翼を見た。
「どうする??輝」
夏帆が涙ぐんだ顔で聞いてきたから、
俺は夏帆の頭を2回優しく叩いてあげた。
「何で泣いてんだよ…」
「だって…皆お金に目が眩んで…。皆が皆じゃなくなる…」
「大丈夫だって…」
慰めになってねェよ。
自分の言った言葉に自分でツッこんだ。
大丈夫であるという根拠なんて一切無い。
むしろ大丈夫なわけが無い。
事実、今教室には俺と夏帆と翼の3人しかいないのだ。
「見ろよ…あれ…」
翼が窓からグラウンドを見下ろしていた。
俺と夏帆は翼に促され、
外の様子を覗いてみた。
直後、顔から血の気が失せた。
大勢の生徒が血にまみれて地面に倒れている。
主に不良グループが周囲の人間を殴り散らしている。
生徒だろうが教師だろうが、
一切関係なく…
「戦争…」
夏帆がつぶやいた。
バタンッ!!!!
突如教室に誰かが入ってきた。
「祐二…」
クラスメートの森田祐二だった。
その手には数十枚もの1万円札。
誇らしげな表情だが、
そのいたるところに傷がついている。
「抜け出せた…。逃げ切ったぞぉ!!」
祐二が両手を挙げて歓喜を挙げた瞬間、
祐二が背後から何者かに殴り飛ばされた。
殴ったのは、陽平。
陽平は祐二の上に馬乗りになって、
何度も何度も祐二の頬を殴った。
祐二は口から大量の血を流しながら気絶した。
「貰っとくぜ」
陽平はためらい無く祐二の手から札束をもぎ取った。
その表情には罪悪感のカケラも感じられない。
ただ、私欲を満たす満足感。
「あッ、もう金降ってない…」
翼がつぶやいた。
廊下で奇声が響いた。
廊下に倒れこむ陽平の姿。
最悪だ…。
窓ガラスが割れる音があらゆる方向から木霊する。
今まで静かだった室内が一気に荒れ始める。
金が降り止んだから、室内戦にシフトしたんだ…!!
「翼、逃げよう。ここ危ねぇ」
俺と夏帆と翼は教室から走り出し、
廊下を全速力で駆けた。
「待てよ!!!」
3人の前に生徒が立ちはだかった。
クラスメートにして、
我が校の不良グループ一員。
響が鋭い目つきで俺たちを睨んでいる。
「金出せ。持ち逃げすんじゃねぇ」
「持ってねぇよ俺たち…3人とも…1円も…」
「とぼけてんじゃねェ!!!持ってるだろお前らァ!!!」
響が素早く距離を詰め、
俺の腹部に拳を飛ばしてきた。
「痛ッて!!」
痛みに耐えられず床に座り込むと、
今度は響の蹴りが顔面に飛んで来た――
―が、翼が響の脚を受け止め、
俺を守ってくれていた。
「ホントに持ってねぇ…」
「俺に嘘が通用するとおもッてんのか?」
翼は呆れて何もいえなくなった。
「俺たちはホントに持ってない。もしお前が俺たちを殴り倒して、服とかを物色しても金が見つからなかったら恥だな」
代わりに俺が反論に出た。
「…」
「何とか言えよ…」
「はいはい…もういいよ、役立たずども」
俺たちは響の隣を走りぬけ、
再び外を目指した。
「ハァ…ハァ…もうここは…地獄だ…今までの学校じゃねェ…」
「見えたよ…外…」
俺たちはようやく地獄を抜けた…。
そして、飛び込んでくる無惨な光景。
服を血に染めた生徒や教師、一般人の姿が大勢。
首筋を刃物で切りつけられ、
出血多量の死体も、
首にロープか何かの跡が付いた、
絞殺死体も、
車で追突され、原形をとどめないほどに骨折した死体も、
その辺りにゴロゴロと転がっている。
地獄を抜けたその先には―――
――――地獄