7.彼女はぼくの話に興味がない
「たまには。日曜日に何も食べるもんがないときは、自分で作ったりもするよ」
「料理好きなの?」
心臓がどくんと跳ねたのがわかった。
その子は変わらずにこにこ笑っているように見えるが、目の奥はさぐりを入れようとしているみたいにギラギラしていて怖い。
「好きじゃない! でもどうせ作るならうまいもん作りたいし、食べるのは自分なんだから」
「それなら腹に入ればいいなんてのじゃなくて、結構ちゃんと研究したりしてるの?」
「店のレシピ見たり、本屋で興味があるのを立ち読みしたり、テレビの料理番組参考にしたり。まあ、ネットも、いろいろ。親に見つかったら作るのが好きなんじゃないかと勘違いされるから、こっそりと」
「内緒にしてるの? なんで?」
その子は大きな声を出して、驚いたような顔をした。
洋食屋の息子が両親から隠れて料理をしていることは、変わったことかもしれない。理由は簡単だ。小学生のころ、料理なんかする女っぽい若林、とクラスの男子たちにはやし立てられ、笑われたから。あの頃は何がきっかけでいじめに発展するかわからない。「男のくせに料理」というのが、まるでレッテルのように貼られる。それからは店を手伝ったり、家のご飯を一緒に作ることも止めた。代わりに必死になってサッカーをした。それはそれで面白かったのだけど、はまり込むまではいかなかった。どうしても気になって、一人で料理をすることを再開したのが中学生になってからだ。
「じゃあ親がいないときにこっそり台所使ったり、自分の部屋で、本やテレビで研究したり?」
「大体そうだけど。でも弟と同じ部屋だから自分の部屋っていうのはない。弟も知らないから、いないときだけとか、外に料理本を持ってって読んだり」
すでにその子は興味を失いかけているようで、つまらなさそうにティッシュで鼻をかんだ。
「じゃあすごく不便じゃない。自分ひとりの部屋が欲しいでしょう」
「そりゃ、あったらいいとは思うけど、仕方ないしなあ。うちマンションだし、そんなにたくさん部屋があるわけじゃないんだ」
生まれたときから住んでいるのが物価の高い市内のマンションで、部屋数を求められないことはわかっているし諦めていた。彼女は「ふうん、そんなもんかね」と言いながら、鼻をかんだティッシュをゴミ箱に放った。