6.内緒の料理好き
「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど。男ってそういうことするのかっこ悪いと思ってる人いるでしょ。だから、逆に良いと思って。なのに私のほうが変なこと言って」
「いいよ、別に。確かにぼくの周りにも、男で料理に興味あるやつなんていないし」
眉間に寄せられたその子の皺が解かれていった。
「お店を手伝ったりもするの?」
「しない。人に食べてもらったのも今日が初めて」
話しながらなので自然と食べるペースは遅くなっているが、皿に盛られたオムライスは順調に減っている。
「将来はコックさん?」
「ならないよ」
「ふうん」
その子はは興味なさそうにそう言い、残すだろうと思っていたあれだけの量のオムライスを全て食べ尽くした。
「ふう食ったー、おなか一杯―」
食べ終わるが早いが、その場に大の字で寝転がった。
「絶食上がりが、そんだけ食ってもいいんだろうか」
「いいんじゃない」
くっくっくっと笑いながら、彼女は伸びをしそうだったが、手を頭の上に伸ばすだけだった。
「ああ生きてるって感じ。幸せ。おいしかったあ」
突然起き上がりぼくを見て「ありがとうございました」と、いたずらしたあとの子供のように笑った。
倒れていた姿を見つけたときの恐怖が和らいでいく。
「でもさ。これだけおいしく作れるんだから、誰かに食べてもらったことはなかったとしても、相当料理はしてきてるんでしょ」
さっきから思っていたんだが、この子の口ぶりは、年上に対しての口の利き方ではない。物怖じしないというか、失礼というか。誰かに注意されたことはないのだろうか、とつい気にしてしまう。
ぼくはいつも両親に内緒で料理をしてきた。両親がお店に行き、弟が遊びに行っているあいだ、誰もいない台所でお店のメニューや、自分で考えた創作料理、テレビで紹介しているレシピとか、気になるメニューを手当たりしだい作っていた。
こずかいで買った材料でこっそり作り、できあがった料理はすべて自分で食べる。急いで鍋を洗い、フライパンの油を拭き取り、なにもなかったかのような綺麗な台所へと戻す。精神的にも体力的にも大変なことだった。