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百話厭説  作者:
2/20

002.同じ顔

 ──初めにその『顔』に気付いたのは、確か、半年前くらいの事です。仕事帰り、会社近くの駅のホームで。気付いたっていっても「あ、あの人、前にも見た事ある人だなー」ってくらいの軽いもので。あるじゃないですか、そういう事。通学路、通勤路って毎日通るものだから。別に何でってんじゃなく、何となく顔を覚えてた、みたいな。


 で、そのまま電車に乗って、僕はその駅を出たんです。その人は別の電車なのか、ホームに残っているのが見えました。そう、ホームに残っているの、はっきり見たんですよ。


 家の最寄り駅には20分くらいで着きます。その日は特に遅延とかもなく、予定通りの到着でした。それで電車を降りて、改札の方に向かったら──、


 いるんですよ。その人が。


 僕「あれー?」って思って。同じ電車には乗ってなかったし、あの駅に後から来る電車で僕の乗った電車より早くこの駅に着く電車は来なかったはずだし。とはいえね、別に、不思議だなってくらいのもので、後をつけるとか、ましてや話しかけるなんてしなかったです。その日はそれだけです。


 翌日の帰り道、駅のホームでまたその人を見かけたんです。もちろんその時も話しかけたりはしませんでした。「あ、あの人だ」くらいの感じで。で、やっぱりその人は僕と同じ電車には乗らず、駅のホームに残っているのが窓から見えました。それで20分くらいして、予定通り最寄り駅に着いて……。そしたらやっぱり、いるんですよ。よく似た人とかじゃなくて、着ているスーツとか、持っている鞄とか、そういうのも全く一緒で。


 まあ双子とかって可能性もあるんで、不思議には思っても、何ていうのかな、奇妙だなとか怖いとか、その時はそこまでは思わなかったです。その日から毎日、注意してみるとやっぱりその人──その人達、って言った方が良いですかね──は帰り道で見かけました。でも深く考えたら流石に何かちょっと怖いんで、気にしないようにする事にしたんです。


 それから2ヶ月くらい経って、僕、出張があったんですよ。一泊二日で。で、新幹線に乗るために駅に行ったんです。そうしたら、またいたんです。その人が。もちろん帰りに会社近くの駅で会うくらいですから、同じ圏内で仕事をしてるんでしょうし、新幹線のホームで会う事は別におかしな事じゃないです。でも、やっぱりおかしいんです。その人が私と同じ新幹線に乗らなかったのは確かなんです。駅を出発する新幹線の車窓から、駅のホームに立っているその人を見たんですから。間違いないです。なのに──、


 いたんですよ。新幹線を降りた駅に、その人が。僕、慌てて調べたんですけど、やっぱりあの駅を後から出発して先に着く電車なんて無いんです。だから僕、怖くなっちゃって。


 それから気にして見るようになったら、何処へ行っても、その人がいるんです。遠くへ出張や旅行をしても、家の近所で買い物をしていても。テレビの街頭インタビューに映り込んでいた事もありました。恐怖ですよ。しかも、あの人、絶対二人以上いるんです。あ、いや、同時に二人以上いるのを見た事は無いんですけど、そうじゃないと説明がつかないですよね。駅で見送った人が、先回り出来るはずがない場所にいるなんて。


 僕、流石にまいっちゃって。病院行ったんです。精神科。それで、まあ色々お薬もらって。でもその人はいなくならなくて……。1ヶ月前から休職してるんです。外出るのが怖くなっちゃって。買い物なんかはネットショッピングで出来ますし、案外、家から一歩も出なくてもどうにかなるもんですね。


 それで、今日は久しぶりに外に出たんです。通院です。お薬、無くなっちゃったんで。


 ──ところで、私がどうしてあなたに話しかけたのか、気付いていただけましたか?

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