疾い小童 その漆
突然、電話越しの侑季の甲高い発狂が
俺の鼓膜に直に響きわたる。
店のトイレにも反響して壁に少し亀裂が入った。
「なっ……おい!どうしたんだよ!」
『子供なんて知らないわよっ!ふざけないでよっ!
ねぇ、どうして!?どうしていつも私を拒むの!?
毎回訳のわからないこと云って、私を遠ざける!!
そうやってアナタはまたッ』
「おい烙本!大丈夫か!?何があったんだ!!!」
まずい。鳥口の声だ。
何とか妻と鳥口を宥めなければ
「大丈夫、ただの夫婦喧嘩だ!」
「あ、そうか。ならしょうがない
……ってなる訳ねぇだろ!?ドア開けろっ!」
仕方なく、俺は直ぐに電話を切り
ドアを開けた。そこには眉間に皺を寄せる鳥口と
指をさしてゲラゲラ嗤っている子供達、
壁の亀裂を青ざめた顔で見るシェフが居た……
暫くして店を出た。このまま出社する気になれず、
俺と鳥口は直帰する事にした。
「なぁ、お前どうしちまったんだ?」
「………なんだか分からなくなってきた。」
高級な肉にありつけてご機嫌なのか、
子供達は俺の周りをピョンピョンと跳ねている。
「まだ視えるのか、ガキ共。」
「あぁ。見るからにご機嫌だよ。」
「そろそろそのガキ共について考えたらどうだ。
見えるようになった原因とか精神科に行くとかさ、
……それかお祓いでもしたらどうだ?」
お祓いか………確かに幽霊みたいなモノだしな。
この際、最寄りの神社にでも行ってみるか。
と云うよりも、この地域の神社なら
全て網羅している。侑季が鬱病の時、
それが治るように願掛けに行ったからだ。
この近くだと確かが近かったかな。
俺は鳥口と別れて、歩いて向かった。
長い石段を上ると、少し小さいが貫禄がある神社と
辺りは成葉の菩提樹の木で溢れていた。
賽銭箱の前には管理人なのか
竹箒で掃除している老人が居た。
老人は俺に気がつくと気さくに話しかけきて
「どうも、こんにちは」
「あ、こんにちは」
「貴方は前にも来ていましたね、
お若いのにご立派だ。」
いやいや、と俺が返すと老人は続けて話した。
「ところで、順調ですかな。トキノケ様の様子は」
耳慣れない言葉が聞こえた。何のことだ?
「と、トキノケサマ?何ですかそれは」
「貴方の周りにいる、子供達の事ですよ。」
えっ、視えてるのか!
と心の中で驚くと老人はまた勝手に喋り出した。
「あぁ、もしかしてご存知無いのですか?
だとしたら可哀想になぁ。」
「貴方、もう良い人生は送れませんなぁ……」
何云ってるんだこのジジイは。
初対面なのになんて言い草なんだ。舐めやがって。
でも……少し子供達が
気になって見てみると、皆んな真顔だった。
いや正確には睨んでいた。まるでこの世の
全ての黒を混ぜたようなドス黒い瞳で
俺をジッと睨み続けていた。
俺は思わずヒッ、と高い声を出した。
「あの……この子供達は一体何なんですか?
座敷童子とか化け物の類か何かなんですか?」
「まぁ神様である事は間違いはありません。
ですが、その親元がいけない。」
そ、その親元は何です?
と恐る恐る聞いてみると
「その方達は、疫病神様の子供なのです。」
俺は理解できなかった。
因みに、烙本と鳥口は店を出禁になりました。
鳥口「何で俺もなんだよ!?冗談じゃねぇぞこのks」