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閃光文藝  作者: 舩旁晛宏
5/7

疾い小童 その伍

 俺と鳥口は受付に案内され、席に着いた。

目の前には巨大な鉄板とこれから調理されるので

あろう、シェフが厳選したお高い食材があった。

ランチ2つで_

と鳥口が慣れた口調で()う。


シェフが(うなず)き、脂身を鉄板の上で

細かく刻んでいく。香り高い良質な脂が溶けていく

頃合いを見て、鳥口がまずは会社の事だと云った。


木真崎(きまざき)の野郎、ふざけやがって。

今月で何人辞めさせたと思う?」

「えーっと...一昨日はOLの庄田(しょうだ)さんだろ、

1週間前は稗鴨(ひえがも)先輩もだったな。

あとは……広報の枸條(くじょう)さんだっけか。」

「その枸條なら、辞めた後すぐに

自殺したよ。まだ娘さんも居るってのにな……

本当に可哀想だ。まぁ俺に家族は居ないがな…

あ、あと實河(じつかわ)も辞めて自衛隊に行くってさ。」

「えっ!あの實河が!? …まぁアイツは

変な正義感があるから、なんとかなると思うが…

自衛隊ってそんなに簡単になれないだろう。」

「なんでも民間の団体にそう云うのがある

んだってさ。まぁ、危ない団体である事に

違いはなさそうだがな……」


鳥口が馬鹿だと(ののし)る上司、

木真崎達哉(きまざきたつや)(ろく)に仕事が出来ず、

そのくせ俺らにミスがあったら

すぐに怒鳴り散らかすヒステリーな奴だ。

しかし、奴は上部の人間や相手企業に

好まれやすく接待も必ず成功してくる。

奴のでっぷりとした腹がそれを物語っている。


リタイアしていった同僚,後輩達の話を数分し、

玉葱が飴色になり人参に焦げが付き始めた頃、

鳥口が本題に入るぞ、と云った。


「お前は昨日云ったよな、

『俺に″子供″が見えないか』って。」

「ああ。確かに云ったよ。」


現に子供達は俺らの周りを囲んでいる。

中には熱々の鉄板にゴロゴロして

肉を潰そうとしている子も居る。(嗚呼………)


「その″子供″が見えてから、

お前の身の周りで何か良い事,あったか?」

「良い事?例えばどんなの?」

「何でも良いんだ。宝くじが当たったとか、

間に合わない筈の電車に乗れたとかそういうの。」


良い事……昨日の事を思い返すと

けっこう思い当たる節がある。

木真崎の餌食にならずに済んだ。

だが、呑み会で鳥口にキレられた。

なんとか終電電車に間に合った。

だが、それは家と反対方向で進んでいた。

酷い鬱状態の妻が奇跡的に回復した。

……だが、記憶は無いようだった。


これらの事を鳥口に話した。(ちな)みに

妻の鬱状態の内容やその経緯も洗いざらい話した。

変な同情が(いや)だったから、

鳥口には内緒にしていたのだ。………7年間もだ。


「そんな事があったのか!?

なんかすまないな……色々訳アリだったんだな。」

「可哀想な目で見るなよ…余計傷つくから……

ただ、良い事だと始めは思うんだけど

結局碌な事にならないんだよなぁ。

毎回オチが付くかの様に、残念な目に合うんだ。」


ほう、と鳥口が不思議そうに相槌を打った。

しかしこれらの出来事には1つの共通点がある。

それは


「子供のせいだと思うんだ。その珍現象。」


鳥口は云いたい事を代弁してくれるかの様に

キッパリと云った。しかし、それは的を得ていた。

やはり、コイツは感が鋭い。いや、鋭過ぎる。




シェフが肉にワインをかけ、

いよいよ調理が佳境に入った。

食材と寝転んでる子供は業火の中だ。


「でも、何で分かった?

まだそんなに話していない筈だし、

それに、さっきまで幻覚扱いしてただろ?」

「ああ。最初はお前の幻覚だと思ったよ。

まさかお前がクスリやってたのか_とかもな。」

「よせよ。それを購うツテなんて知らないよ。」

「だろうな。だが、それらの珍現象は

その子供達がお前に憑いてきた時から起こった。

……………そうだろ?」


そう。その通りなんだよ。

この子供達はどうして俺に着いてきたのか

分からない。理由があっても思い出せない。

それに子供達には親近感……みたいな

そういったものが感じ取られる。


「……幽霊なのかな。鳥口、

お前には見えてないんだろ?この子達が。」

「ああ。全く見えない。」

「…そうか。じゃあこの子達は

一体なんなんだ?幻覚でも幽霊でも無いなら

妖怪か?それとも宇宙人か?……神様ってか!?」

「お、おい。落ち着けよ!店の中だぞ!」


ふと我に帰った私は今の言動を恥じた。

しかし、シェフと子供は気にせず各々の

やりたい様にやっている。


そして、料理が出来た。

あたかも高そうな肉だ。赤みと脂がてらつき

若干輝いている。付け合わせの野菜も美味そうだ。


「まぁ喰うか。肉は冷めたら不味くなるからな。」

「……それ鉄板焼きのシェフの前で云うなよ。」


シェフが少し泣きそうになっていたのは

置いといて、俺達はランチを喰うことにした。

ステーキが残り半分になったところで

電話がかかってきた。

電話の主は俺の妻、侑季だった___


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