終息へ
式典の後、わたしたちはすぐに皇城へ戻り、事件の終息へ動いた。
セラの証言によると、わたしが呼んでいると聞いて庭園に向かうと、すぐに後ろから殴られたような衝撃を感じたらしい。そしてフラフラになって倒れ込んだところを、何か液体の入った小瓶のようなものを口に突っ込まれ、その後意識を失ったそうだ。
気付いたら庭園で寝ていた状態で、たくさんの人たちに囲まれていて、とても驚いたという。
でも、起きた時はすでに夕方になっていて式典の時間が迫っていたため、事情を聞いたり話したりする間もなく、身なりを整えて急いで騎士たちに会場へ連れてきてもらったのだそうだ。
嘘をついて呼び出したセラを、後ろから襲ったうえに薬を飲ませて昏倒させるなんて、絶対に許せない。やっぱり一発殴ってやりたいと思うのだが、犯人であるイレーヌはすでに牢へ入れられていて、接触することはできなくなっていた。
それもこれも、なんと、ノアが捨てられていた空の小瓶を早々に見つけ出し、イレーヌの犯行の証拠として提出していたからである。強力な睡眠薬が入っていたその小瓶は、入手経路が限られていて、持ち主は早々に判明した。
「なんと……! まさかイレーヌ様が、私の常備薬を勝手に持ち出すなど夢にも思わず……。申し訳ございません。もっと管理に気を配るべきでした」
睡眠薬を持っていたロマロという司祭は、不眠症の気があり、あくまでも常備薬として処方してもらっていただけだと主張した。薬品の管理不足について不手際は認めたものの、セラが襲われた件については自分は無関係だと言っていたが、本当にそうだろうか。
彼については、犯行時刻のアリバイがしっかりしていることや周囲の評判の良さから、処罰は管理不行き届きだけの軽いものになりそうとのことだが、わたしはものすごく引っかかるものを感じている。
実際彼はセラには何もしていないので、仕方ないのだろうか、とも思ったけれど。
「管理不足と監督不行き届きでこんな事件が起きたのだから、彼にはこの先もしっかりとイレーヌの監督に励んでもらって、反省してくれたらと思っているよ」
と父がにこやかに言っていた。
こんな事件を起こしたイレーヌは、この先まともな教会に所属できることはないだろう。北方の教会に配属されるか、紛争地域など危険な場所で聖女の力を使わされることになるそうなので、そこへ一緒に行かされるのは、初老の彼にとってはかなり辛いことではないだろうか。
……まあ、それはそれとして!
「トーア、すごいわ! また大発明な魔道具を作ったんでしょう!?」
帰り道でトーアの活躍を騎士から聞いたわたしとセラは、帰って早々、トーアのいる魔道具師たちの部屋へ突撃訪問した。
トーアは、結界に閉じ込められた状態のセラを助け出すために、限られた時間内で今までになかった新しい魔道具を作り出したらしい。そのおかげで、セラが式典に出ることが出来たのだから、大手柄である。
「いえ。結局、新しい概念を持つ魔道具を作ることはできなかったんですよ。でも、発想の逆転というやつで、現行の結界の仕組みをさらに強化させた結界をぶつけることで、結界の構成を破壊できるのではないかと考えたんです。開発過程の論文を見たことがあったのでなんとか時間内に原理を構築できたんですけど、あれが上手くいかなかったら正直お手上げでしたから、運が良かったです。製作時に予算の都合上却下された材料を利用しているので、量産できるものでもないですし、緊急用結界が破壊できると広がるのも良くないですから、作るのは今回限りになりそうですけどね」
トーアは、魔道具の話になるといつも饒舌だ。
「そうなのね。何だかもったいない気がするけど、確かに緊急用結界が簡単に壊せるようになるのは、まずいものね……」
今まで絶対に壊せなかったものを壊せる魔道具を作り出したのだから、充分大発明だと思うけれど、この方法は大々的に発表することはないらしい。またこんなことが起こった時のために、ひっそりと記録に残すだけに留めるそうだ。
「でも、わたしはトーアのことを、自分の側近として、誇らしく思うわ!」
「キアラ様の言う通りです。トーアさんのおかげで、わたしは式典に出ることが出来ました。本当にありがとうございます」
セラと二人で褒めると、トーアは顔を赤くした。
「役に立てて、良かったです。セラが式典に出るのをとても楽しみにしているのを知っていたから、なんとか出させてあげたくて、必死だったんです」
トーアが、えへへと照れたように笑う。
「ありがとうございます、トーアさん。わたし、今日の式典に出ることが出来て、本当に良かったです。選ばれた時は、キアラ様の側近として認められたような気がして嬉しかったから、頑張らなきゃって思っていただけでした。でも、聖火を灯した時、たくさんの人たちからお礼を言われて、喜んでもらえて……わたし、すごく嬉しかったんです。あんな体験ができるのは、きっと今日のあの式典だけでした。もし出られていなかったらと思うと、怖いくらい。だから、トーアさんには、本当に感謝しています。ありがとうございます」
「……セラの力になれて、僕も嬉しいよ」
……あら? もしかして、わたし、お邪魔なんじゃないかしら?
なんだか、空気がちょっと甘い気がする。父と母のこういう空気をよく見ているわたしとしては、こういう時はさっさと退散するに限る、と知っているのだ。
「わたし、ノアにもお礼を言わないといけないのを忘れていたわ。もう行くわね!」
「あっ、は、はい!」
「わかりました。お疲れ様でした、キアラ様!」
そうして二人に見送られ、わたしはノアの元へ向かったのだった。




