点灯式
わたしたちが舞台に姿を見せると、集まった大勢の民衆は、大きな歓声を上げた。
夕闇の空気の中、落ちかけた陽の光が、彼らを穏やかに照らしている。
「よかった。何かあったのかと思ったが、ようやく始まったな」
「待ちくたびれたわ!」
「ママ、聖火って、どんなの?」
「ふふ、見てのお楽しみよ」
そんな会話が聞こえてくる。
……セラの聖火、みんなに見てほしかったな。
建国祭は、十年に一度しかない。次に式典が行われる時にはセラもわたしもすっかり大人になっているし、またセラが選ばれるかどうかもわからない。もしかしたら、今日が最後の機会だったかもしれないのに。
そんなことを思っていても、顔に出すわけにはいかない。わたしは笑顔を崩さないように注意しながら、式典の進行を見守った。
父が、スッと前に出る。それだけで、ざわざわと騒がしかった民衆の声が、静かになっていく。
こういうところを見ると、父はすごいなと、素直に思う。皇帝としての威厳というか、存在感というか、それだけで、大勢の人たちが父の言葉に耳を傾けるし、自然と従わせてしまうのだ。わたしは皇帝になりたいわけではないけれど、皇帝としての父を尊敬しているし、憧れてもいる。こういうことを言葉にして伝えると、途端にデレっとしてダメな父になってしまうので、あまり言わないけれど。
静かになると、父がようやく口を開いた。
「皆、よく集まってくれた。私はここに、十年に一度の建国祭を無事に開催できることを、開催に向けて尽力してくれた全ての者たちと、こうして祝福のために集まってくれた全ての者たちに感謝しよう。その昔、小さな集落にしか過ぎなかった竜人族の国が、竜神様による祝福でこのように大きな帝国となった。未来を信じ、希望を忘れずに行動すれば、困難な道もきっと拓けると、我々の歩んできた歴史が物語っている。また十年後もきっと同じように、もしくはこれ以上に盛大な建国祭が行えるよう、これからも皆に協力を頼みたい。……皆の未来を明るく照らしてほしいという願いを込めて、聖女殿に、聖火を灯して頂こうと思う」
父が合図を出す。
わたしはテレサさんが現れるはずの、左手側に視線を向けた。けれど、そこから現れたのは、想像していた人物ではなかった。
……セラ!?
少し髪が乱れているけれど、きちんと正装に身を包んだ、帝国認定聖女の顔をした、わたしの親友だった。
わたしは動揺やら喜びやらで表情が崩れそうになるのを必死に堪えつつ、セラがゆっくりと舞台の中央まで歩いて行くのを見ていた。ちらりと確認すると、母はとても驚いている様子なのに、父はニコニコとして平然としている。
……これは、どっちかしら。セラが来ていることがわかっていたのか、ポーカーフェイスなのか。どちらにしても、やっぱり、お父様はすごいわ。
中央まで来ると、セラは両手を胸に当て、教会式の挨拶をした。
「この度、聖火を灯す大役を仰せつかりました、セラと申します。皆さまのこれからのご多幸を心から祈りながら、ここにわたくしの聖火を奉じさせていただきます」
そう言って、舞台から続いている、点灯台までの階段を上っていく。
間もなく、日が落ちるという時。わずかに差す夕焼けの光が、セラを照らす。
大きな点灯台の側に立ったセラは、なんだか小さく見える。けれど、堂々と佇むその姿は、いつもの控えめな彼女と違っていて、とても輝いて見えた。
「皆様に、希望と幸福の未来が訪れますように」
セラがそう告げると、彼女の身長の倍以上もある巨大な聖火が、点灯台へ灯された。その光は、先程見た、イレーヌの光とは比べるべくもない。大きさも、見る者に与える印象も。
少しの乱れもない見事な橙色の球体が、温かく周囲を照らしている。見ているだけで、穏やかな気持ちになれるような、心がポカポカしてくるような。そんな、大きくて温かな光だった。
ワアッと、歓声が起きる。
「ありがとうございます、聖女様ー!」
「すごく綺麗ですー!!」
「素敵な聖火を、ありがとうー!」
「聖女様~!!」
たくさんの拍手と、囃し立てるような指笛の音と、感謝の言葉がセラへと向けられる。
セラは驚いたのか、少し戸惑った様子だったが、すぐに嬉しそうな笑顔で手を振って、歓声に応えていた。
そんな親友が誇らしくて、わたしも笑顔で、彼女へ大きく拍手を送ったのだった。
短くてすみません!
次は早めに更新します。




