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半竜皇女~父は竜人族の皇帝でした!?~  作者: 侑子
第二章

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五年後

 バルドゥーラ帝国が世界へ向けて大々的に行った発表は、一大ニュースとして、大陸中を駆け巡った。


 行方不明になっていたという、皇帝のつがいが奇跡的に見つかったこと。また、二人の間には、すでに娘である皇女が存在していたことが、世界に向けて公表されたのだ。


 長らく姿を見せない皇帝の容態が不安視されていた中でのおめでたい発表に、帝国民は沸きに沸いた。

 結婚式は一年後と発表されたにもかかわらず、敬愛する皇帝の、この上なく幸せな報告に民たちは皆浮き足立ち、毎日のようにそこかしこでお祭り騒ぎが起こっていた。


 そんな騒ぎを煽るのに一役買ったのが、実話を元に作られたという歌劇、竜人族の皇帝と、人間族の少女の物語だった。

 


『竜人族の皇帝と、美しい人間族の少女は、種族も身分も越えた愛を、密かに育んでいた。しかし、皇帝の母である皇太后はそれを許さず、皇后の座を狙う悪女と共謀し、二人は引き離されてしまう。彼女は、傷心の中授かった皇女を、ひっそりと隠し育てることに。

 そんな中、美しい彼女を愛人にしようと企む悪徳領主によって、彼女は皇女と共に家を追われてしまう。辛い環境の中でも、彼女は領主に屈することなく、一途に皇帝を愛し続けていた。

 皇帝と同じ色合いを持つ、愛らしくも勇ましく成長していく皇女と支え合いながら、慎ましく暮らす日々。しかしそんなわずかな安寧さえも長くは続かず、ついに彼女は、悪徳領主に拐かされてしまう。

 そして、絶体絶命という、まさにその時。行方不明になったつがいを探し求めて旅をしていた皇帝が、ついに彼女を見つけ出し、悪徳領主の横暴から、彼女を救うのだ……!』


 ーーそんな、皇帝の権威と名誉のために若干フィクションを織り交ぜた実話が、大陸中で続々と講演されていったのである。


 そのおかげで、皇帝の結婚と皇女の存在は、概ね好意的に受け入れられることになった。

 

 因みに脚本は、皇弟のオルディンである。

 

 実際には私は寝込んでいただけなのに……と皇帝はさすがに拒否感を訴えたものの、「これもつがい様と皇女殿下のことを民にすんなり受け入れてもらうための、情報操作の一環です」と言われてしまえば、止めるどころか、むしろ納得するしかなかった。



 そして、一年後に執り行われた華々しくも盛大な結婚式では、歌劇は本当に事実なのかと信憑性を疑う者も、口を閉ざさざるを得ないほど完璧な、皇帝家族の姿がそこにあった。


 教会の大聖堂から皇城までの道中に行われたパレードでは、大勢の人に手を振る三人へ向かって、たくさんの祝福の言葉と、花吹雪が投げ掛けられた。

 中睦まじく寄り添う、皇帝と美しいつがいの女性。そして二人の間には、皇帝と同じ色合いを持ち、つがいの女性とよく似た顔立ちの、愛らしい皇女の姿が見られたという。


 彼らの姿を一目見た者は、三人の神秘的とも言えるあまりに美しい様相に、ため息をこぼさずにはいられなかったというーー。




 そんな結婚式から、また幾年かの時が流れ。

 幼かった半竜の皇女は、大人の仲間入りをするべき年齢になろうとしていた。






「キアラ様~!」

「キアラ様、どこですかー!?」


 専属メイドであるリリアンとメリアンが、姿が見えなくなった皇女を探して、大きな声を出している。


「……」


 そんな彼女たちの声を聞きながらも、皇城の屋根の上に平然と立ち、こっそりと様子を窺いつつ黙っている、一人の美しい少女がいた。

 彼女こそ、帝国の至宝と呼ばれるバルドゥーラ帝国唯一の皇女、キアラ・ヴァン・バルドゥーラだ。


 皇女として帝都へやって来た頃と比べて、まだ成長途中ながらも、背は母と並ぶほどになった。すらりと伸びた手足は、相変わらず華奢で筋肉がないように見えるが、その内に凄まじい力を秘めている。


 以前はふわふわとあちこちに跳ねていた父親譲りの赤い髪は、しっかりと手入れされたおかげで、さらさらと艶やかに腰まで流れていた。

 

「キアラ様ったら、もう十四歳になられたというのに、全く落ち着いてくれませんね」

「本当に。そこがお可愛らしいところでもあるのですけど……」


 ふふん。ここに隠れていれば、きっとそのうち、二人はどこかへ行ってしまうわよね。そうしたら、あとは目的地まですぐそこよ!


 そんなことを考えながら、キアラは笑みを浮かべた。しかし、事は思惑通りにはいかなかった。


 そこへ通りかかったのは、アプリコット色の柔らかい髪から、ぴょこんとプーニャのような耳を覗かせた少女だ。


「あら? キアラ様、屋根なんかに登って、何をしているのですか?」

「あっ、セラ! しーっ!」


 キアラの親友であり、帝国の認定聖女であるセラが、たまたまキアラを見つけ、声をかけてしまったのだ。


 彼女もまた、キアラよりも少し背は低いものの、可憐な少女に成長していた。キアラの側近になるために重ねた努力は、彼女に多少の自信を与えたらしく、以前のおどおどとした雰囲気は鳴りを潜めている。

 背筋を伸ばして歩くその姿は、誰にでも優しい、慈愛の聖女として親しまれていた。


「え!? キアラ様、そこにいるんですか!?」

「逃がしませんよ、キアラ様!」

「えっ、えっ?」


 状況が掴めず焦るセラに苦笑いしつつ、キアラは諦めのため息をひとつ吐くと、屋根を軽く蹴り、セラの近くの地面へ向かって飛び出した。


「キ、キアラ様!」 


 思わず声をあげたセラの心配をよそに、ほとんど音も衝撃もなく、見事に着地したキアラは、親友へ向かって、バツが悪そうに頬をかく。


「見つかっちゃった。また衣装合わせをしないといけないって言われたから、ちょっと逃げて来ちゃったの」


 そう呟いたキアラの両側を、爆速で走ってきた専属メイドの二人が固めるのに、時間はほとんどかからなかった。


 

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