幕間 セラの奮闘
わたしはセラ。
獣人族なのに体力がないし力も強くないから、同族のみんなから嫌われていた。
治癒魔法が使える聖女だとわかったら、親に教会へ売られてしまったのだから、わたしは本当に、いらない子供だった。教会でも、獣人族だとバレたらすぐに追い出されてしまって、最後は人さらいに捕まり、奴隷になってしまった。
そんな、なんにも希望のない生活から助け出してくれたのが、キアラ様だ。キアラ様のためなら、わたしは何だってやってみせる!
皇女様になってしまったキアラ様の側にいるため、側近を目指すことにした。治癒魔法を使える聖女だというだけでも、万が一の時のために側にいてくれると助かると言われたりもしたけれど。わたしはもっと、ちゃんとみんなから認められるような、キアラ様の側近になりたいのだ。
でも、力のないわたしは、キアラ様を守る騎士にはなれない。だから、お勉強を頑張って、文官や秘書のような存在になって、キアラ様の助けになりたい。今までお勉強なんてしたこともなかったから大変だけど、やればやるほどできることが増えていくから、これならきっとわたしにもできるはずだ。
……キアラ様は、お勉強がちょっぴり苦手みたいだしね。
「えっ。今日は、せっかくお休みの日なのに、セラは一緒に遊びに行かないの?」
キアラ様は優しいから、いつもわたしを色々なことに誘ってくれるけれど、わたしは将来キアラ様のお役に立つために、もっともっと、お勉強を頑張らないといけないのだ。
「ごめんなさい、キアラ様。まだ、読んでおきたい本が残っているんです。キアラ様は、ノアルード様たちと、楽しんできてください」
わたしには、遊んでいる時間なんてない。ただでさえ、同じ年の子たちよりも勉強が遅れているのに、目指すのは皇女様の側近という、はるか高い場所だ。空いている時間は全部、お勉強に充てるくらいでなきゃダメなのだ。
キアラ様のお誘いを何度も断ってしまって申し訳ないし、あまり一緒にいられなくて寂しいけれど、わたしはトロいから、人一倍頑張らないといけないのだ。それに、ここの人たちはみんな獣人族のわたしにも優しくしてくれるけれど、いつまでも役立たずだったら……また追い出されてしまうかもしれないもの。
「ねぇ、セラ。もしかして、体調が悪いんじゃない?」
「え……?」
いつも通りの朝食のあと、キアラ様が心配そうな顔でそう尋ねてきた。
言われてみると、確かに、ちょっとだるいかもしれない。おでこを触ってみると、熱を持っている気がした。でも、今日は先生に、課題の添削をお願いしているのだ。これからすぐに持っていかなければならない。少しくらい体調が悪くても、きっと平気だ。
「これくらいなら、大丈夫ですよ。わたし、頑張れます!」
「セラ、でも」
「本当に、大丈夫です。今日は、湖へピクニックに行くんですよね? 楽しんできてください。わたしは、先生のところへ行ってきますね!」
キアラ様と別れ、やっておいた課題を持って先生のところへと向かう途中、くらりとめまいがした。
「あれ……」
目の前が真っ暗になって、わたしの意識はそこで途切れた。
『あなたって、本当に役立たずね』
『いつになったら、まともに狩りができるようになるんだ?』
……この声は……。
『何もできないのに食べ物ばかり求めてくるんだから、本当にイライラする』
『お前のせいで、俺たちまでみんなから白い目で見られているんだぞ』
……ごめんなさい。ごめんなさい、おかあさん。おとうさん。
場面がパッと変わる。
『きゃあっ! 獣人!?』
『私たちを騙していたのね!』
今度は、聖女仲間のみんながわたしを責めてきた。
……違うんです。違うんです。わたしは、ただ……。
『汚ならしい獣人族を俺たちが使ってやろうってんだ。ありがたく思えよ』
今度は、人さらいの男が、わたしの髪を掴んで振り回してきた。
……嫌。嫌なの。もうやめて……!
『ーーセラ!』
真っ暗な闇の中で泣いていたわたしを、真っ赤な髪の、太陽みたいに輝く金色の目をした女の子が、優しく手を引いて救い出してくれた。
大丈夫、わたしと行こう。お友だちになってと、たくさんの優しい言葉をくれた。
……そうだ。わたしはもう、ただの役立たずで汚ならしい、獣人族の子供なんかじゃない。わたしは、キアラ様の……。
「セラぁ~~~っ! わぁーん! しっかりしてぇぇ~~~っ!!」
「キアラ。心配なのはわかるけど、あんまりうるさくしたら、セラが眠れないって」
「うぅっ、だって、だって、セラの顔、すごく真っ赤で熱いのよ。セラ、死んじゃうの?」
「大丈夫。医者の先生が、ストレスと過労だって言ってただろ? しっかり休めば、ちゃんと良くなるよ」
キアラ様と、ノアルード様の声がする。
わたしはゆっくりと目を開けた。
「キア、ラ、さま」
「っ! セラ!」
目を真っ赤にして泣き腫らしたキアラ様が、ベッドにいるわたしへ倒れ込むように抱きついてきた。
「わぁーん! セラが起きた! わたし、セラが死んじゃったらどうしようかと思ったぁ~~っ」
「まだ熱があるんだから、騒いじゃ駄目だ。キアラ」
ノアルード様が、キアラ様をベッドから引き剥がしてくれた。ちょっと苦しかったから、とても助かる。
「ごめん、なさい。わたし、ごめいわくを……」
「迷惑なんかじゃないわ。どうして、そんなことを言うの?」
「だって、キアラさま、今日は湖に行くんだって、言ってたのに……」
ここにいるということは、わたしが倒れたせいで、湖へ行くのを止めてしまったということだろう。キアラ様は優しいから、きっとわたしのことが心配で、遊びに行けなかったのだ。
「そんなの、どうでもいいよ! セラの方が大事に決まってるでしょ。セラは、わたしの大切なお友だちなんだから! 湖だって、本当はセラとも一緒に行きたかったのに」
ぼろぼろと涙をこぼすキアラ様を見て、わたしの目もじわりと熱くなった。
「ス、ストレスと過労だって、お医者さんが言ってたわ。セラが頑張り屋さんなのは知ってるけど、もう絶対に、無理しちゃダメなんだからね!」
「セラ。あまり根を詰めすぎるのも良くないぞ。適度に休憩したり遊んだりした方が、気持ちが楽になって、勉強もはかどるんだ。それに、キアラが寂しがるから、時々は一緒に遊びに行こう」
二人が口々に、わたしを心配する言葉をかけてくれる。こんなに優しい人たちのそばにいるのに、どうしてわたしは、また捨てられるかもしれないなんて思えたんだろう?
「……はい。ありがとうございます……」
わたしの目からも涙がこぼれたけれど、わたしの大切なお友だちが、優しく拭いてくれた。わたしは安心して、眠りに落ちることができたのだった。




