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半竜皇女~父は竜人族の皇帝でした!?~  作者: 侑子
第一章

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バカキアラ

「これは……!」

「……まずいな。これでは、もう猶予はほとんど残っていないだろう」

 

 父と母とわたしだけで、地下の部屋へ戻ってきた。

 黒髪の男の子はまだそこにいたが、今はもう目を閉じていて、意識がないようだった。その腕はもう肘まで見えなくなっていて、どんどん状況が悪化していることがわかる。

 

「キアラ、……本当にやるのか?」

「もちろんよ。ちゃんと見ててね、お父さん!」

「キアラ……」

 

 父が、止めたくて仕方ないという顔でわたしを見つめる。ここまでの道のりで儀式の方法について教えてはくれたが、まだやっぱり反対したい気持ちが残っているようだ。

 

 でも、わたしの気持ちは変わらない。

 

 ……絶対に、この人を助けるんだ!

 

 わたしは意を決して、部屋へ踏み込んだ。先ほどと同じように、黒い暴風がわたしを襲う。

 

「キアラ!」

 

 母の心配そうな声が後ろから聞こえたが、わたしは平気だ。さっきは油断していたのでケガをしてしまったが、きちんと意識していれば、これくらいでわたしの肌は傷つかない。

 でも、服はどんどんボロボロになってしまうし、時間もないので、早く終わらせなければ。

 

 彼に近づくほど、当然のように風の勢いは強くなる。ビシビシとこちらを攻撃するように向かってくる風を受けながらも、わたしは彼に触れられるほど近くまで来ることができた。

 

 ……えっと。まずは、相手にわたしの血を飲ませるのよね?

 

 初っぱなから、意外と抵抗感のある儀式である。

 クロは嫌かもしれないけれど、他に方法がないので許してほしい。

 

 ちょうどいいので、わたしは先ほどケガをしたところから、指で血を取った。

 

 そして、その指を、男の子の口元へ持っていく。

 彼は顔の半分がもう原型を留めていないけれど、まだ口が残っていて、本当に良かった。

 

 彼は意識がないせいか、血がついたわたしの指を大人しく口に含んだ。

 

 それを確認して、わたしは目を閉じ、教えられた祝詞を思い出しながら唱え始めた。

 

「……われ、なんじを眷属とし、この命尽きるまで、守護することを誓う」

 

 唱えた瞬間、胸の奥が熱くなるような感覚がした。

 魔法が効き始めているのかもしれない。

 わたしにも竜人族の魔法が使えるのだと、少し安心した。

 

 けれど、問題はここからだ。

 

 この魔法の儀式は、お互いの同意がないと、発動しないものらしい。生命力を分け与え、守護するといっても、祝詞にもあるように、これは相手を自分の眷属とする儀式だからだ。

 

 竜人族の眷属になると、寿命や体の丈夫さといった力の一部を分け与えることになり、二人の間には、一生切っても切れない絆ができる。

 

 お互いの生命力を共有することになるので、どちらかが命の危機に瀕するとすぐにわかるし、繋がりができるため、お互いのいる場所をおおよそで知ることができるそうだ。

 

 そんな絆を求めるのは、通常だとつがいに対してのみらしいのだが、わたしはそれを知っても、止めようとは思わなかった。

 

 意識がないクロに、この儀式へ同意するか尋ねることはできないけれど、本人が嫌がっていれば、この儀式はそもそも成立しないのだそうだ。

 

 でも、クロはきっと受け入れてくれると、わたしは信じている。

 

 ……ずっといいことがなかったけど、わたしといた時間は楽しかったって、クロは言ってくれたもん!

 

 わたしだって、そうなのだ。

 母はすぐに体が疲れてしまうから、あのボロ小屋へ移ってから、母の負担にならないよう、わたしはいつも頑張ってきた。

 

 今まで友達だと思っていた子たちは、親に言われたので、もう遊べなくなったと気まずげに謝ってきた。

 それ以来、話をすることもなくなってしまった。

 声をかけてくるのは、ハンスやブロウみたいに、ちょっかいをかけてくるようなやつらばかりだった。

 

 それでも、母を守るためなら、一人で頑張れると思っていたのだ。

 

 でも、クロが現れてくれた。

 最初はペットとして連れて帰っただけだったのに、クロはいつの間にか、わたしのかけがえのない友達になっていた。いつもそばにいてわたしを助けてくれる、相棒みたいな友達だ。

 

 本当は人族の男の子だと知った時は、どんな姿をしているのかなと気になった。

 

 プーニャのクロもお友達だけど、人族の姿だったら、もっと色々なことを一緒にできるんじゃないかなって、楽しみになった。

 

 ……だから絶対に、わたしはクロを助けるんだ!

 

 きっと大丈夫、と自分に言い聞かせ、わたしは結びの祝詞を唱えた。

 

「なんじ、われの眷属となり、その命尽きるまでわれに寄り添い、共にあることを誓うか?」

  

 唱え終わった瞬間、聞いたこともない言葉で話す、誰かの声が頭に響いた。

 

《ーーー!》

《ーー♪》

「へっ?」

 

 まるでクロの念話のように、頭に直接声が聞こえた。

 けれど彼のものとは違う高い声は、何と言っているのかはわからなかった。でも、なんとなく、喜んでいるような、嬉しそうな声だった。

 

「わっ!?」

 

 一瞬、ゴオッ、と激しい暴風がわたしを襲った。思わず目を閉じてやり過ごすと、不思議なことに、次の瞬間には風がピタリと止んでいた。

 

「……?」

 

 ゆっくりと目を開けると、散らばって暴れていた魔力の風が徐々にまとまって、彼を形づくるように、ふわりふわりと目の前に集まりつつあった。

 

「クロ……!」

 

 片方しかなかった顔の輪郭からゆっくりとできていくと、みるみる彼の上半身が出来上がっていく。

 

 ……やった! 成功したんだわ!

 

「あ、わわっ!」

 

 体の重みでぐらりと前に倒れてきた男の子の体を、わたしはしっかりと抱きとめた。さっきまでは消えかけていた彼の体が、しっかりとここにある。


「クロ、よかったぁ!」


 彼が消えずに済んだことが嬉しくて、わたしは思わずぎゅっと力を込めた。

 

「……キアラ。痛い」

「あっ、ごめん!」

 

 嬉しさのあまり、力加減を間違えてしまったらしい。

 すぐにパッと体を離す。すると、すぐ目の前に、とっても綺麗な知らない男の子の顔があって、わたしはびっくりした。

 

 ……わぁ。こんなに綺麗な男の子、初めて見たわ。

 

 大きな目に長いまつげ、サラサラな黒髪は女の子みたいなのに、すっと通った鼻筋ときりりとした眉は、凛々しくて男の子っぽい。こんなに整った顔の男の子は、村には一人もいなかった。

 

 プーニャだったクロが、本当はこんな綺麗な顔をした男の子だったなんて。

 

 彼はガラス玉のような水色の目で、無言のままジッとわたしを見つめた。澄み切った空のような色の目が、何か言いたそうにわたしを捉えている。

 

 ……えっと。もしかして、怒ってる?

 

「……バカキアラ」

「えっ、そんなに痛かった!?」

 

 やっぱり怒っているのかなと心配になったが、どうもそうではないようだ。彼はわたしの腕を掴んで軽く引き寄せると、ポスッとわたしの肩へ頭を預けた。彼の手が震えているような気がするが、これではどんな表情をしているかもわからない。


 サラリとした彼の黒髪が一房流れて、わたしの頬を撫でた。

 肩には、彼の頭の重みを感じる。


 こうしていると、クロがわたしより体の大きな男の子になってしまったことを実感して、なんだか変な感じがした。

 

 そんな中、何か考え込んでいた様子の彼が、ようやく口を開いた。

 

「……キアラとの間に、すごく強い繋がりができたのがわかる。そのおかげで、オレの魔力に耐えきれなかった器が強化されたみたいだ。でも、こんなの、何のリスクもなくできる魔法じゃないよな」

「う、うん……?」

 

 さすがクロだ。

 

 確かに、これは竜人族だけが使える魔法の儀式で、一生に一度だけだと言われたし、将来つがいと思える相手ができた時に困ることになるかもしれないとは言われた。

 

「眷属になって、一生守るとか、寄り添うとか、共にいろとか言ったよな。……その意味、わかってるのか?」

「え? そのままの意味でしょ?」

 

 それの何が問題なのだろうか。

 わたしが首を傾げると、クロがため息を吐く気配がした。

 

 ……どうしたの?

 

「本当にバカ。オレなんかのために、あんな魔法を使うなんて。恐らくこれは、古代魔法の一種だぞ。さっきの誓約は、きっとキアラが生きている限り永遠に効力を発揮するもので……」

「えへへ」

「……何笑ってるんだよ?」

 

 だって、嬉しいのだ。

 彼が消えずに済んで、こうして人の姿で話せていることが。


「クロとずっと一緒にいられるってことでしょ? ちゃんとわかってるよ!」

「……やっぱりバカだ」

 

 さっきから何度もバカだと言われているのに、わたしは嬉しくて嬉しくて、にこにこしてしまう。クロが助かったから、こんな憎まれ口も叩けるのだ。そう思うと、今は全く気にならない。

 

 そんなわたしを見て、クロはその綺麗な顔をくしゃりと歪めた。まるで泣くのを我慢しているような顔だった。

 

「……もう取り消しはできないぞ。それもわかってるんだよな?」

「うん!」

「なら、誓約通り、オレは何があっても一生キアラと一緒にいる。絶対に離れてなんかやらないから、覚悟しとけよ」

「あははっ。うん!」

 

 何の覚悟が必要なのかはわからないが、何の異論もないので、わたしは頷いた。

 

「…………助けて、くれて……ありがとう。キアラ」

「うん!」

 

 最後のお礼の言葉はとても小さな声だったけれど、わたしは力いっぱい返事をした。

 

「はじめまして、ノアルード。これからもよろしくね!」

 

 やっと、人の姿をした彼に向かって、名前を呼ぶことができた。初めてなのでちゃんと全部呼んでみたけれど、やっぱり長いので、次からはあの夜約束したように、ノアと呼ぼうと思う。


 笑顔を向けると、彼もやっと、フッと表情をゆるめてこう言った。

 

「末永くよろしく。キアラ」

 

 初めて見たノアの笑顔と、なんだかやけに甘く響いたその声に、わたしの胸はなぜか、大きくドキンと音をたてたのだった。





お読みくださりありがとうございます。

やっとノアルードが人の姿に戻りました。

服はどうなってたんだろう……笑


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皆様、良いお年を!

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