半竜
ずっと黙ってなりゆきを見ていたが、どうもわたしのことを言われているのがわかったので、どうしても発言したくなってしまった。
しかし、公の場で勝手に発言するのは良くないのだと、昨日教わったばかりだ。付け焼き刃の知識だが、たぶん、先生も今日のために教えてくれたのだろう。わたしが、こういう場所でちゃんと黙っていられるように。
今騎士たちに剣を向けられている金髪の女の人は勝手に発言し始めたように思えるので、ちゃんと合っているのかはわからないが、とりあえず父にお伺いをたててみる。
……教わったとおり、ちゃんと「お父様」って言えたわたし、偉いわ。
「キアラ、もちろん構わないよ。どうした? お前たちを侮辱した彼女を、すぐに処分してほしいのか?」
全く違う。
すごい笑顔で言っているが、そんな顔で言うことでもない。どうやら、父はかなり怒っているらしい。
わたしは首を軽く振ってから、口を開いた。
「わたしの半分は竜人族ですが、もう半分は、確かに人間族です。わたしは、ここにいるお父様とお母様の娘ですから」
わたしは主に金髪の女の人に向けて、そしてこの場にいる全ての人に向けて、丁寧に話し始めた。たくさんの人が、わたしの話に耳を傾けてくれているようだった。
「それを、わたしはとても素敵なことだと思っています。強くて格好いい竜人族のお父様も、優しくてしっかりした人間族のお母様も、大好きだからです。わたしは二人の子供に産まれたことを、嬉しく思っています」
さっき、わたしたちのために怒ってたくさんの人を威圧した父は、少し怖かったけれど、正直とても格好よかった。
こちらに向けられているわけではないとわかっているのに、近くにいるだけでビリビリする危険なオーラを発するなんて、父はすごい人だったのだと肌で感じた。一体どうやったのか、今度是非聞いてみたい。
「半竜って、とても素敵な言葉ですね。わたしが、お父様とお母様の子供である証明みたいなものですから」
にっこりと笑ってそう言ってみせると、ルイーダと呼ばれていた金髪の女性は、怒りに顔を歪ませ、真っ赤になってぶるぶると震え出した。
それでも、彼女は何も言えずに口を引き結んでいる。
……半竜であることが悪いことみたいに言うから、違うって言いたかっただけなんだけど、伝わったかな? 怒ってるみたいだから、伝わってないのかな?
「……キアラ」
「お母様?」
母が涙ぐみながら、わたしを後ろからそっと抱き寄せた。その後ろから、父がわたしたちをまるごと包み込むように腕をまわした。
「キアラ。私たちこそ、お前のような娘を持てたことがこの上なく幸せだし、嬉しく思うよ」
「ええ。あなたは私たちの誇りよ。私たちの元へ産まれてくれてありがとう、キアラ」
父と母の、愛情に溢れた言葉と眼差しに心が温かくなる。嬉しくて、ジンと幸せが体中を巡るようだった。
えヘヘと笑うと、二人も笑顔を見せてくれる。
わたしたちがそうやって笑い合っていると、どこからか、パチパチと誰かが拍手するような、小さな音が聞こえてきた。
それは次第に広がっていき、気がつくと、とても大きな音の波になってわたしに届いた。
広間中の人々が、わたしたちに向かって、笑顔で拍手をしてくれている。わたしはそれを見て、もっと嬉しくなった。
……わたしもお母さんも、みんなに受け入れてもらえたみたい! 良かったぁ!
しかし、そんな中、この祝福ムードを切り裂くような声がルイーダからあがった。
「……陛下っ!」
彼女は、悔しげに唇を震わせ、涙を浮かべながら父に向かって叫んだ。
「どうしてもつがい様を優先したいとおっしゃるのなら、それでも構いませんわ。ですが、それならどうか、わたくしを側妃にしてくださいませ!」
「何を……」
父が、不快そうに眉をひそめる。
「先ほど申し上げた通り、わたくしは、ずっとずっと、陛下のお帰りをお待ちしていたのです。わたくしの元へ届くたくさんの求婚書を今まで断り続けていたのは、ただ陛下と共にありたいという、一途な想いからでしたわ」
彼女の大きな目から、ついにポロリと涙がこぼれた。
「お慕いしております、陛下。わたくしは幼い頃から、ずっとあなた様だけを見つめてまいりましたわ。どうか、わたくしもそばに置くとおっしゃってくださいませ……!」
父のことが好きだと泣きながら叫ぶ彼女は、美しかったし、なんだかかわいそうに見えた。
どういう返事をするのかと父を見てみれば、彼は先ほどまでの温かい表情から一転、一気に冷え込んだ絶対零度の眼差しを彼女へ向けていた。
「なぜそのような発言ができるのか、理解に苦しむ。そなたが、私とサーシャの仲を裂こうとした皇太后と共謀していたことを、私が知らぬとでも思っているのか?」
「そ、それは……」
お前が言ったのかと言わんばかりに、キッとルイーダが母を睨んだ。
反論しないところを見ると、どうやら事実のようだ。
わたしはムッと顔をしかめた。
母が誤解していたのは、皇太后という人と、この人のせいらしい。全然かわいそうなんかじゃなかった。
むしろ父の言う通り、そんなことをしておいて、どうしてそんなお願いができるのだろうと腹がたってくる。
「……わたくしは、事実をその方に伝えただけですわ!」
「嘘だとわかり切っている皇太后の作り話を、あたかも事実であるかのように伝えた、の間違いだろう。見苦しいことこの上ない。もう良い、連れて行け」
「い、嫌っ! わたくしに触らないで! 陛下、お願いです。話を聞いて……ねぇディオルグ! ディオルグっ! 嫌ぁあーっ!!」
ルイーダは、有無を言わさず騎士たちに腕を捕まれ、引きずられるようにして会場から出ていった。その姿を、ずっとそばにいた彼女の父親が呆然と見つめている。
「……さて、叔父上。私の言いたいことがわかるかな?」
「へ、陛下……!」
彼は父の叔父にあたるらしい。彼は青ざめた顔で、片膝をつき頭を下げた。
「陛下、娘の言動が愚かなものであったことは百も承知でございます。ですが全ては、陛下への恋心ゆえでございました。何卒寛大なご処置をお願い致したく……」
「そうではない」
ルイーダを許して欲しいとお願いする彼の言葉を、父はバッサリと切り捨てた。
「彼女の罪は既に確定している。今は、そなたの罪について話しているのだ。私をつがいと引き離そうなど、私を害そうとしたことと何ら変わらない。彼女の行いがどれほど罪深いことか、わからぬとは言わせないぞ」
男は悔しげに顔を歪ませた。
そして、何かを考えるように一瞬目を閉じると、今度は眉を下げながら、哀れっぽく語り始めた。
「娘は知らなかったのです! 彼女が陛下のつがいだと知っていれば、そのような愚かな行動には決して出なかったはずです!」
「そうか? 先ほどの言動を見れば、あまりそうとは思えないが」
「……私は、父親として、そう信じております。ですが、確かに娘可愛さに甘やかして育ててしまった私にも責任がございます。その罪は、甘んじて受けさせて頂く覚悟でございます」
「……ほう。では、そなたの罪はそれだけだと申すのか?」
ビクリと、男の肩が震えた。
冷や汗を流しながら、口を開く。
「……何のことを、おっしゃっているのか……」
「なるほど。あの愚かな従兄妹がそなたの助けなしにできることなど限られてくるはずだが、素直に認めるはずもないか。今日のところは、ルイーダの父親として、罪を問うことにしよう」
「へ、陛下! 私は……!」
「連れて行け」
「くっ、触るな! 貴様ら、私を誰だと思っているのだ! この私に、このようなことをして……!」
連行しようとした騎士たちを、男が威嚇するように睨みつけて振り払おうとした時だった。
『グオオオオオォォォォォォ!!』




