表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半竜皇女~父は竜人族の皇帝でした!?~  作者: 侑子
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/95

パーティの始まり

 広いパーティホールが十年ぶりにきらびやかに飾り付けられ、大勢の貴族たちを出迎えた。

 

 急遽執り行われることになったパーティだが、送られてきた招待状を無駄にする者は、ただ一人もいなかった。

 

 何といっても、十年ぶりに皇帝がその姿を見せ、重大な発表をすると言うのだ。他の予定を優先させようと思う者など、いるはずもなかったのである。

 

「……本当に、陛下はお姿を見せてくださるのかしら?」

「以前公の場に出られたのは、もう十年も前ですものね」

「でも、重大な発表があるとのことですし、今日は期待してもいいのではなくて?」

 

 徐々に集まり始めた竜人族の上位貴族たちの、そんな囁きがホールのあちこちから聞こえてくる。

 

「だが、ずっと体調が良くなかったとのことだから、元気なご様子かどうか心配だな」

「きっと大丈夫さ。元気になられたから、こうしてお姿を見せてくださることになったのだろう。喜ばしいことじゃないか」

 

 誰も彼も、やっと皇帝の無事をその目で確認できる時が来たのだと色めき立っていた。

 

 その中で、特に期待に心を弾ませている父娘がいた。

 二人とも見た目だけは華やかだが、その内心は欲にまみれて真っ黒だ。まるで自分たちも皇族であるかのようなその横柄な振る舞いは、今も昔も変わらなかった。

 

 ドン! と、誰かの肩と肩がぶつかる。

 

「うわっ!?」 

「オイ、邪魔だ。ボーッと突っ立っているんじゃない!」

「あっ、も、申し訳ございません。閣下……」

「フン、気をつけろ」

 

 彼は、自分が通るのだから他の者が道を開けて当然だとばかり歩いているので、このようなやりとりは今日だけで三度目だった。

 

 どいつもこいつも、自分に対する敬意が足りないと、男は鼻息を荒くした。だが、そんな彼の口元がふいに緩んだ。

 

「……フッ。陛下の発表がどのようなものであろうとも、私たち家族にとって喜ばしいことであるのは間違いない。今日のパーティが終われば、ここにいる者全員が私に頭を下げることになるだろうな」

 

 ニヤリと口端を上げながらそう言ったのは、ディオルグの叔父にあたる壮年の男、バルディオスだ。

 

 その昔、兄よりも遅く生まれたために皇帝の座を逃したと、怨念を抱きながら有力貴族家へ婿に出た。しかし、能力に見合わない野心を捨てることはついぞできず、彼の濁った眼差しからは、皇族への未練がありありと見て取れた。


 今日の重大な発表とは、体調がなかなか回復しない皇帝が、常々自分が推していたように、我が息子を後継者に指名することだろうか。それとも……。

 

「まぁ、お父様ったら。それはどういう意味かしら? 今日の発表が、陛下とわたくしの婚約発表でないはずがないでしょう?」

 

 彼の娘、ルイーダが不満気に口を尖らせる。

 その身分と愛らしい容姿で、欲しいものは全て与えられてきた彼女もまた、自分本位な考えの持ち主だった。

 想いを寄せる従兄妹であるディオルグも、皇后の座も、最後には自分のものになると信じて疑っていなかった。

 

 十年前、皇太后の協力によって決まった結婚が白紙になったのも、彼が長く寝込むほど厄介な病気にかかったからだろうとしか考えていなかった。竜人族は寿命が長く、つまりは若さを保てる期間も長いため、十年くらいなら待っているのも苦ではなかった。

 彼の側近たちに見舞いを断られ続けたことは業腹だが、強くて逞しい皇帝であるディオルグが病気に負けるなんて考えられない。ルイーダは、彼が回復して自分を呼んでくれる日を、ゆったりと待ち続けた。

 

 自分に味方してくれていた皇太后が亡くなったことは残念だが、自分以上に皇后にふさわしい者はいない。

 

 愛しい想い人が優しい声で自分の名を呼び、結婚を請う姿を想像するだけで、ルイーダは恍惚とした気分になれた。それがついに現実のものになると思うと、とても気分が良かった。ようやく、この日が来たのだ。

 

「楽しみですね、お父様」

「ああ、そうだな。ルイーダ」

 

 父娘はこの先に待つ事態を知る由もなく、楽しげに笑みを浮かべていたのだった。

 


 ◇


 招待状を持った貴族たちがやっとホールへ入りきる頃には、会場内の空気はすっかり期待に満ちていた。

 

 皇帝はいつ現れるのかと、階段上の入り口に自然と大勢の視線が集まっている。

 

 そんな中、ついに待ち望んだ声が、高らかに上がった。

 

「ディオルグ・ヴァン・バルドゥーラ皇帝陛下のご来臨です!」

 

 皇帝の来場を告げる声に、ざわめいていたホールの音一切が止んだ。

 

 長い赤髪に、切れ長の金眼。

 十年間、体調不良だったことを微塵も感じさせない逞しい体躯に、少し視界に入っただけで思わず目が離せなくなる、圧倒的な存在感を生まれながらその身に宿すカリスマ性。

 

 大勢の記憶に残る面影そのままの皇帝が、ようやくその姿を現したのだ。

 

 彼が会場内を見回して薄く笑みを浮かべると、ようやく息をすることを許されたというように、何人もの貴族がハァと深く息を吐いた。

 皇帝の健在と拝謁の喜びに浸る大勢の貴族たちが一人、また一人と、胸に手を当て皇帝に礼とっていった。

 

「皆、急な招待であったにも関わらず、集まってくれたことを感謝する」

 

 ディオルグがよく通る声でそう話すと、皆ゆっくりと頭をあげて彼を見た。健康そうな皇帝の姿に安堵しながら、多くの貴族たちが耳を傾ける。

 

 そんな衆目の様子を確認すると、彼は穏やかな声で話を続けた。


 定例通りである時節の挨拶を簡単に終えると、ディオルグは早々に本題へ移った。

 

「招待状に記した通り、今日は重大な発表がある」

 

 そう言ってディオルグが目を細め、今しがた自分が入ってきた入り口に視線を向けた。

 

 すると、そこからふわりとしたベールを頭につけた亜麻色の髪の美しい女性と、まだ幼く可愛らしい少女が現れた。少女は、皇帝と同じ色合いの髪と目をしている。

 

 ザワッ、と一斉に会場内がどよめきに満ちた。

 

 二階の入り口から入場できるのは、皇族だけと決まっている。それを鑑みれば、皇帝の二人を見る慈しむような眼差しを見ずとも、彼女たちがどのような存在であるかは誰もが理解できた。

 

「紹介しよう。私のつがいである愛しい伴侶サーシャと、私たちの大切な娘、キアラだ」

「な……!」

「つ、つがい……!?」

「陛下の娘ということは、つまりあの方は皇女殿下ということでは……!?」

 

 ディオルグの宣言により、一層ざわめきが大きくなる。多くの視線が、皇帝の伴侶と娘に注がれた。そのうちのほとんどは、事実であれば皇女となるキアラへと向けられている。

 

 なるほど、色合いや幼いながらに堂々と大衆を見据える胆力は、皇帝に似ていると言えなくもない。しかし竜人族の特徴をまるで持たない彼女へ、いくつか疑心の籠もった視線が向けられたのも事実だった。

 

 しかし、そんな輩も、次の瞬間には息を呑んだ。

 

 そんな不躾な視線に対して、にこりと微笑んだ彼女の笑顔があまりにも可愛らしく魅力的であり、またそれは皇帝が先ほど見せた微笑みを彷彿とさせるものだったからだ。

 

「皇女殿下……」

 

 誰かの発した小さな呟きは、多くの貴族たちの胸の中に、納得という形でストンと落ちた。

 

 驚きと感嘆にシンと静まり返る貴族たちを満足げに見回した後、ディオルグは続けて話し始めた。


「突然のことで皆が混乱するのも無理はない。私が伏せっていたこの十年に何があったか、簡単にではあるがオルディンから説明がある。オルディン」

「かしこまりました」

 

 いつの間にか階段下に待機していたオルディンが、書類を片手に朗々と説明を始めた。

 

 十年前に皇帝はつがいを得ていたが、皇太后ととある一派の陰謀によって離れ離れとなり、そのせいでこれまで姿を見せられなかったこと。

 

 その罪により皇太后は皇族の鬼籍から抹消し、皇族の墓所からは永久的に追放とすることを告げた。

 

「皇帝陛下のつがいに手を出すということは、即ち皇帝陛下を害することに他なりません。詳細は現在も調査中ですが、この件に関与した者は徹底的に調べ上げ、必ず相応の罰を受けて頂くことになるでしょう」

 

 オルディンの宣言に、どこかから、ヒュッと息を呑む音が聞こえた。

 

 

 

 


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ