よろしくね
昼食の時間になり、わたしはクロやセラとともに食堂へ向かった。メリアンとリリアンが案内してくれているけれど、後ろからも男の人たちが何人かついてきている。実は、朝に部屋を出た時からずっとだ。
……あの格好、ルーシャスさんと同じだし、きっと騎士なのよね?
もしかして、わたしを守るためについてきているのだろうか。
わたしは皇帝の娘だから、彼らが守らなければいけない存在だということはわかるが、ここは城の中なのに、なんだか大げさな気がした。
「こちらです」
リリアンが扉を開けてくれた部屋の中には、横に長い大きなテーブルがドンと置かれていて、たくさんの美味しそうなごちそうがすでに並べられていた。
そして、その奥の方には、父と母が座っている。
「キアラ!」
「お母さん!」
わたしを見つけた母が、涙を浮かべながら手を広げて向かってきたので、わたしはその胸に飛び込んだ。
抱きしめる母の体がいつもより温かい気がして、わたしはちょっとだけ不思議に思った。
いつも少し体温が低くて体が弱い母だったが、ここへ来て元気が出てきたのかもしれない。
……もしかして、お母さんもお湯がたっぷりのお風呂に入ったからかな?
「キアラ、なんて可愛いの! どこから見ても立派なお嬢様……いえ、お姫様だわ!」
「えへへっ。お母さんこそ、とっても綺麗よ! まるで女神様みたい!」
「まぁ。ふふふ」
スラリとした母の体に沿ったドレスはキラキラでサラサラしていて、神秘的な感じがした。髪を綺麗に整えている姿も初めて見たので、まるで別人のようにも見えるけれど、わたしに向けられる愛情たっぷりの目は全く変わらない。だから、わたしは安心して母の胸に飛び込めたのだ。
「キアラ……! 本当になんて可愛いんだ。ほら、お父さんのところにもおいで!」
そう言って父が立ち上がり、笑顔で腕を広げるが、わたしは少し躊躇ってしまった。その場で動かずに、母の服をギュッと握る。
「えっと……」
「キ、キアラ……!?」
わたしがすぐに行かなかったことで、父がショックを受けてしまったようだ。でも、まだ会ったばかりなので、父に対してどんなふうに接したらいいのか、よくわからないのだ。
わたしは困ってしまって、思わず母を見上げる。
「……キアラ。遅くなったけど、ちゃんと紹介するわね」
母がわたしの背を優しく押して、父の方へ促した。
「ディオはね、わたしが昔も今も大好きな、あなたのお父さんよ。わたしばっかりが好きなんだと勘違いして彼から離れてしまったけれど、本当はディオもずっとわたしを想っていてくれて、昨日初めて会ったあなたのことも大好きになったみたいなの。だから、二人が仲良くしてくれると嬉しいわ」
「……そうなの?」
父を見ると、彼は必死な様子で頷いた。
「あぁ。ひと目見て、君は私の娘だと確信したし、すぐに君のことが大好きになったよ。私が不甲斐ないせいで今まで君に会えなかったことが、本当に悔しい。これまで苦労をかけてしまった分、サーシャはもちろん、君のことだって大切にしたいと思っているんだが、キアラは……私のことが嫌いか……?」
「ううん、そんなことないわ」
父が恐る恐るといったように訊いてくるので、わたしはすぐに否定した。そして、内心とても驚いていた。
わたしはひと目見て自分がこの人の娘なのだとわかったけれど、父も同じだったらしい。それが、なんだか嬉しかった。
「よかったわ。じゃあ、キアラ。お父さんにも、お母さんと同じようにしてあげたらどう?」
母が明るい声でそう言うと、父は期待したような顔でわたしを見た。
父は世界で一番偉い皇帝のはずなのに、じっとわたしの判断を待ってくれている様子から、父が優しい人なのだと思えた。
そういえば、彼は昨日も、ここに住んでくれるかと、わたしにちゃんと訊いてくれた。それに、彼は母が好きになった人であり、わたしの父なのだ。もう少し、甘えてみてもいいのかもしれない。
わたしがそっと近づくと、父はかがんで腕を広げてくれたので、母よりずっと大きいその胸にそっと体を預けてみた。
「キアラ、愛しい我が娘よ。これからよろしくな」
「うん。よろしくね、お父さん」
初めて抱きしめられた父の体は、母のものよりずっと大きくてがっしりしていて、なんだかとても安心した。
ルーシャスさんに初めて頭を撫でられた時みたいに、胸がムズムズするし、ポカポカする。
でもそれは、あの時よりもずっと、心がしびれるような、温かい気持ちだった。
……お父さん。この大きくて格好よくて、優しい男の人が、わたしのお父さんなのね。
ほとんど無意識に父の服をギュッと掴むと、父はわたしを抱きしめる力を少しだけ強くして、そっと髪を撫でてくれた。わたしは、それがとても嬉しかった。




