新しいわたし
翌朝。
とっても良く寝たわたしは、すっきりと目を覚ました。
きゅるるるる……。
「おなかすいた……」
でも、空腹なのはどうしようもなかった。
ごはんをもらえないかなと起き上がろうとした時、ちょうどドアがノックされた。
「皇女殿下、お目覚めですか?」
「リリアン? うん、起きてるわ!」
メリアンより少し高いその声は、たぶんリリアンだ。そう思って声をかけると、ドアから入ってきたのは、やはり薄紫色の髪をしたリリアンだった。
「すごいわ。もしかして、わたしが今起きたのがわかったの?」
「竜人族は、耳が良いですから。皇女殿下こそ、すぐにわたくしとメリアンの声を聞き分けるなんてさすがですわ!」
なんとなくわかっただけだったのだが、褒められてしまった。
「わぁ、美味しそう!」
メリアンが持ってきたトレイの上には、湯気のたったスープやオムレツ、分厚いベーコンやチーズを挟んだ大きなパンなどがたくさん載っている。
「昨晩は何も召し上がられていませんし、お腹がすいていますよね? 今メリアンが入浴の準備をしていますから、その前に少しでも召し上がってください」
「いいの!? うわぁ、すごーい! ありがとう!」
「え? いえ、それほどすごいものでは……」
リリアンが持ってきてくれた食事は、今まで食べたことがないくらい美味しかった。
でも、美味しい、ありがとうと言って食べるわたしを、リリアンがなぜか落ち込んだような表情で見ていたような気がした。
◇
水場は、さっきまでいた部屋から扉一枚奥のところにあった。もしかして、お城には部屋一つひとつに水場があるのだろうか。
「わぁ、なにこれ。お湯がいっぱい!」
そこには大人の人が寝転べそうなくらい大きな白い容れ物があり、その中にはお湯がたっぷりと入っている。メリアンが用意してくれたらしいが、こんなにお湯を用意するのは大変だったと思う。
「えっ? それは、もちろんお風呂ですから……」
「メ、メリアン……!」
リリアンが、メリアンの肩を軽く押さえた。
焦ったように首を横に振るリリアンを見て、メリアンはハッと口元を押さえた。
「す、すみません。そうですよね。皇女殿下は今まで皇女にふさわしい環境でお育ちになれなかったのですもの。……このような入浴は、もしかして初めてでいらっしゃいますか?」
「うん。お湯で体を洗うことなんてなかったから、びっくりしちゃった!」
「……!」
わたしの言葉に、なぜか二人が涙ぐんだ。
「皇女殿下! これからは毎日、こうしてお風呂に入れますからね!」
「そうです! 美味しい食事をして、綺麗な服も着られますからね!」
「う、うん?」
なぜかやる気が一段と上がった二人によって、わたしはお風呂に入れられることになった。
服を脱がされ、湯船に浸かるよう言われる。そっとお湯の中に足を下ろせば、じんわりとしびれるような感じがして気持ちよかった。肩まで浸かると、それが全身に広がっていく。
「ふわぁ~~~、すっごく気持ちいい~」
「ふふっ。良かったです」
「……わぁ。これ、なぁに? いい匂い!」
メリアンがトロトロした液体を湯船に流し込んだと思うと、お湯が泡だらけになってきた。すごくいい匂いで、モコモコして楽しそうで、わたしは手ですくって息を吹きかけ、フッと飛ばしてみた。
「泡風呂用の石けんですわ」
「お気に召しましたか?」
「うん。すごく素敵!」
泡で遊んでいるうちに、リリアンがわたしの髪にも何かを塗って、梳かし始めた。わたしは気にせずに泡で遊びながら、初めて浸かる温かいお湯を楽しんだのだった。
◇
ぽかぽかになってお湯からあがると、わたしはリリアンに髪を乾かしてもらいながら、メリアンがたくさんの洋服を並べていくのをポカンとしながら見ていた。
「メリアン。わたしがここへ来たのは昨日のことなのに、どうしてそんなにたくさんの服があるの?」
「それはもちろん、昨日のうちに用意したからですわ!」
メリアンが堂々と言い放った。
でも、一日で用意したにしてはとてもたくさんある。もしかして、服屋さんの子供服を買い占めたのではないだろうか。
「そんなにいらないんじゃないかな?」
「そんな。とんでもないことです! 皇女殿下には、もっともっとお洋服やドレスが必要ですわ。これからはオーダーメイドで作っていきますが、しばらくはこちらの既製品で我慢してくださいませ!」
メリアンに、洋服の必要性を力説されてしまった。
皇女は、ほとんど毎日違う服を着なければならないらしい。もったいないけれど、そういうもののようだ。
「本日はどの服をお召しになりますか?」
「う、うーん……」
正直、全てヒラヒラしていて動きにくそうだ。
でもそんなことを言えば、きっとまた皇女はこういうものだと言われてしまう気がする。
「わたし、よくわからないわ。二人が決めて?」
「かしこまりました! どれにしましょう、リリアン!」
「そうですね。そのピンクのものか、水色のものがいいのではないかしら!」
そうして二人は、きゃあきゃあと楽しそうにわたしの服を選んでくれた。
「わぁ……」
二人が選んでくれた水色の服を見下ろす。
スカートだけどシンプルで、後ろにリボンがあるだけなので思っていたよりも動きにくくはなさそうだ。
代わりに胸元には縦にフリルがたくさんついていた。こんなに肌触りが良くてヒラヒラした服を着たのは初めてだ。
髪も、いつも適当に上部分をふたつに縛っていただけだったのに、リリアンによって綺麗な編み込みが追加されている。しかも、リリアンが塗ってくれた何かのおかげか、髪がツルツルサラサラのふわふわで、なんだか別人になった気分だった。
「こ、皇女殿下。本当にお可愛いらしいです……!」
「はい……。元々可愛らしくはありましたが、こうして磨くとその輝きはより一層素晴らしいものになりますね……!」
二人にものすごく褒められて、なんだか自分でも、今の姿が気に入ってきた。
「お母さんとお父さんに会いにいきたいな。この姿を見せたいの!」
わたしがそう言うと、二人はなぜか少し困ったような顔をして顔を見合わせた。
「皇女殿下。実は、陛下たちは今、少し忙しくしていらっしゃいます。ですが、昼食は一緒に摂りたいと伺っておりますので、お二方へのお披露目はその時に致しませんか?」
「あっ。まずは、仲良しのプーニャに会いに行くのはいかがでしょう?」
……そうなのね。
少しガッカリしたけれど、確かに父は皇帝なのに目覚めたばかりなので、仕事がたくさんあるのだろう。母も皇后になるということだし、何かとやることが多いのかもしれない。
お昼ごはんの時には会えるみたいだし、忙しいのに二人を困らせたくはないので、わたしは大人しくメリアンたちの言うことを聞くことにした。
「わかったわ。じゃあ、クロに会いにいこうかな!」
そう言うと、二人とも笑顔で頷いてくれた。




