罰を受けるのは
「りゅ、竜人族……?」
一体、何を言っているのだろう。
わたしは竜人族ではなくて、獣人族だ。しかも、母が人間族なので、半分だけだけれど。
でも、確か以前、奴隷商の男にもそんなことを言われた気がする。わたし、そんなに竜人族みたいな特徴があるのかな。
「それに、この赤い髪と金色の目は……いや、まさかね」
独り言のように何かを呟くと、男の人は軽く頭を振って、再びわたしをじっと見つめた。
「見た目は普通の人間族にしか見えないね、不思議だな。でも、その目と体の内に秘める強力なパワーは、僕の同族に違いないよ。君、どうしてこんなところにいるんだ? 両親は? ……ああ、そこにいるご婦人がお母さんだと言っていたね。じゃあ、お父さんはどこにいるのかな?」
矢継ぎ早に質問されて、頭の中がいっぱいいっぱいになってしまう。質問したいのは、わたしの方だ。わたしが竜人族とは、どういうことだろう。自分と同族だということは、この人も竜人族なの?
「えっと、えっと……」
「んー……母親の方に聞いた方が早そうかな?」
男の人が、母に目線を向ける。母を痛めつけて話をさせようとしているのだろうかと思って、わたしは暴れた。
「ダメっ! お母さんに何するの!?」
「おっと。落ち着いて、何もしないから。話を聞くだけだよ」
最初よりも柔らかい口調と態度でそう言われ、わたしは暴れるのを止めた。
……もしかして、この人、いい人なの? お母さんを、助けてくれるのかしら?
「な、な、何をやっている! そのガキは、領主であるボクを攻撃したんだぞ! 見ろ、この腫れ上がった痛々しい顔をッ! それなのに、貴様は何を悠長に話しているのだ!!」
わたしに優しく話しかける軍人に焦りを覚えたのか、領主が怒鳴り始めた。すると、軍人の男の人は冷たい眼差しで領主を睨んだ。
「……学習しない人だね。まだ自分の立場を理解できていないなら教えてあげるよ。僕はバルドゥーラ帝国の皇帝に仕える竜人族の軍人、つまり帝国の貴族だ。人間族の地方領主とどちらが上の立場なのか、少し考えればわかるものだと思うけど?」
「ぐ、ぐぬうぅっ……」
……この人は、竜人族で、帝国の貴族なのね。
初めて会った竜人族は、わたしよりずっと力が強くて、領主よりもずっと偉い立場の、すごい人のようだ。そして、ちょっと怖そうな人でもある。
……でも、この辺りでは誰に対してもずっと偉そうにしてた領主に対して、あんなふうに振る舞えるなんて、すごく格好いいわ!
「お兄さん、格好いい!」
「え? あはは。ありがとう」
わたしが目を輝かせてそう言えば、男の人ははにかみながらわたしを抱き上げて、頭を撫でてくれた。初めての大きな手の感触に、なんだか胸がムズムズした。
……お父さんとかお兄ちゃんに撫でられるのって、こんな感じなのかしら?
「で、これってどういう状況なのかな? 僕は領主の要請を受けて来たわけだけど、君が領主を襲撃したことは、間違いない?」
軍人のお兄さんが話を聞いてくれそうだったので、わたしは領主への怒りをにじませつつも一生懸命説明した。
「わたしは領主に無理矢理連れて行かれたお母さんを助けに来ただけよ! 悪いのは領主なんだから!!」
「ふむ……」
お兄さんが、領主へ確認するように視線を向ける。
「そ、それの何が悪いのだ! ボクは領主だぞ!? つまり、領民であるサーシャたんはボクのものってことだろうが!! ……そんなことより、そのガキは領主を攻撃したんですよ! 帝国が認めた領主を攻撃するのは、反逆罪にあたるはず。早くそのガキを処罰してください!!」
睨まれてお兄さんには敬語で話し始めた領主だが、その態度はやっぱり偉そうだった。あまり、自分より偉い人と話したことがないのかもしれない。
「確かに、領民が領主を攻撃するのは反逆罪にあたるというのは、間違いじゃない」
そう言いながら、お兄さんがわたしを見る。それは、わたしの行動は確かに罪であると、わたしに教えているかのようだった。
わたしは思わず口をとがらせる。
「だが、この子の父親が竜人族であるとなれば、話が変わってくる。この子が実は帝国の貴族令嬢だというなら、田舎領主から母を守ろうと力を振るったことは、誰にも責められない。むしろ、先に無礼を働いた領主の方が罰を受けるだろうね」
「な……!?」
わたしは、お兄さんの言っていることがよくわからなくて首を傾げた。
……それってつまり、わたしは罰を受けなくても済むかもしれないってこと?
「そ、そんなはずはない! そのガキは、竜人族の特徴である複数の角も、鋭い爪や牙も、何も持っていないではないですか! それなのにそいつが竜人族だなんて、何かの間違いに決まってる。……そ、そうだ。あなたは、そいつに騙されているんですよ! そうに違いない!!」
領主は必死に、その小娘が悪いのだ、と喚いている。自分が罰を受けることになるかもしれないと聞いて、とても焦っているようだ。
「嘆かわしい……。辺境の田舎とはいえ、何という能無しが領主として置かれているんだ、この地域は。もう一度言うが、この子が怒った時に見せた瞳孔が縦に割れる目も、類稀なるパワーも、竜人族そのものだ。珍しいことだが、母親が人間族のようだから、外見はそっちに似たのだろう。僕の判断を根拠なく否定するなんて、本当に無礼な男だな。……今すぐ手討ちにしてやろうか?」
「ヒュエッ……」
お兄さんが凄むと、領主はおかしな声を出し、真っ青な顔で泡を吹き始めた。やがてぐるんと白目を向くと、気を失ったらしく、バタリと地面に倒れてしまった。
「お兄さん、本当にすごいっ! 睨むだけで領主をやっつけちゃうなんて。あいつ、殴ってもなかなか倒れなかったのに!」
「ふふ。まだ小さいから無理かもしれないけど、訓練すれば、君もいつか同じことができるようになるよ」
「本当!?」
わたしもいつか、お兄さんのように強くなれるのだろうか。それって、なんだかすごくワクワクする。
《キアラ。その人は大丈夫そうだし、お母さんを早くセラに診せてやろう》
「あっ、そうだわ。お母さん!」
クロの声で我に返り、わたしはお兄さんの腕から下りて、母のもとへ駆けつける。
「お母さん、お母さん……」
ぐったりとした母は、呼びかけても目を覚ます気配がない。痛々しくアザになっている頬を見ると、涙が出そうになる。
「これはひどいね。焦がれる女性に手を上げるなんて、人間族は馬鹿なことをするものだ。彼女には話を聞きたいし、ひとまず医者のところへ連れて行って治療を受けさせよう」
そう言ってお兄さんが母を抱き上げたので、わたしは慌ててお兄さんの服を掴んだ。
「待って! あのね、うちの家には聖女がいるの。セラに治してもらうから、うちへ連れていって!」




