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半竜皇女~父は竜人族の皇帝でした!?~  作者: 侑子
第一章

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幕間 黒幕

「なんだと!? もう一度言ってみろ!!」

 

 とある田舎の、周囲の風景にそぐわぬ豪邸の中。

 その一室で、ある小柄な男が激高し、目を釣り上げて声を荒らげた。

 

 聞き捨てならない知らせを持ってきた部下の男は、真っ青な顔で主人を見る。

 

「で、ですから……ゴレロからの連絡が途絶えました。加えて、拠点近くにあるムーシャ町では、奴隷として囚えられていたと主張する者たちが現れ、彼らの証言から奴隷商人たちが検挙されたと大騒ぎになっていると……」

 

 ガシャーン!

 

 激高した男が投げつけたティーカップが、部下の男のすぐ横を通り過ぎて壁に当たり、激しい音をたてて粉々に砕けた。

 

 男ははぁはぁと息を乱し、ドサリとソファの背もたれへ身を預けると、天を仰いだ。

 

「……つまり、あれだけ時間をかけて集めてきた奴隷たちは全員逃げ出し、ゴレロたちは逮捕されたと、そういうことなのか?」

「お、恐らくその可能性が高いのではないかと……」

「くそっ!!」

 

 目に入るもの全てが急に目障りに思えてきた彼は、ローテーブルの上に置かれていたティーセットや花瓶などを、思い切り横に薙ぎ払った。

 

 ガシャン、パリーンと様々なものが割れる音に、部下の男は顔を青ざめさせる。

 

「なぜだ! 一体どうやったというのだ! 奴隷たちには、全員首輪をつけておいたはずだろう!?」

「お、恐らくですが、何者かによる手助けがあったのではないかと」

「……手助けだと?」

 

 彼も不思議に思ったのだ。

 奴隷たちにつけていたあの首輪は、魔道具である。主人には決して逆らえないよう、自力で外すことなどできないようになっているはずなのに、なぜ彼らは全員首輪を外し、ゴレロたちを昏倒させて脱出するなどということができたのかと。

 

 そうして考えてみた結果、外部の干渉が原因ではないかと思い至った。というよりも、それ以外に考えられなかったのである。

 

「あの首輪をつけている者は、決して主人に逆らえません。自力で外すことも不可能です。安全に外すためには、首輪の魔道具に込められた魔法構造を完全に理解する者による術式操作が必要です。相当優秀な魔法使いが、彼らに手を貸したのではないかと……」

「バカげたことを言うな! そんな優秀な魔法使いがそうそういるわけないだろ! そんな奴がこんな辺境にひっそりと現れ、奴隷たちを解放し、誰にも知られず姿を消したというのか!?」

「で、ですが……」

 

 部下の男はギリッと奥歯を噛んだ。

 それがいかに滑稽な仮説であるかなど、自分でもよくわかっている。だが、他に考えられないからこうして説明しているというのに、彼の上司といったら、怒りのままに怒鳴り散らすだけ。いつものこととはいえ、腹立たしい気持ちを抑えるのは難しかった。

 

「ええい全く、これでは大損ではないか! 過去は王族の血さえ持つ貴族だったというボクのご先祖様が、今のボクの不遇を知れば何と言うか……! あぁ~、忌々しい! 竜人族なんて、所詮動物混じりという点では獣人族と変わらんくせに、少しばかり身体能力が高いからと調子に乗りおって。奴らの帝国なんかに、我らが代々受け継ぐ土地を支配され、帝国法に従えと奴隷制度を禁止されること自体、あってはならぬのだ。これまでなんとか奴らの目をかいくぐって、ひっそりとではあるが続けてこられていたというのに……!」

「り、領主様! お言葉を控えられた方が……」

 

 これほど堂々と皇族を批判するなど、なんと命知らずなのだろうか。

 

 長年この領主に仕えてきたが、いい加減に再就職先を探した方が賢明かもしれないと部下の男が思い始めた時、領主はようやく落ち着きを取り戻してきたらしく、ふぅと大きく息を吐いた。

 

「チッ、まぁいい。奴隷たちが逃げてゴレロたちを失ったのは確かに痛手だが、ボクが関わっているということまではバレてないはずだ。また一から始めればいいさ。これまで稼いだ金は無事だしな!」

 

 そう言って立ち上がった男、領主は、楽しいことを思いついたというように、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

 

「それに、ボクには愛しのサーシャたんがいる。今までは大人しく彼女の心変わりを待つばかりだったが、こうなってはもうやめだ。彼女には、これからたっぷりボクを慰めてもらわなくては。ボクはそうされるべき人物であり、それだけの権力があるんだからな! 無理矢理はボクの趣味じゃないが、まぁ仕方ない。あれだけ強情ならば、体から落とすのも、ひとつの手だろう。そのうちボクの魅力にひれ伏して、自らねだるようになるに違いない。ブフフフフ」

「……」

 

 気持ちの悪い笑い声をあげる領主を見つめながら、部下の男は、明日から本気で転職先を探そうと、密かに心を決めたのだった。


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