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半竜皇女~父は竜人族の皇帝でした!?~  作者: 侑子
第一章

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幕間 セラ(後編)

 神殿の人たちは優しかった。

 売られるように神殿へ来たわたしのことをみんな気遣ってくれたし、務めをきちんと果たしていれば、ごはんだってたくさん食べさせてくれた。誰かの怪我を治して、お礼を言われると嬉しくもなった。わたしはここにいていいのだと、だんだん思えるようになった。

 

 わたしと同じように、神殿へ売られるようにしてやってきた聖女仲間もいた。

 

「わたしと同じね。一緒に頑張りましょう。仲良くしてね!」

 

 明るい笑顔で話しかけられて、わたしはきっと、少し調子に乗ってしまったのだ。だから、油断してしまったのだと思う。

 

 それは、わたしが聖女になってから三ヶ月ほど経った時だ。秋も終わり、そろそろ雪が降り始めようとする季節だった。

 

「きっ、きゃああああ! 獣人族……!?」

「どうして獣人族が!?」

「なんてこと! セラ、あなた、わたしたちを騙していたのね!」

 

「ち、ちが……っ」

 

 いつも気をつけていたけれど、ずっとフードを脱がないわたしをからかおうとした聖女仲間にフードを外されてしまい、大きな耳があらわになった。するといきなり、今まで仲良くしてくれていた聖女たちも、神殿の神官たちもみんな、わたしに嫌悪の目を向けた。

 

「汚らしい獣人族が、聖女様になりすますなど言語道断だ!!」

 

 わたしは、着の身着のまま神殿を追い出された。

 まさか、これほど獣人族が嫌われているなんて思わなかった。治癒魔法が使えても、獣人族ならば、聖女とは呼ばないようだった。

 

 ……わたしは、集落のみんなみたいに優れた身体能力も、体力もない。鋭い感覚を持つわけでもない。それなのに、一体どうして獣人族に生まれてきたのかしら。

 

「……寒い……」

 

 ずっとつけていた秋用の上着では、もう寒さをしのげなくなってきていた。気に入っているからとごまかして、ずっと着ていたけれど、どのみち、そろそろ隠し通すのは限界だったのかもしれない。

 

 わたしはトボトボと、神殿に背を向けて歩き出した。

 

 だけど、わたしはやっぱり、一人では何もできない出来そこないで、役立たずだった。

 魔獣が怖くて狩りなんてできないし、神殿にいなければ怪我をしている人なんて見つけられないので、治癒魔法を使った仕事もできない。

 

 集落に戻ろうかとも考えたが、やめた。お金を受け取ってわたしを引き渡した両親だ。戻ったところで、歓迎してくれるはずがない。

 

 わたしは途方に暮れた。

 

「おなかすいたな……」

 

 わたしは道端にしゃがみ込んだ。もう、歩く気力さえなかったのだ。

 

「ヨォ嬢ちゃん、一人かい?」

「え……?」

 

 知らない男の人に話しかけられた。

 とても体が大きくて、髪がまったくなくて、つるっとした頭をしていた。その人の後ろには、他にも三人の男の人がいた。

 

「行くとこねぇんなら、俺が拾ってやろうか」

 

 行くあてなんてひとつもないわたしにはとても魅力的なお話のはずだが、後ろの人たちがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているからだろうか、とても嫌な予感がした。

 

「あっ!」

「待てコラ!」

 

 わたしは逃げた。

 一生懸命走ったが、足の速くないわたしはすぐに捕まった。

 

「は、放して、ください……!」

「そんなに嫌がるなよ。俺たちは行くあてもねぇ、汚い獣人族のお前をわざわざ助けてやろうってんだからよぉ?」

 

 ガハハハ、と頭に響く男たちの笑い声は、わたしに恐怖しかもたらさなかった。すがる思いで道行く人たちに目を向けるが、みんな見て見ぬふりをした。

 

 ……わたしが人間族だったら、少しは違ったのかな?

 

 逃げられないように拘束されながら連れて行かれた先で、変な首輪をはめられた。わたしは奴隷になったのだと言われた。

 どうやらこの人たちは、身寄りのない人を攫っては、奴隷にして売り捌くということをしているらしい。

 

 獣人族のわたしは、同じ奴隷の人たちからも嫌われた。

 毎日少しだけ与えられるパンを奪われることも珍しくなかった。

 

「生きてたってしょうがない獣人族なんかが食べるより、俺が食べた方がいいに決まってるだろ!」


 わたしのパンを奪いながら、そう言われたこともある。

 

 ……わたし、生きてたってしょうがないのかな?

 

  確かに、これまで生きてきて、良かったなと思えることなんてあまりなかった。神殿にいた時は優しくされたこともあったけれど、隠し事をしているせいでいつもどこか緊張していた。そして獣人族だと知られると、やっぱり全部なくなってしまった。

 

 獣人族のわたしに優しくしてくれる人なんて、きっとこれから先も現れないに決まっている。だって、家族でさえそうじゃなかったんだから。

 

 治癒魔法が使えると知られてからは、便利な道具みたいに扱われるようになった。しばらくは売らずに手元で使うのも悪くない、と笑いながら言われたのだ。

 こんな人たちのために力を使うのはすごく嫌だったけれど、わたしには、他に選択肢がなかった。自ら死ぬ勇気さえなかったのだ。

 

 ……このままずっと、この人たちのいいように使われながら、友達もできずに暮らしていくのかな。

 

 そうしてわたしがほとんど諦めかけていた時、ふわふわした真っ赤な髪の、わたしと同じくらいの年の女の子がアジトへやってきた。

 というより、出口を探していたみたいだから、わたしみたいに無理矢理連れて来られたのかもしれない。でも、なぜか奴隷の首輪はしていなかった。

 

 彼女は、牢の中にいるわたしたちを助けたいと言い出した。誰かと会話するみたいに話しているが、そばにはプーニャ一匹しかいない。まさか、あの黒いプーニャと会話しているわけではないだろう。

 

 後からやってきた男たちによると、女の子は彼らの仲間を倒してここへやってきたらしい。

すごい。わたしと同じくらいの体格なのに、どうやってそんなことができたのだろう。

 

 ただ呆然と彼らが口論しているのを聞いていると、急にわたしのいる牢へ誰かが入ってきた。そして、グイッと強く腕を取られる。

 

「おい、仕事だ。来い!」

「きゃあっ! や、やめてください……!」

 

 あの子が倒した男を治療させようということらしく、仕事だと言われた。でも、あまりに強く引っ張られたので、わたしは思わず抵抗してしまった。

 

「大人しく言うことを聞け!」

「きゃあっ!!」

 

 すると、怒った男の人に頬を殴られた。

 わたしはドタッと地面に倒れた。

 

「ちょっと、なんてことするのよ!?」

「あぁん? コイツが大人しく言うことをきかねぇからこうなるんだよ。悪いのはコイツだろ?」

 

 ……そうよ、抵抗なんかしちゃいけなかったのに。全部、わたしが悪いんだわ。

 

「それに、コイツは獣人族だ。俺ら人間族に何されたって文句は言えない、下等な存在なんだよ」

 

 いつも言われている言葉だから、もう特に何とも思わなかった。でも、赤髪の女の子はそうじゃなかったらしい。驚いたように目を見開いて、言葉もないというように、口をパクパクさせている。

 

 ……どうしてそんな顔をするのかしら? この人が言ったことは、当たり前のことなのに。

 

「やめなさいよ、このバカたれー!!」

 

 わたしを連れて行こうとした男が、女の子に殴られて吹っ飛んでいった。大きな体が、信じられないくらい遠くまで飛んで、最後は壁に激突した。

 

 今度はわたしが目を見開く番だった。一体何が起こったのか、まるで理解できない。

 

「獣人族かどうかなんて関係あるか! 弱い者いじめをするんじゃないっ!!」

 

 すごい力だ。見た目は普通の……ううん、すごく可愛い人間族の女の子なのに、わたしなんかより、よっぽど獣人族らしかった。もしかしたら、獣人族の大人たちよりもすごいかもしれない。

 

 ……でも、わたしが殴られたことで、どうして彼女が怒るんだろう。どうして心配そうにわたしを見て、「大丈夫?」って聞いてくるの? ……わたしが獣人だってわかってるはずなのに、どうして?

 

 その後、彼女はアジトにいる全ての奴隷商人たちをやっつけると、全ての人たちを牢から出し、首輪からも解放してくれた。信じられない気持ちのまま、事態だけが劇的に変化していった。

 

「あれ? あなたは行かないの?」

 

 他の奴隷だった人たちは解放されて喜んでいたが、わたしはきっとどこへ行っても、同じような扱いをされるのだ。他の人たちのように、希望は持てなかった。


 帰る場所がないと言うと、赤髪の女の子は少し迷うそぶりを見せたあと、にこりと笑ってこう言った。

 

「じゃあ、わたしの家に来ない? 貧乏だしお家もボロボロで狭いけど、わたしのお母さんはとっても優しいから、あなたにも優しくしてくれると思うわ」

 

 わたしはしばらく、言われたことの意味が理解出来なかった。思えば、彼女は初めから変わっていた。獣人族のわたしのために怒ったり、優しい言葉をかけてくれたりした。わたしを見て顔をしかめたことだって、一度もない。

 

 でも、でも……まさか、ほんとうに?

 

 彼女はわたしが獣人族でも気にしないと、友達になってほしいと言う。

 こんなに素敵なことが、わたしに起こっていいのだろうか。今日起こったことは、全部夢なんじゃないのかな。

 

 わたしは涙が止まらなくなった。泣いたのは、ずいぶん久しぶりだった。


 なんとか一緒に行きたいと返すと、彼女は嬉しそうに笑った。

 

「やった! これからよろしくね。わたし、キアラっていうの。あなたは?」

「わたしは、セラです。よろしくお願いします、キアラさん」


 これが、わたしの一生を変える、彼女との運命の出会いだった。

 


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