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半竜皇女~父は竜人族の皇帝でした!?~  作者: 侑子
第一章

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解放

 男は、懐から奴隷の首輪を取り出した。まだ予備を持っていたらしい。

 

「大人しくこれをつけな。さもなきゃ、ソイツの首輪を爆発させる」

「は……?」

 

 男は、獣人族の女の子を指さしてそう言った。

 しかし、わたしは彼が何を言っているのか、すぐには理解できなかった。

 

「爆発って、そんなことしたら……」

「間違いなく、死ぬだろうな。だから、早めに大人しくしてくれたら助かるんだが。まずはソイツの首を吹っ飛ばして、それでもてめぇが大人しくしないようなら、牢の中にいる奴隷たちを、順番に同じ目に遭わせていく」

「何を……」

 

 彼は何を言っているのだろう。

 

 ……わたしを奴隷にするためなら、何人殺してもかまわないということ?

 

「さぁ、どうする?」

 

 男が獣人の女の子へ手を伸ばす。遠隔操作もできるようで、首輪の模様が赤く光り始めた。

 

「う、あ、あぁ……っ!」

 

 ジュウッと、嫌な音が隣から聞こえてくる。また首輪の熱が上がっているようだ。

 

「やっ、やめてよ!」

「ハハッ、お優しいこって。やめてほしかったら、これを自分でつけるんだな、嬢ちゃん」

「うう……っあ、熱い……!」

 

 辛そうな女の子を見て、わたしはキッとその原因である男を睨んだ。


 ……こいつ、本当に最低だわ!

 

「なんだその目は? フン、やっぱり一人くらいは見せしめにしといた方が良さそうだな?」

「うぅ……っ!」

 

 模様の光が、より一層激しくなった。

 今にも弾けて爆発してしまいそうだ。

 

「わ、わかったから、もうやめて!」

 

 どうせ、首輪をつけられたところでわたしに効果はない。つけるだけつければ油断するだろうから、その後隙を見て壊すなりなんなりすればいい。

 

 でも、わたしの制止に男は耳を貸さなかった。彼は意地悪そうな笑みを崩さずに、彼女へ向けた手を下ろそうとしない。わたしの心を折るためだけに、本当に、彼女を見せしめにするつもりのようだ。

 

「さぁ、自分の生意気な行動の結果を、よく目に焼き付けておくんだな!」

 

 そう言って、男が醜悪な笑みを深めた。

 ……のだが。

 

 ――シュウッ!

 

「…………ん?」

 

 爆発するかと思われた首輪は、爆発しなかった。

 なんだか壊れたようなおかしな音をあげ、赤く光っていた模様が色を失っていく。

 

「……ん? んん!? ど、どうなってやがる!? なぜ爆発しねぇ!?」

 

 女の子の首輪と自分の手を交互に見ながら、男は困惑の表情を浮かべている。なんだかよくわからないけれど、遠隔操作は不発に終わったらしい。それならば、この隙を逃す手はない。

 

「よっせぇーいっ!!」

「ホゲェッ!!」

 

 わたしはハゲ男の顔面に、素早くパンチをお見舞いした。混乱していたからか、隙だらけだったのだ。

 

 おかしな声をあげた彼は勢い良く地面をゴロゴロと転がっていき、止まった先でピクリとも動かなくなった。とてもあっけない。これなら、さっきの髭男の方が強かったくらいである。

 

「ふんだ。こういうのを、自業自得っていうのよね!」


 かなり腹が立っていたので、死なない程度にではあるが、ちょっと強めに殴ってしまった。たぶん、しばらくは起き上がれないだろう。

 

「ボ、ボスがやられた!?」 

「ど、どうなってんだ!? どうすんだよ!?」

 

 ざわざわと、残った男たちが戸惑いの声をあげた。どうやら、ハゲ男がここのボスだったらしい。それならば、他の人たちをやっつけるのも、それほど難しくはなさそうだ。

 

「ヒィッ!」

 

 わたしがぐるりと周囲を見回すと、誰かの怯えたような悲鳴があがった。ざっと見た感じ、二十人くらいいるけれど、みんな腰が引けているような感じなので、きっと大丈夫だろう。

 

「や、やややめろ! お、オレはコイツの主人なんだ! コイツの命がどうなってもいいのかぁ!?」

「うわぁっ! や、やめてください……!」

 

 恐怖に怯えた声が近くから聞こえてきたかと思うと、檻の中にいた奴隷の一人を人質に取った男が、震えながらこちらへ向かって大人しくしろと訴えている。わたしがムッと眉を寄せた時、頭の中に声が響いた。


《大丈夫だよ、キアラ》

「えっ、クロ?」

 

 ポケットに入れていたはずのクロへ視線を向けるが、いつの間にかクロはそこからいなくなっていたようで、ふくらみがなくなっている。

 

 キョロキョロと視線を動かしてクロを探すが、なかなか見つからない。

 

「あっ」

 

 いた。奴隷たちがいる牢の中に、小さな黒いプーニャを見つけた。

 

 ……何をやっているのかしら?

 

 クロは鉄格子の隙間からその小さな体を活かしてするすると移動を繰り返していた。そして全ての檻の中を通ると、素早くこちらへ戻ってきた。

 

《首輪の機能全てを停止させるのは無理だったけど、魔法回路をいじって爆発だけはしないようにできた。ここの人たちの首輪は全部、もう爆発しないから安心して》

「……へ?」

 

 言われたことの意味をしばらくの間考えてみて、ようやくクロが何をしたのか理解できた。

 

 ……クロってば、賢い賢いと思っていたけれど、本当に賢すぎない!?


 魔法回路とかはよくわからないけれど、その場で首輪を解析して爆発しないようにしてしまうなんて、きっと誰にでもできることではないはずだ。だって、魔法使いがみんな魔道具に詳しいわけではないと、母が言っていた。つまりそれって、クロは世界中の魔法使いの、ほんの一握りの人しかできないようなすごいことをしたということではないだろうか。

 

 ……とにかく、クロのおかげで、奴隷の人たちの首輪が爆発する心配はしなくてよくなったってことよね?

 

 わたしはにやりと笑みを浮かべた。そして、「ヒィッ」という情けない声をあげた男たちへ向かうべく、思い切り地面を蹴ったのだった。

 


 ――死屍累々とは、まさにこういうことを言うのだろう。

 

 わたしはばたばたと地面に倒れ伏している男たちを見渡しながら、ふう、と息を吐いた。あとから数人、様子を窺っていたと思われる男たちが現れたせいで、全部で三十人くらいは倒した気がする。さすがに人数が多かったけれど、クロの手助けもあったおかげで、なんとかなった。あと、あんまり強い人もいなかったし。

 

《キアラ。これ、檻の鍵じゃないか?》

「わっ、クロすごい!」

 

 クロが、ハゲ男の服から鍵束を探り当てて、わたしに教えてくれた。

 たぶん鉄格子くらいわたしが力を込めれば壊せると思うが、さすがに少し疲れたので、とてもありがたい。

 

 わたしはその鍵束を使って、全ての檻を開けていった。

 

「みんな、もう大丈夫よ! クロが、首輪が爆発する機能を壊してくれたの。だから、もうお家へ帰れるわ!」

 

 わたしがそう言っても、なぜかみんな、嬉しそうではなく戸惑ったような顔をしている。

 

「……どうしたの?」

「ここから出してくれたことは、ありがとう。あなた、小さいのにすごく強いのね」

「でも、信じられないわ。わたし、あいつらに逆らって首輪を爆発させられた人のことを見たことがあるのよ。あ、あんなふうにはなりたくない……!」

「そ、そうだよ。それに、クロって、そのプーニャだろう? プーニャにそんな能力、あるわけないじゃないか」

 

 ……うっ。

 

 そう言われると、困ってしまう。わたしだって、どうしてクロにこんなことができるのか、さっぱりわからないのだ。説明なんてできるわけがない。

 

「あ、あの……!」

 

 少し震えた声がした方へ視線を向けると、最初に檻から出されていた、治癒魔法を使える獣人族の女の子が、わたしを見つめていた。

 

「あの、つまり、もう無理矢理これを取っても大丈夫ということでしょうか?」

「う、うん。そう……よね? クロ」

 

 女の子の問いかけに、わたしは頷く。そして一応確認するようにクロを見たが、クロはツンとそっぽを向いて、無言を貫いている。

 

「ええと……?」

「あ、気にしないで。クロはいつもこうなの。間違ってたら言ってくれるはずだから、大丈夫ってことなのよ」

「そ、そうなのですか……?」

 

 クロは、出会った頃からこんな感じだ。質問に対して、肯定の時はほとんど無反応なのである。違う時は軽く叩いてくるなり何かしら反応して教えてくれるので、今回はきっと、「そうだよ」という意味なのだ。

 

「あのっ、それなら……この首輪、壊してもらえませんか?」

 

 ザワッと、周囲から動揺の声があがった。みんなはまだ、そんなことをすれば爆発するのではないかと思っているようだ。

 

「わたしは、わたしを助けてくれたあなたの言うことを信じます。でも、自分では外せなくて……」

「ああ、そうよね!」

 

 爆発しないなら簡単に外せると思っていたが、それはわたしの力がちょっと強めだからのようだ。この子は獣人族だけれど、あまり力が強くないらしい。

 

「じゃあ、壊すわね!」

 

 バキッ!

 

「きゃあっ!」

「う、うわあっ!」

 

 わたしが首輪を壊すと、周囲から怯えるような声があがったが、当然爆発などは起こらなかった。クロが大丈夫だと言ったのだから平気なのに、みんな心配しすぎである。

 

「……!」

 

 獣人族の女の子が、首輪がなくなった自身の首元を、信じられないという表情で確認するように触った。そしてわたしの方に目を向けると、くしゃりと顔を歪ませた。

 

「あ、ありがとうございます。本当に、ありがとう……っ」

 

 女の子の目から、ポロッと涙がこぼれた。次々と流れてきて止まらない涙を、ボロボロの服の袖で彼女が拭う。

 

「た、頼む。俺のも壊してくれ!」

「わ、わたしのも……!」

 

 女の子の首輪を壊しても無事だったのを見て、みんな安心したらしい。誰も自分で壊せる人はいなかったようで、全員ぶんの首輪をわたしが壊してあげることになったのだった。

 

 


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