竜人族
……あの時の人だわ!
わたしはキッと男を睨む。
こいつは、わたしの家にやってきた、暴漢たちのうちの一人だ。大きな体格に髭面で、結構強そうだと思ったのでよく覚えている。
「おいおい、鉄の手枷や足枷がぶっ壊れてんじゃねえかよ。嬢ちゃん、まさかこれ、お前がやったのか? 拘束しろってしつけぇから一応繋いどいただけだったってのに、まさか、アイツの言ってたことが正しかったなんてな」
「……?」
一体何の話だろう。アイツとは誰ことなのかわからなくて、わたしは首を傾げる。
すると男は、おかしそうに笑いながら説明してくれた。
「お前の母さんを人質に取った奴のことだよ。ソイツが、お前はただのガキじゃないってうるさく言うんでな」
わたしは、母の首にナイフを当てた男のことを思い出した。怒りが再燃してきて、今すぐにあの男を探し出して、ぶん殴りたくなってくる。
「……ほぉ、たいした殺気じゃねえか。見た目じゃよくわからんが、手枷を壊したことといい、お前、もしかして獣人族なのか?」
「うるさいわね、答えてなんかやらないわ。そっちが初めに乱暴なことをしたんだから、もうファムルの場所だって教えてあげない。あなたたちをやっつけて、わたしはお母さんのところへ帰るんだから!」
すでに壊した鉄輪を見られてしまっているし、この髭男を含め、わたしを攫ったのは、明らかに悪いことをして暮らしている人たちである。そんな人たちが何を言っても、きっと村人たちは信じないに違いない。
わたしは思い切り力をふるうことに決めた。もし後で大変なことになっても、ここから出られないよりはずっといい。
わたしは勢いよく駆け出して、男に向かって拳を放つ。しかし、思い切り殴ってやるつもりだった拳はギリギリで避けられてしまい、同時にわたしが繰り出した腕の袖を、グイッと男に引っ張られた。
「えっ?」
ドカーン!!
わたしは自分でつけた勢いそのままに、壁に叩きつけられてしまった。
「いったた……」
「おいおい。ガキのくせに、とんでもねぇスピードとパワーだな」
男は驚いたような顔をしているが、わたしもかなり驚いた。今までは獣を相手にするばかりで、人と対戦したことなんて、実は一度もない。だから、わたしのスピードを利用して逆に攻撃されるなんて、考えたこともなかった。
……むうう。わたし、実はケンカが弱いのかしら。それとも、この人が強いだけ?
もっと慎重にならないと、この人には攻撃が通らない。わたしは今度こそ攻撃を当ててやると意気込んで、すくっと立ち上がった。
「おいおい、耐久力も並じゃねえってか? こりゃあ、ファムルよりいいもん見つけちまったかもしれねぇな」
ニヤリと、男が嫌な笑みを浮かべる。
なんだかよくわからないけれど、ムカッとしたわたしは、もうそんなふうに笑えないよう、次は絶対にあの口元を狙ってやると心に決めた。
《キアラ、後ろ!》
「っ!?」
バキン!!
頭に響いたクロの声で、とっさに後ろを振り向き腕で防御すると、いつの間に現れたのか、また別の男がわたしに向かって武器を振り下ろしているところだった。
しかし、クロのおかげで防御が間に合ったので、ダメージを受けたのは武器の方だった。男が持っていた剣は、まっぷたつに折れてしまっている。
カランカラン、と折れた剣先が遠くへ投げ出される音が、部屋に響いた。
「……ハァ!? な、なんなんだお前! これ、鉄の剣だぞ!?」
困惑したように折れた剣とわたしを見比べる男のお腹に、わたしはお返しとばかりに拳を打ち込んだ。
「えいっ!」
「ゴフッ……!?」
男はろくな抵抗もできないまま、泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
……よしっ! やっぱりわたし、結構強いみたい!
少し自信を取り戻したわたしは、キッと髭男を見据える。
今度はあなたの番よ、という意味で鋭い眼差しを向けたつもりだったのに、男はなぜか、余裕の表情で笑っていた。
「やっぱり、とんでもねぇ嬢ちゃんだな。せっかく用意したが、ここにある道具じゃ、嬢ちゃんを痛めつけるのは難しいかもしれねえな」
クックッ、と腹の立つ笑い声をこぼす男にわたしが狙いを定めた時、バタバタと近づいてくる大勢の足音が耳に届いた。
……まずい、援軍!?
「兄貴、騒がしいですが、何かあったんで……!?」
間もなく到着した十数人の男たちが、泡を吹いて倒れている仲間を見て、驚愕の表情を浮かべた。
その中に、母に危害を加えようとした憎い相手を発見し、わたしは思わずその男を睨んだ。すると、男はビクッと体を震わせ、焦ったように話し始めた。
「ほ、ほら。だから言ったじゃないですか、ソイツは普通のガキじゃないですって。ソイツがオレを睨んだあの時、まるで……まるで噂に聞くキレた時の竜人族みたいに瞳孔が縦に割れて、オレは動けなくなったんですから!」
……竜人族?
初めて聞く単語だった。世の中には様々な種族が暮らしていると母から教えてもらったけれど、竜人族も、そのうちのひとつだろうか。
でも、わたしは竜人族ではないはずだ。だって母は、わたしの半分は獣人族だと言っていたのだから。
「だが、竜人族は帝国の貴族ばかりのはずだろう? しかも竜人族の男たちは、例外なく愛妻家ときた。俺には到底理解できねぇことだがな。……しかし、そんな奴らでも一夜の過ちってのはあるもんなのかね。嬢ちゃん、まさかお前さん、帝国貴族の落とし胤か?」
わたしは髭男の言葉に、首を傾げた。何を言っているのか、ほとんど意味がわからなかったのだ。
「……おとしだねって、何?」
そう尋ねると、髭男は目を見開いた後、ガッハッハと笑い始めた。
「すまんすまん。俺としたことが、嬢ちゃんにはまだ難しいことを聞いちまったようだな!」
なんだかよくわからないけれど、とても不愉快である。
「この……っきゃあ!」
怒りにまかせて繰り出した攻撃は、またしても単調すぎたようで、わたしの手は髭男に簡単に捕らえられてしまった。その後、グイッと首元に何かを押し付けられる。
――ガチャン!
「……えっ、なにこれ?」
気がつくと、わたしは硬い素材の太い首輪をつけられてしまっていた。わたしには少し大きいサイズの首輪は、石のようにズッシリと重く、所々におかしな模様が入っている。
髭男が、喜びを抑えきれないというように高らかな笑い声をあげる。
「ハッハッハァ! これでお前さんは、俺の言うことに絶対服従するしかない、惨めな奴隷になったってわけだ!!」




