Wピースを掲げた君が、いつかの未来に隣で笑う
「そろそろ観念してください、朝田さん」
「あなた、本当にしぶといねぇ。いい加減諦めてくれたっていいじゃないの」
熱々のとん汁をおそるおそる口に運ぶが、吸った勢いが強すぎたせいで悶絶の熱気が口内を襲った。
べろりと薄皮がむけたのを舌先で触りつつ、急いでお冷で潤していると
「大丈夫ですか」
言葉とは裏腹に真殿が楽しそうな笑みを転がしていた。相変わらずドジだなぁと指摘する口の端には、キムチの白菜がぺたりとくっついている。
言える立場かよ、とは言わない。どうせまた良いように解釈して「よく見ていますね。もしかして見惚れていたとか?」とふざけたことを抜かすに違いない。
そもそもいい年のオッサン捕まえて告白するってのも理解しがたいが、キムチ牛丼片手に色気もクソもない場所で「好きです」って十回目の玉砕に投じる女も理解しがたい。
見ているだけで胃もたれを起こす量だ。健康診断の数値を気にしてヘルシー志向の俺への当てつけかと疑いたくなる。が、真殿は訝しげな視線など気にする様子もない。
「それでどうですか? そろそろ私と付き合う気になりました?」
「ならないねぇ。どこからそんな自信が湧いてくるのか不思議だねぇ」
「こうやって退勤後にご飯を食べてくれるところに勝算を感じています」
ふふんと得意げな真殿にため息を漏らす。
別に好きで付き合っているわけじゃない。馬鹿なほどシンプルな「じゃんけんに負けたら付き合う」ってルールに則って、仕方なく相席しているだけだ。それ以上もそれ以下の他意はない。
「第一ね。俺は古き良き、清楚な女の子が好きなの。時代錯誤でしょ? 君みたいな若い子からしたら許せない思想、」
「好みってだけじゃないですか。それになんだかんだ私のこと好きでしょ?」
「……あのねぇ」
どこからそんな自信が湧いてくるんだよ。
じゃんけんだって毎回グーしか出さないくせにさ。
勝たなきゃ俺とご飯食べにいけないのに。行く気あるのかさえ疑うよ、全く。