4 お膳立て
本気でお膳立てすると心に誓った私。まず大事なのは周辺への根回しね。
私はオルディアと共に働くメイド達を集めた。
「あなた達の協力が不可欠です。もし手伝ってくれるなら、皆さんが困った際には人材開発所と当公爵家が全力で助けることを約束しますよ」
「「「全力でサポートします!」」」
これでよし。
次はアルフレッド様にオルディアと出会ってもらわなきゃね。
アルフレッド様の執務室を訪れると、まずエリック様が駆け寄ってきた。ここは彼の職場でもある。
当初は足を引っ張ってばかりだったエリック様も、十六歳になった現在はしっかり戦力となっていた。身長もずいぶんと伸びて、もう百七十センチを超えているだろうか。
人なつっこい犬のような性格は相変わらずだけど。
「ルクトレア、僕に会いにきてくれたの?」
「いえ、違います、って近いですよ。さりげなく触らないでください」
……いや、相変わらずじゃなかった。近頃やけに積極的になって、おまけに変な色気まで……。
今ではアルフレッド様と人気を二分するほどになっている。
「令嬢方もそんな感じで来られたら平静ではいられませんね」
私の呟きに、エリック様は途端に真面目な顔になった。
「ルクトレアにだけだよ。他の人には絶対にしない」
「そ、そうですか……」
……エリック様、以前の弱々しさは柔らかさに変わってる。かと思えば、急にきりっとしてギャップを利用したテクニックまで。
まったく、たった二年ちょっとで危険な成長を遂げたものだわ。気を付けないと。
そうだ、アルフレッド様を動かしに来たんだった。
その執務机に視線をやると、彼は山積みの書類に忙殺されている。
「仕事しすぎでは? 若くからそんなに働いているとすぐに老けますよ」
「……君もな。公爵令嬢がどこまでキャリアアップする気だ」
「王国主要機関の人事権を掌握したくらいじゃまだまだです。ああ、優秀な文官を手配してありますから、アルフレッド様の方は楽になると思いますよ。あと私の癒しをお分けしようかと。今から行っていただきたい場所があります」
「癒し? 今からって……」
「行かなきゃ周囲を無能な文官に一新しますよ」
「……行くから、絶対にやめろ」
現時点でも王子様を動かせるくらいの権力は握っていた。
私がアルフレッド様を送りこんだのはメイド達の休憩室。ちょうど休憩に入ったオルディアとしっかり出会ってくれたわ。
アルフレッド様の方は王子であることを隠し、二人でたまにお茶をするようになった。
やっぱり相性は悪くなかった、というよりかなり良かったらしい。
メイド達の全力サポートのおかげで必ず二人きりになれるし、これで大丈夫だろう。
……と、たかをくくっていたら、もう半年が過ぎた。
アルフレッド様は毎回嬉しそうに出掛けていくし、オルディアも柄にもなく会う前に鏡で髪を直したりしている。
なのにどうして進展しないの……。
こうなったら、また私が動くしかない。
何か後押しになるいい材料があればいいんだけど。
探し始めるが、これといって見つからず。そもそも恋愛経験のない私には難易度の高い探しものだった。頼ろうにもベアトリスは……、同じくだわ。
二人の様子が気になりつつも、普段の職務はきちんとこなさなければならない。
この頃、アルフレッド様の婚約話が持ち上がってきていた。お相手は浪費家で有名な隣国の姫君。
「誰よ! こんなくだらない縁談を上げてきたのは!」
私は人材開発所の執務机をバンバン叩く。
すると、ベアトリスがため息をつきながらやって来た。ごめん、別に呼んだわけじゃないのよ……。
「暴れないでください。ちょっと拝見します。…………、これはありえないですね」
「ね、私達が通すと思っているのかしら」
隣国の息のかかった人間が紛れこんでいるのは明らかだった。その人もろとも、こんな縁談は私が握り潰して……、
待った、これは使える。
「……通しましょう」
「通すのですか?」
「通す。通すだけじゃなくプッシュするわ。くくくく」
「ああ、なるほど。腹黒い笑い方はやめてください。しかし……、アルフレッド様、お気の毒に」
なんてことを言うのよ、ベアトリス。これはアルフレッド様の幸せのためにやることなんだから。
私は浪費家姫との婚約話を押しに押した。
最も敏感に反応したのはアルフレッド様派の令嬢方。もう大変な騒ぎだったわ。
やがて話は城中に広まり、アルフレッド様本人の耳にも入ることに。
廊下の陰から彼の執務室を見つめる私。
慌てた様子で飛び出してきたアルフレッド様は、一直線にオルディアの元へと駆けていった。
…………、よし。