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おにいちゃん 3  作者: サシェ
5/5

変化



 ルナさんと別れた僕は、そのまま家に帰った。

 玄関に鍵はかかっていなかった。

 日曜日なので、玲子さんと父がいるのかもしれない。

 引き戸を開けて中に入ると、玲子さんが玄関に出てきた。


「お帰りなさい」

「ただいま…」


 玲子さんは僕を見て、首をかしげた。


「お腹空いた?」

「え?」

「なんか、元気ない」

「うん…」


 お腹は少し空いていた。


「何かありますか?」

「ラーメンがあるかも。作ろうか」

「うん…」


 玲子さんは台所に向かい、僕はそのまま部屋へ戻った。


 なんだか疲れていた。

 なんで疲れたのか。

 

 そうだ。きっと、怒ったからかもしれない。

 ルナさんとの会話を思い出した。


 オーダー。

 僕は今の現状を変えたくて、オーダーをした。


 僕、これからどうしたいんだろう。


 鷹也とずっと一緒にいたい。


 考えたら、モヤモヤしてきた。


 どれくらい部屋でボーッとしていたのだろう。

 部屋のドアをノックする音にハッとした。


「翠くん? 入るよ。ラーメンできたよ」


 玲子さんが、ドアを開けて言った。


「大丈夫? ボーッとしてるね」

「玲子さん」

「うん」


 玲子さんがにこっと笑った。


「僕、鷹也が好きなんだ」


 そう言うと、玲子さんが面食らった顔をして、う、うん、知ってるよ、と言ってからドアをそっと閉めて部屋の中に入ってきた。


「何かあったの?」

「考えたんだ。進学か就職か」

「私が余計なことを言ったから…。混乱させちゃったね。ごめんね」

「ううん。玲子さんは悪くないよ。それで、僕は、鷹也に相談したんだ」

「鷹也は何て言ったの?」

「なにも」

「えっ!」


 玲子さんはちょっとびっくりして、鷹也ったら、と呟いた。


「僕、鷹也のこと、最初はとてもこわかったけど、いまはすごく好きなんだよね」

「翠くん…」


 玲子さんは僕をじっと見つめると、穏やかに言った。


「鷹也のこと好きになってくれてありがとう。とても嬉しいわ。翠くんは、鷹也のことどれくらい知っているの? 鷹也は…、あの子は、女の子を好きになれないの」

「えっ?」


 玲子さんの言葉にドキッとした。


「え?」


 もう一度、聞き直した。


「鷹也のお父さんはそれが許せなくて。我慢できなくて。鷹也とたくさんケンカした。それでも、鷹也は、どうしても女の子を好きになることができなかった。だから、私は、前の夫と理解し合うことができなくて、リコンしたの。それで、よかったと思う。だって、いまは翠くんのお父さんと再婚できたし、鷹也が好きだと言ってくれる翠くんと出会えた」

「僕、鷹也を好きでいていいの?」

「うん」


 玲子さんは、少し涙ぐんで笑った。


「鷹也のこと、よろしくお願いします」


 玲子さんは頭を下げると、あっ、ラーメンのびちゃうと焦って言った。


 僕は胸がドキドキして、体が熱くなった。


「ラーメン、部屋に持ってきてあげようか?」


 玲子さんが言った。

 返事をしたか、覚えていない。


 醤油のいい匂いがして、気づくと机の上にラーメンと水が入ったグラス、サラダが置いてあった。


 お腹が空いたから箸をとってラーメンをすすった。


 ラーメンはのびていた。

 味わうとか、熱さとか何もわからず、ただ、ラーメンを食べた。


 水を飲んで、サラダを食べて終えてから、箸を置いた。

 お腹は満腹になっていた。


 無性に、鷹也に会いたかった。


 鷹也の声が聞きたくて、カバンの中に入れっぱなしのスマホを探した。


 時刻は、13時00分を過ぎていた。


 鷹也は、お昼をすませたかな。

 何を食べたのかな。


 連絡して、なにを言う?


 鷹也が好きって、もう一回告白する?


 玲子さんに言ったって、伝えたらどんな反応をするかな。


 想像して、鷹也の焦る顔を思い浮かべて、少し笑った。


 これから先のことはわからない。

 でも、いま、ならわかる。


 17歳の僕は鷹也が好きなんだ。


 ルナさんの言うように、僕は鷹也が好きであることをオーダーしたのなら、それは叶ったことになる。


 でも、僕は高校一年の時からずっと好きだって、わかっていた。

 なにか違うのかな。


 どうして、僕と鷹也はきょうだいになって、家族なのに一緒に住んでいないの?


 鷹也は、犯罪者になりたくないからという理由で家を出た。


 僕は出会った頃より、成長した。

 一緒にいるって、どういうことなんだろう。


 できるだけたくさん、鷹也と過ごしてきたつもりだったけど、まだまだ、足りなかったのかな。


 そうだ。


 オーダーしたのは、僕だけなのかな。


 鷹也は、オーダーしていないのかな。


 ふと、そう思った。

 

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