変化
鷹也とスマホで話してから2日後の夜、そろそろ寝ようかなと思っていると、ドアをノックする音に気づいた。
「はい」
声をかけると、ドアが開いて鷹也が入ってきた。
「あっ。お帰り。早かったんだね。なんでここに?」
嬉しくて僕はかけよった。
鷹也は少し疲れた顔だったが、部屋に入るとバッグを置いて僕をじっと見た。
「元気がなさそうだったから、気になったんだよ」
「ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、声が聞きたかったんだ」
「だから、何かあったんだろ?」
鷹也は優しい。
僕は鷹也の顔を見ただけで安心した。
この前の玲子さんとの会話を話した。
進学するのか、就職するのか。
「そうだったのか」
鷹也は、少し考える顔つきになった。
「翠は、おふくろと話して何を思った?」
「何も。何もなかった。だから、ショックだったんだ」
「何もなかった、か。ま、そうだろうな。頭が真っ白になったんだろうな。で、どうしたい?」
わかんない。
その答えに鷹也は優しく答えてくれた。
「俺も、前にちょっとしたことがきっかけで、どうしていいかわからず、頭がぐるぐるしてしんどくなった時があったんだ」
「うん」
「その時さ、ルナさんがアドバイスしてくれたんだよ」
「ルナ…さん、って、あの事務の人?」
「ああ」
鷹也がにっと笑う。
「聞いてみるか。元気もらえるかもしれないぞ」
僕は、一瞬、ためらった。
「いいのかな。迷惑じゃ」
「たぶん、喜ぶと思う。俺から頼んでおくよ」
鷹也が信用している人なら、お願いしてみたい。
僕はうなずいた。
僕は、ルナさんのことを思い描いた。
変な人、って思ったあの人を。
鷹也が、床に置いたバックを手に持って、部屋を出ていこうとする。
「どこへ行くの?」
「風呂、入ってくる」
「泊まる?」
「うーん、どうしよっかな。風呂入ってから決める」
「泊まってよ。一緒にいたい」
「あー、うん」
鷹也は照れ臭そうに笑って、部屋を出ていった。
僕と鷹也の関係は、ビミョーに変わった。
キスしたのは、一年も前のあの頃だけで、マンションに泊まりにいっても、話をしたり映画を見たりと仲のいい本当のきょうだいみたいになっている。
たぶん、変わったのは僕。
うまくいえないけど。
僕だ、と思ってる。