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おにいちゃん 3  作者: サシェ
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変な人




 変な人だな。

 これが、第一印象だった。


 僕は鷹也が勤める探偵事務所の待合室のソファーに座っていた。


 鷹也が、今日から出張をするのだが、その泊まりセットを忘れたというので、僕が届けに来たのだった。

 すぐに会えるかと思ったが、鷹也は会議中らしく不在だった。


 夕べもずっと一緒にいたのだが、顔を見ておきたかったので、僕は待たせてもらおうと事務所にいた。


 そして、彼女と出会った。


 鷹也よりも年上に見える彼女は、名前を芦田(あしだ)ルナといった。


 見た目はわりと美人に思う。

 眉毛もあるし、化粧もしていて、目は二重。

 体つきは太っておらず、身長も160センチないくらい。

 高校2年生に上がった僕が165センチなので、それより彼女は低かった。


 ルナさんは、僕を見てにっこり笑った。


「お茶とコーヒーとどちらがいいですか?」

「コーヒーでお願いします」

「インスタントですが」

「かまいませんよ」


 僕の答えに、ルナさんはにっこり笑って部屋を出ていった。

 それから、すぐにコーヒーを持って戻ってきた。

 床に膝をついて、お盆に載ったコーヒーを机に置く。


「どうぞ」


 彼女はそれだけ言うと、自分の机に戻り事務仕事を始めた。


「あ、ごめんなさい、仕事をしていますね」


 と、わざわざ僕に謝ってから、あー、また、余計なこと言っちゃったー、と悔しそうに呟いた。


「え?」


 僕はびっくりして、ルナさんを見た。

 彼女はハハハと笑ってから、あー、すみません、大きな独り言です、と言った。


 変な人だな。


 それが、僕の感想だ。

 いや、実は見たときから、どこか変な人に見えていた。


 説明はできない。

 けど、ルナさんはドアを開けた時からニコニコしていて、なんだか気味が悪いと思ったのだ。


 鷹也に後で聞いてみようと思い、コーヒーを飲んだ。

 コーヒーは濃いめの味で美味しかった。

 僕は砂糖もミルクも入れない。

 視線を感じたので顔を上げると、ルナさんが見ている。


「な、何か?」


 思わず言ってしまった。

 すると、ルナさんがずっと笑っていたが、もっと笑顔になって、イヤー、すごーくきれいな顔しているなあ、と思いまして、と言った。


「そうですか?」


 誉められるとムズムズする。

 恥ずかしくてうつむくと、ルナさんが、あー! と言った。


「変なことばかり言ってる。気にしないでくださいね」


 もう、いいよ。

 僕は苦笑して、カバンから文庫本を取り出した。


「あら!」


 再び、ルナさんの声に僕は顔を上げた。


「本が好きなんですね」

「は、はあ」


 鷹也の仕事は忙しいので、待つことが多い。

 スマホで漫画を見るのもいいが、目が疲れるから、本を借りて読んでみたら、意外にも自分は本が好きなことを知った。


「いや、いい。とても、素晴らしいです」

「はあ」 


 なんだか、返事をするのが面倒くさくなってきた。


 推理小説に夢中になっていると、事務所の入り口が開いて、鷹也と父と所長が戻ってきた。


「あ、鷹也!」


 僕が顔を上げて手を振ると、鷹也の目尻が下がって嬉しそうに笑った。


「おう。ありがとうな、(すい)

「いいよ。あ、所長さん、こんにちは」


 所長に挨拶をして、鷹也を見る。

 目が合うと、心があったかくなる。


「わざわざ、すまないね、翠」


 父がニコニコして言った。

 僕は持ってきていた荷物を鷹也に渡した。

 そばにいた父が、


「今日は帰るんでしょ?」


 とのんきに聞いた。


「うん。これから家に帰るよ。宿題もしなきゃ」


 部活は2年にあがってすぐにやめた。

 とにかく、鷹也と一緒にいる時間を増やしたかった。


「今回の出張は、さ一週間もかからないから、帰ったら連絡するよ」


 鷹也が言って、僕は嬉しくて笑った。


 いつの間にか、父と所長は自分の席に戻っていて、僕と鷹也だけがその場に立っていた。


 僕はなんだか急に恥ずかしくなった。


「じゃ、じゃあ、またね」

「おう」


 鷹也は、いつもと同じだ。

 手を振って事務所を出るとき、ルナさんが目のはしにチラリと映った。

 その笑顔は、満面の笑みだった。


 僕は思わず逃げ出すように、そこを離れた。



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