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輝き町友愛銀座商店街  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ)
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輝き町友愛銀座商店街

それでも庭子は背筋を伸ばすことを拒否した。外界から自分を守るには、背中を丸めるこの形が一番いいと思っている庭子は頑固だった。すぐ後ろの席の男子がさっきからちょっかいを出して来る。

太い眉が一本に繋がっていて、何やらお正月の凧みたいな顔をしている男子だ。小さくちぎった消しゴムを、庭子の頭に投げ続けてくる。我慢ならなくなった庭子は後ろを振り返ると、「消しゴム投げないで!」と叫ぶと同時に机をドンとと叩いた。お正月の凧は小さな声で「おっかね」と言った。

担任の泉先生の音楽の時間だった。泉先生は黒板に何か書いていたのだが振り向いて「どうしたのですか?友利さん」と言った。そして強い口調でこう付け足した。

「今は授業中なんですよ!大声を上げたらみんなの迷惑になるんですよ」

「だって先生、海人くんが」(お正月の凧みたいな子の名前が本当にカイトなのだから笑っちゃう)

「クラスのみんなは静かにしていますよ。今のは友利さんが悪いと思う人」

泉先生はチョークを持ったままの右手を上げて、クラス全員を見回した。

一人を除いたクラス全員が手を挙げた。

この時手を上げなかったのは八尾だった。それは庭子の心に残った。

だがこの事が切っ掛けで泉先生はこの先ずっと、八尾のことも問題児と見做(みな)し続けた。

「友利さん、わかりましたね?」

「・・・・・・・・・・・・」

「友利さん、この音符はなんの音ですか?」

ドだとすぐに分かったが、庭子は俯いて背中を丸めた。

「友利さん、分からないなら分からないとおっしゃい」

とうとう泉先生は「お嬢さんのことで、お話があります」と言って母を呼び出した。

そして、庭子に協調性がないことや、友達がいないことなど学校での生活態度を話した。

「この間は授業中急に大声で叫んだんですよ。驚きましたわ」

庭子がですか? なんと言って叫んだのですか?

「いえ、ただ大きな声を出したんですわ。私はお嬢様が心配ですの。学校でクラスのお友達と一言も話さないんですよ」

「・・・・・・それのどこが心配なんでしょう?」

「あらまあ。問題は社会性が無いとうことですよ、お母様。このまま社会に出ても、お宅のお嬢様は社会から孤立することでしょう」

「このまま社会に出てもって、娘はまだ小学校3年ですけど」

「まだまだ年月があると思われるのは仕方がないことですが、時間はあっとう間に過ぎ去って、結局今と少しも変わらない大人になってしまうことはザラです。ですから後悔しないうち、友利 庭子さんの生活を正して行くことが、ご両親の責任かと思います。おうちできちんと躾をなさらないと・・・学校に任せっきりでは無責任すぎやしませんか?」

はあ? 私ども友利家では躾を学校に任せたことはございません。躾をお願いする事もありません。娘が学友とつまらない話をしていないことが分かって、本当によかったですわ。娘が叫んだのには、それだけの理由があると思います。庭子が突然大声を上げた理由は聞いてくださったのでしょうか?」と言った。

母親は意外にも大変な負けず嫌いなのだ。家に帰った母親が庭子を呼んだ。

叱られるのを覚悟していた庭子に母親は

「あんた、学校で口をききたくなければ何も話さなくていいんだからね」と言った。

「え?」

「先生の言う事が変だと思ったら、先生に言いなさい」

いや〜 それは無理というものですよ、お母さん。

「言う勇気がないんだったら、黙っときなさい」

は・・・はあ・・。

そして今、庭子は社会性などかけらもない立派なニートになっているのだから、泉先生はほら見たことかと言うだろう。でも母なら「それが何か問題でも?」と言うだろうなと庭子は思った。なにしろ母は負けず嫌いなのだから。ただし母は自分が勝つために人を使ったりしない。庭子、先生にあんなことを言われて悔しくないの?あんた頑張りなさいなどとは決して言わないのだ。

泉先生がクラス全員の手を上げさせようと煽った事がきっかけとなって、小学校3年の庭子の心に大きな変化が生まれた。それはクラスに自分の側に立ってくれた子がいたという驚きによって初めてクラスメイトを大きな塊ではなく、自分と同じサイズのもう一人がいると言う意識が生まれたのだ。自分対大勢というものではなく、自分と一人一人のみんなに変わった瞬間だった。そしてそのことが、庭子を落ち着かせた。

「友利さん、お背中が丸いですよ。精神がたるんでいる証拠ですよ!物差し入れておきなさい」八尾が泉先生の真似をしても不愉快ではなかった。

「何よ、八百屋のおやおやおやおやのくせに」

「友利、おや多すぎ」

はははははは

このやり取りを見ていた泉先生は、八尾を職員室に引っ張って行った。

一時間経って、滑り台に座って八尾を待ってた庭子に、八尾はちょっと目を細めるようにして笑った。それはいつもよりずっと優しい笑顔だった。

八尾はそれからも相変わらず口が悪く、庭子をからかうことをやめなかったが、庭子は学校へ行く事が脅威ではなくなっていた。


庭子が22歳になろうとする頃。、103歳のめでたき日を迎えた翌日の早朝に、曾祖母のタノちゃんは旅立って行った。

タノちゃんのこの3年間は、ほとんど介護ベッドでの生活だったが、しょっちゅうベッドを上げたり下げたり、頭を高くしてみたりしていた。ある日母親が買い物から帰って来ると、タノちゃんがベッドと一緒にブイの字になっていたので慌てたと言う。











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